接近
日比谷公園の端っこにある公園管理事務所。実は、その地下に公安省特務部が存在しています。そうです、秘密基地そのものです。
久しぶりに部室に入りました。部室は広いスペースに階段状に机が配置され、奥が巨大スクリーンになっています。JAXAとかの、ロケット管制室をイメージするとわかりやすいと思います。
スクリーン前あたりに、いわゆる『指令室』の机がならんでいます。EPPS(Enhanced Psychic Powers System)管理課の面々で、EPPSを通じて部員とコンタクトをとります。特務課係の『ナイスバディちゃん』こと、不二美禰子さんの長くて細くて白いおみ足も健在です。
「おはようございます、不二さん。昨晩の『反乱分子』の情報、何かわかりましたか? 」
「おはよう、エロ君。女子高生と二度もキスした気分はいかが? 」
げげっ! なんでそれを?!
「EPPSなめんなよ。やろうと思えば、音声だけでなく、映像も記録できるんだよ。『反乱分子』さんが数字以外のことをはじめてしゃべったから、急きょ映像記録に切り替えたのさ」
恐るべし、EPPS。誰の目からの映像を記録したんだろう?
「もちろん、特務課のみなさん全員! 再現して、見る? 」
いえ、結構です。
「おはよう、お兄ちゃん! 」
那美ちゃん、来てたのですか・・・ なんか顔を直視できない。照れるなあ。
「お兄ちゃん、昨日のキ・・・ あの出来事、記念にDVDに焼いてもらっちゃった! ネットに動画、アップしようかなあ」
「ばばば、馬鹿なことやめなさい! それは何かの脅迫ですか?! 」
「お兄ちゃんはもう、ナミぴょんの言うことを聞くしかないんだよ、えへ! 」
えへって・・・ 痴漢被害者の気持ちが少しわかった気がしました。そんなことより・・・
「不二さん、話をそらすから・・・ 数字情報から何かわかったんですか? 」
「そうね。最初の数列は、『邂逅ポイント』情報よ。今、位置を画面に出すわ」
カチャカチャカチャとキーボードを叩くと、正面スクリーンに地図が現れました。地図にひょうたんをひっくり返したような形のアイコンが現れ、邂逅ポイントを示しているようです。アイコンをクリックすると、写真が現れました・・・ 学校?
「おはよう、諫凪君。部長から次のミッションがアサインされたわよ・・・ あ、ここよ、ここ! あら、私より早くミッションのこと、聞いてたの? 」
ホワイトシャツにグレーのタイトスカートの百襲主任、スクリーンを見て驚いています。
「いえ、ミッションって何のことですか? この学校は、昨日の『反乱分子』情報による、次の邂逅ポイントです」
「何ですって! そんなことってあるのかしら・・・」
首を捻る主任。
「主任、まさか次のミッションって、ここで・・・? 」
「そう、私立洞純学園。学園長が憑依体の可能性があるの」
不二さんの方を向いて、
「邂逅ポイントはいつ、発現する予測ですか? 」
「今日から1週間後、午前10時頃・・・ 平日だし、生徒がたくさんいるわね」
「学校に爆破予告でも入れて、人を追い出しますか? 」
「あのね、みんな・・・ 」
那美ちゃんが口を挟みました。これもかつて、なかったことにように思います。
「いつもは反乱分子が出てるときは意識がないんだけど・・・ 昨日はちょっと違ったの。今度の思念体は、反乱分子にとって大事な存在なようなの・・・ うまく言えないんだけど、憑依させて、反乱分子に会わせてあげて欲しい・・・ 」
「既にいる憑依体のそばに邂逅ポイントが発現するのは、今回がはじめてじゃないかしら? これも偶然なのかしら・・・ 」
百襲主任、不安そうです。僕は、ある疑問が頭に浮かんできました。
「ちょっと待って下さいよ・・・ 今まで、邂逅ポイントって思念体の方でコントロールが効かないというか、偶然現れるものって考えられてきましたよね。今回偶然じゃないとしたら、思念体がコントロールできるようになったってことですか? 」
「それはわからないけど・・・ 邂逅ポイントで思念体が出現すれば、わかるかもしれないわね。それに、那美さんが言った大事な存在というのも、とても気になるわ」
「じゃあ、穏当な形で、潜入しますか。あれ、課長はどうしたんだろう? 」
「課長のことだから、もう潜入しちゃってるかもね」