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公安省特特課  作者: ひざ小僧
第2章 Mission 002 Praying Mantis (蟷螂)
13/22

やんちゃレディース 続き


そろそろ午後5時です。すぐにでも出発しないと、東京都M区S橋にある店に6時までに到着するかどうか、あやしいです。上り路線ではありますが、夕刻は道路が混みます。


「お待たせ、運転手さん♪ 名前、なんだっけ? 」


ほよ? こんな綺麗な人、いたっけ? 年はちょっといっちゃってる感じですが(三十路?)、栗毛をくるくるっと頭の上に盛って、シルキーなドレスに、大粒真珠のネックレス、お目目ぱっちりつけまつ毛、ぷるるん唇に、なんといってもドレスの前を持ちあげ、存在を主張してやまない、いけないメロンちゃん2つ。


「は、はい! さ、佐藤真さとうまことですっ! えっと、どちらさん? 」


「なんかの冗談? さっき話ししたでしょうが。」


あ・・・ 聞き覚えのあるハスキー(酒焼け)ボイス。うっそお。女って、怖ぇえええ。どんだけ化けるの?! 化粧って、すごい。・・・ ふっ。僕、死ぬまで結婚しなくったって、平気な気がしてきました。


「お前ら、仕事行くぞ! 乗り遅れんな! 」


ハスキー姉さんが大声でタコ部屋・・・ならぬ女子寮に向かって呼びかけます。


押忍おす! 総長! 」


・・・ えっと。総長って、なんでしょ?


バンに、ぞろぞろと薄ーいドレスのきらきらお嬢さんたちが乗り込みます。はぁ~。いい匂いがするなぁ。さっきの反吐が出そうなタバコ臭い部屋から、どうしてこんないい匂いの女の子たちが出て来れるんだろう。やっぱ、女って、つくづく怖い。


バンに乗り込んだ女性たちは、さながら竜宮城の踊り子たち、まるでミスコン参加者を会場に運んでいるような錯覚にとらわれます。会話を聞かなければ、ですが。


「オス! 総長! 今日も化粧が決まってやんす! 」


やんすって・・・ 小柄な年若の女の子がハスキー姉さんにおべっかを使います。


「うっせえ、チビ。お前借金返したら、とっとと足洗えよ。」


「はい! ・・・でも、パチンコやめられなくって。」


「ばかやろ、だからって闇金から借金するまでやるんじゃねえよ。今からでも遅くねえ、堅気の男捕まえて、孕んでデキ婚に持ち込めよ。」


「オス! なんとか頑張ります! 」


・・・ 被害者にあらかじめ同情します。


「あのぉ、総長さん、質問いいですかぁ? 」


僕は、運転しながら、ハスキー姉さんに声をかけた。


「あ? 手短に頼むよ、俺、気が短けぇからな。」


似合わない。化粧した貴女は、今人気の清純派女優にそっくりなんです。俺とか言わないでください。


「総長って、なにかの組織のトップだったんでしょうか? 」


「埼玉スペクター、レディースのトップだよ。知らない? バイク乗り、バイク乗り(といって、バイクのアクセルをふかす振りをする。)。はは・・・ 喰いつめちゃってさ、スペクターに残ったどうしようもない不良連中をまるごと、至誠会のキャバクラに引き取ってもらったっていうわけ。」


「・・・ それで、やんちゃレディース。」


「さすがマコちん、頭がいいな! そのとおり! 」


マコちんって・・・。暴走族の女たちをまるごとホステスにするなんて・・・。あのキャバクラ、急造もいいとこじゃん。


いやあ、それにしても、こんな『やんちゃ』な連中、普通のお客さんの相手が務まるんだろうか。


埼玉から東京に入るときに、少しの渋滞にはまりましたが、それ以外は順調に流れて、からくも午後6時前にレディースの女の子たちを店に送り届けることができました。


「おら! お前は店内とトイレの掃除! 」


帰るなり、店長にまた尻を蹴られました。はじめから割れてるのはわかってますが、横に切れ目が入って、4つになっちゃいそうです。


狭い店内にソファーがたくさんあるという感じで、掃除自体はすぐに済んでしまいました。


食事を出すわけもなく、乾きもののかきの種やら豆やらするめやらを小皿に小分けして、準備しておきます。タバコも足りなくなった銘柄を買い足しておきます。


副店長、ホール長と称する男性2人も入店しました。副店長もホール長も、意地悪そうではありますが、一目みてやっちゃん、というほど崩れた感じはしません。結局、ペーペーの下働きは、僕一人ってわけです。


午後7時。ホール長が、大きな声で、「はーい! 今からお客さんの来店でーす!! 」と叫ぶと、「お待ちしてましたー!! 」とレディース達が1オクターブ高い声で答えます。


副店長、ホール長と僕は、いわゆるボーイ服に着替えております。お客さんが、ぽつぽつ入りだしました。


気のせいでしょうか、お客さんがみんな、気弱そうな感じがします。


ホール裏、事務室には、ホワイトボードがかけられています。ボードにホールの席の見取り図が描いてあり、女の子の名札のついた赤のマグネットと、お客さんをあらわす黒のマグネットを置いて、客数の把握と女の子の配置が人目でわかる工夫がしてあります。黒のマグネットを置くと、横にマジックで小さく来店時間を書きいれます。時間制だから、このメモが大事なんですね。



しばらくすると、ほぼ満席状態になりました。僕は水割りを運んだり、灰皿取り換えたり、ホール長の指示に従い女の子の配置を変えたりと、かなり忙しいです。


「こら、てめぇ! 昨日来るって約束してたのによぉ、なんで来ねえんだよ! ウラウラ! 」


気がつくと、総長さんがお客さんにヘッドロックをかけてます。あ、注意しなくてはと思い近づくと・・・


お客さん、総長さんのメロンに顔を埋める格好になって、なんだか嬉しそうです。


「はい、すみません、今日はおわびに同僚をたくさん連れてきました。」


同僚さんたちも、レディースの女の子に小突かれたり、煙草に火をつけろと命令されたりしていますが、みんなニヤニヤと嬉しそうです。


そうか。ここはM男たちのパラダイスなんだ。



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