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公安省特特課  作者: ひざ小僧
第2章 Mission 002 Praying Mantis (蟷螂)
14/22

接近前夜に至るまで


東京はサラリーマンの聖地S橋にある、訳ありキャバクラ『やんちゃレディース』。勤め始めてから早1ヶ月が過ぎようとしています。


僕が特特課に勤めてから3日目にやんちゃレディースの下働きをはじめてますから、むしろボーイ兼運転手の方がキャリアとして長くなってます。


そんな僕が、特特課の一員であることを忘れずにいられるのは、午前中のお稽古(けいこ)のおかげです。対憑依体用「攻撃技」を獲得するため、金剛流空手道師範の百襲(ももそ)主任のもとに通っています。


相変わらず僕につけ入る隙を見せてくれません。ひっくり返されたり、飛ばされたり。主任のおっぱ・・・ いや、胸の中心やや左寄り、心臓を一突きするというミッションは、この1月成功していません。ナミちゃんも毎朝通ってきます。一緒に稽古をしていますが、僕が百襲主任と稽古をした後はきまって不機嫌になり、「お兄ちゃん、嫌らしい! 」とか言って、ムキになって僕にかかってきます。僕もこの1月、ナミちゃんに一突きすら許してませんが。それにしてももう1ヶ月。至誠会があまり大きくならないうちに攻撃技を習熟しなくてはと、焦る気持ちがでてきました。


百襲主任も至誠会に潜入捜査をしているはずですが、何をしているのか教えていただけません。でも午前中に稽古ができるということは、時間的に夜捜査活動をしているのかなと想像しています。


やんちゃレディースでの仕事は、順調と言っていいほどうまくいってます。レディースの面々の送迎も一度も遅刻したことがありません。もっとも、これは総長はじめホステスの皆さんが、抜け道、回り道にとても詳しくて(さすが元暴走族)、運転手の僕にいろいろとアドバイスをしてくれるので、渋滞にはまるということがあまりないからでもあります。「おら、チンカス、次右だよ、右! 」「お前、左に曲がってんのか、アレ。ぎゃははは! 」とか、品格については首をひねらざるを得ないのが難点です。相変わらず店長には尻を蹴られ続けています。でも、諫凪(いざなぎ)流古武道のエッセンス、「逃げ」を生かして、当たったふりしてうまく足の力を抜いていますので、そんなに痛くありません。


若頭に関する情報収集も、もちろん忘れていません。忘れてはいませんが、成果はあまり芳しくありません。一番若頭に近いと思われる店長に、若頭さんってどんな人? なんて聞けませんし、副店長やホール長が組幹部とどこまで近しいが全然わかりません。意外だったのが、店のホステスさん達が、割と情報ツウだったことです。ちょっとした空き時間や、食事中とか、車の中とか、僕は結構な頻度でおしゃべりの相手をさせられます。


若頭後藤康雄は、店の立ち上げ時から毎月1度は店によって従業員と話をしていくそうです。前回の訪問から1月以上経過したので、そろそろいらっしゃる頃だそうで。イケメン、かっこいい、クール、まぢぱねぇとかの修飾語を除くと、やはりやり手なようで、店の売上もずっと右肩上がり、そろそろ2件目の出店を計画されているみたいです。ホステスがなんでこんなによく知ってんだ? と思うほど、組内部のこともよくしゃべってくれます。若い組員が店に来ることもよくあり、僕の知らないところで食事にいったり、遊んだりしているようです。出る杭は打たれる、若頭一派の急伸を面白く思わないグループもでてくるわけで。老齢の組長に代わり組を取りまとめている組長代理総長と呼ばれる人が、組の守旧派をまとめだしたという噂です。


ある日、僕がホールでモップかけをしていると、お尻をけりつつ、「こっち来い」と店長が事務室に僕を引っ張って行きました。


「おい、喜べ。後藤さんが明日、俺らを食事に連れてってくれるとよ。」


「後藤さんってどなたですか? 」とぼけてみました。


「ん? あぁ、お前はじめてだったっけ。この店の実質オーナーってところだ。食事なんて俺も初めてだよ。店の売上がいいし、俺らを慰労してくれるんだと。」


店長さん、いかついゴリ頭を赤くして、満面の笑みです。ゴリラが風邪ひいたようにしか見えませんが。


「店長さん、『俺ら』って誰ですか? 僕も、ですか? 」


「俺だろ、副店長にホール長、お前とサキだ。明日は臨時休業ね。」


サキというのは、総長さんの源氏名です。なんでも仲間とみた古いドラマをビデオで見ていたところ、「麻宮サキ」というヒロインが暴れるものが面白く、そのヒロインに憧れたそうで、総長自身の命名です。どんなドラマか知りませんが、なんとなく想像がつくので突っ込んで聞いていません。


「は、ありがとうございます。」


うんうん、とゴリ店長、満足そうです。僕にとってもまたとないチャンス、若頭当人と直接対面できることになりました。







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