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公安省特特課  作者: ひざ小僧
第1章 Mission 001 Wild Boar (猪)
3/22

亀裂

EPPSから流れるナイスバディちゃんの声、カウントダウンが続きます。


『10、9、8、7、・・・』


ピキッ


なんでもスラッシャーを買い求めるお客さん達の頭上の空間に、小さな亀裂が走りました。お客さん達は、亀裂に気付かないですし、EPPSで心理能力を高められたものでないと、そうそう見えるものでもありません。



『3、2、1・・・ 発現確認!』


ピキピキッ


亀裂が少し広がって、赤紫の煙のようなものが漏れてきました。そうです、これが『邂逅ポイント』です。


赤紫の煙が一際濃くなり、煙の中がオレンジの火で燃えたように光ったと思ったら、オレンジの光線が亀裂からまっすぐ伸びて、お客さん達の方に向かいます。距離は2メートルくらい。お客さんの一人の頭に当たったと思ったら、ずるんっとその頭の中に吸い込まれて行ったように見えました。ピシャッというような音がした感じがします。


亀裂から抜け出した異世界の『思念体』が、人間に憑依(ひょうい)する瞬間です。髪がぶわっと逆立ち、両目が心持ちオレンジに光ったように見えました。憑依された人は・・・ ピンクのポッチャリおばさんです。憑依が終わると、亀裂もすっと消えてなくなってしまいました。


EPPSを通じて、思念だけで通信します。


『憑依先を確認しました。ターゲットが邂逅ポイントを離れます。追跡します。』


『了解。モニタリングを開始します。』ナイスバディちゃん。


『おい、新人! 販売終了までもうちょっとかかりそうだから、お前先に行け。うまくつないどけよ。』なんでもスラッシャーを販売中の特特課課長。


『なっ! 課長、憑依した思念体より販売が大事ですかっ! 一緒に来て下さいよ!』


『馬鹿言うな、目先の小遣い稼ぎに優先する仕事なんか、この世にない。ターゲットを見失うぞ、早く行け!』


『今の発言、記録してよろしいですか?』 ナイスバディちゃん。


『昇給を約束してくれるならいいぞ。』


『課長、僕今日初日なんですからねっ。なる早でお願いしますよ、もう。』


『はいよ。俺が合流するまで、ターゲットに手出すんじゃねえぞ。』


絶対しませんよ、そんなこと。命惜しいもん。


邂逅ポイント、つまりこの世界に亀裂が生じ、隣り合わせの異世界とつながる現象は、20世紀初頭位から確認されたらしい。思念体なるものが亀裂からこの世界に入り込み、人に憑依する現象は、第2次世界大戦の後に確認されたらしい。21世紀になって、亀裂が生じる頻度が増えたらしい。


「らしい、らしい」って申し訳ないですが、僕の勉強不足もありますけど、政府の一部で極秘裏に研究されていた事象でもあり、確度の低い情報がまだまだ多いのです。また最近になって現れた異世界『思念体』の反乱分子によって解明された事が多いのが実情なのです。反乱分子さんについては、ほどなくご紹介できると思います。


ターゲットは西急デパートを出ると、S谷駅で日石病院行きバスに乗った。某私立大学前のバス停で降りると、割と大きな建物の前で立ち止まりました。


そこは、日本国内で最大級の新興宗教、SG信仰会の東京本部だったのです。




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