セーラー服の反乱分子
割烹スナック「とくとく」。カウンターと小さな卓一つあるだけで、10人も入れば満杯です。小さな店ですが、壁や調度品の色合いは明るく、清潔感があります。
でもやっぱり、飲み屋さんです。そんな場所に、セーラー服の美少女は似合いません。親御さんでも探しに来たのでしょうか。あ、でも客は課長と僕しかいませんでした。課長の娘さん? まさかね。
「はじめまして、お兄ちゃん❤」
髪の毛はロング・ストレート、色はごく薄い茶色、どちらかというとオレンジ色に見えます。瞳の色も茶色なんですけど、こちらはどちらかというと赤っぽく見えます。こぶりの顔に、ぱっちりお目目、ピンクのぷるるん唇・・・ アニメ声もばっちり、もう完璧ザ・美少女です。
「ぼぼぼ、僕なんか、ききき、君と血のつながりなんてないんじゃないかな?」
「あれ~? 自分より年上の男の人を『お兄ちゃん』と呼んじゃいけないのかな?」
右の人差し指を右ほっぺに軽く添え、ちょこんと首を右に傾げました。心臓がトクンと跳ねるのがわかりました。
やっべ、かわえぇえ。あざとい気もするけど、やられました。
「こらナミ、新人さんをからかうんじゃない。そこへ座れ。」課長は僕の隣の席あたりを指さしました。
「はぁーい。」
ナミと呼ばれた少女は、僕のとなりにちょこんとお座りになりました。ふわり、と髪の毛のあたりから、甘い香りがしました。
「この子は、天照那美。人類年齢16歳だ。」
「・・・ 2つ質問があります。まず、苗字がご一緒なんですが、まさか、娘さん?」
「おめえ、なんだその否定を期待しまくりの嫌なツラはよ。そのまさかだよ。ただし、養子だがな。・・・ あ! お前わかりやすいな、なんでホッとしてんの?! 」
「もうひとつ。人類年齢って、どういう意味ですか? まるで違う年齢もあるみたいです。」
「そうなんだよ。那美は、憑依体だ。」
ガタン! 思わず後ろに飛んでしまいました。
「那美は、両親不明、施設に預けられていた子なんだが、2,3歳頃から異常行動が目立つようになって。ペラペラしゃべってさ、自分は『異世界からきた憑依体』って言い出したんだよ。」
「大人たちはそれを『本当のこと』って断定したんですか? 子供のたわごととは・・・ 」
「異世界や憑依の話は、極秘中の極秘だ。今でもそうだろ? 那美は、邂逅ポイントや憑依の仕組みまで、詳しく話し始めたんだよ。那美は即、公安部で面倒みることになった。研究のためにな。」
「・・・・ 」
「那美の話すことで、異世界の研究が進んだ。その成果が、EPPS(Enhanced Psychic Powers System)であり、結界システムであり、諸々だ。で、那美が6歳位になると、あまり話さなくなって、その代わりに赤ん坊がでてきたんだよ。」
「赤ん坊がでてきたって、どういう意味ですか? 産んだ?」
「んな訳あるか。本当の那美が現れてきたんだ。多重人格者が人格を変えたときのように。たぶん、憑依された時から成長してなかったんだな。それからは大変、実年齢に引き上げるまで、教育やら何やら。那美の『精神年齢』・・・ややこしいが、それが実年齢相当になったとき、またスイッチが入ったように、思念体がでてきてさ。それから、代わりばんこというか、那美がでたり、思念体がでたり。共存しているみたいなんだわ。」
「今は、どちらさんで?」
「ナミぴょんだよぉ~ん、お兄ちゃん❤」
「・・・ 教育、実年齢相当まで至ってないんじゃないでしょうか。」
「お兄ちゃん、ひどぉおおい! それ、ナミぴょんがおバカってこと? もぅ、ぷんぷん! 」
あれ、それもウルトラ懐かしいギャグなような・・・
「ははは。思念体がでてきたときは、すぐわかるよ。その思念体こそが、コード『反乱分子』だ。」