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公安省特特課  作者: ひざ小僧
第1章 Mission 001 Wild Boar (猪)
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戦う課長


『結界』は、この世と異世界との間に亜空間を作るというような器用なものではなく、EPPSを装着していない普通の人間からは、結界内の存在を単に見えなくするというものです。したがって時々事故が起こります。


イカレル大イノシシちゃんに、SG信仰会の建物の壁に追い詰められ、かぎ爪でぶん殴られようとしたときに・・・ ウィーン。おばさん達数人が、建物玄関から出てきました。


イノシシちゃんがそれに気付いて動きが止まった一瞬に、僕はEPPSに『飛ぶ』というイメージを送り込みました。スパーン!左横飛びで、おばさん達の群れに体当たり。


キャー! おばさん達が道端に倒れこみます。ごめん、おばさん達! 「何?」「何があったの?」「大丈夫、芳川さん?」「何かがぶつかってきた気が・・・」「何もないわよ? それより、ケガない?」


おばさん達が怪訝な顔で起き上がろうとしているところから、僕は建物の反対側にイノシシちゃんを誘導しました。反対側は・・・ 道路の上だ。途端に、車に轢かれそうになりました。


「あっぶねー。」『グオォオォオ!』車をよけても、イノちゃんパンチが襲ってきます。


日本経済が停滞し、もはや『先進国』とは呼ばれなくなって久しくなっています。突然の話題転換、何が言いたいかといいますと、公共工事の類もめったに行われなくなり、公衆道路の質も30年前に比較し、うんと悪くなっているのが現状です。


つまり、道路は穴ぼこだらけ。僕はその穴の一つに足をとられ、派手に転倒してしまいました。ガッデム!


「ぐふぉっ!」


イノちゃんの大きな大きなあんよが、僕の腹を踏みつけました。メリメリっと嫌な音がします。激痛と猛烈な吐き気が襲ってきました。かすむ目で見上げると、イノちゃんの右腕のかぎ爪が頭上高くふり上げられています。・・・ うわ、もうだめだ、なんて短い社会人人生だろう、たった1日。走馬灯カモーン。


人生の終わりには、過去の諸々のシーンが走馬灯のように浮かぶっていうじゃないですか。走馬灯ってどんなものか実はよく知らないのですが、いずれにしても走馬灯モードは発動しないで済みました。


キャシーーーーン!!


金属がぶつかる音が顔面前でしたので、そろりとまぶたをあげてみると、イノちゃんのかぎ爪が、薄ぼんやりと銀色の光を出す刀身に支えられていました。


「こら新人! 俺が来るまで手を出すなって言っただろ! 」


「課長~~(泣)。遅いにもほどがあるっすよ! 」


バーンと刀を跳ね上げ、イノちゃんのかぎ爪をはじきます。


「予想以上に『なんでもスラッシャー』が売れちゃったのよ! 売上でお前の歓迎会やってやんから、ありがたく思え! 」


イノちゃんが、課長めがけて突進してきました。ひらりと体をかわし、上段から刀を振り下ろしましたが、今度はイノちゃんがかぎ爪で受けます。


この刀は、EPPSで力が増幅された、心裡剣(サイコソード)です。心裡剣は、憑依した思念体に直接攻撃を加えることができます。憑依先の肉体には・・・ちょっとダメージが生じますが、憑依されて人間でなくなるよりはマシってことで目をつぶりましょう。


それはからは、まるで剣劇を見ているようでした。くっついては離れ、離れてはついて、そのたびにかぎ爪と刀が合わさり、強烈な金属音とともに火花が散ります。ただ、剣の舞を踊っているのが、見た目の怖い山のようなイノシシと、ゴマ塩頭の中年おっさんなので、格好悪いったらありゃしないのですが。それにしても課長、メタボ体型の割によく動くなあ。剣道の有段者なんだろうか。


やがて双方の動きが鈍くなり・・・ ぴたりと立ち止ってにらみ合い。イノちゃんも課長も、肩で息をしています。


「チェストーーーーー!!!! 」


古色蒼然たる掛け声を放ちながら、課長がイノちゃんに突っ込んでいきます。課長に向かって横殴りに繰り出された右腕のかぎ爪を刀で受け上方向に跳ね上げ、そのまま左上から右下に向かって(ざん)


さしずめ某国民的アニメのロロノアなんちゃらだったら、『豚ロース薄切り』とかダジャレ混じりの必殺技名をつけちゃうところです。


課長に胸を斬られたイノちゃん、くぉーんとか小動物のような鳴き声を出し、転倒します。斬られた胸の部分から、あの赤紫の煙が立ち昇ってきました。


「ほら、新人、早く! 」


「あ、はいっ! 思念体を拘束します! 」


僕は、ジャケットの胸裏ポケットから万年筆に似た金属製の拘束具を取り出し、赤紫の煙に向けました。万年筆のキャップに相当する部分のスイッチを押すと、赤紫の煙が先端部分から吸収されていき、やがてすべてを取りこんでしまいました。


『指令室、ミッション・コンプリート。結界解除。』課長がため息をつきながら、宣言しました。




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