第1話:追われる2人
漆黒の闇、その闇の幕を支える様に何本ものビルが建ち並んだ都市の一角を、一台の黒い車が闇に溶けるようにして走ってゆく。
車の中には12〜13位の女の子と、ハンドルを握るその女の子の母親らしき女性。その母親らしき女性は額に汗を浮かべ、バックミラーをチラチラと頻繁に確認しながら車を走らせる。女の子もその空気を敏感に感じとり、前後の座席の間に隠れる様に身を縮めている。
そうして二人を乗せたまま、車はビルの谷間をまっすぐに走り抜けてゆく。
不意に車がスピードを落とし、路肩に停車した。
母親がサイドウィンドーを開けて見た視線の先には、もう一台の黒い車がひっそりと停車していた。
車から男が出て、2人の乗る車に近付いてくる。
「マイク、待たせてごめんなさい。」
マイクと呼ばれたその男は、軽く微笑した。
「こっちも例の番号を手に入れるのに多少手間取ってしまってね、ついさっき来たところだよ。マキ」
「危ないことにわざわざ協力させてしまって悪かったと思ってるわ。でも私たちに着いた枷を取るにはこれしかないのよ。」
「あぁ、わかってる。僕も君とリサを助けたくて参加したんだ。」
リサと呼ばれた女の子は警戒心を解き、座席の隙間から顔を覗かせる。不意にマイクと目が合い、恥ずかしさからかまた顔を隠したが…。
「ところで例の番号を教えてちょうだい。私たちが施設を出てから時間が経っているし、奴等ももう追って来る頃だわ。リサ、端末に入力してちょうだい。」
リサはうなずき、携帯電話程の大きさの機械を取り出した。
「わかった、番号は…。」
マイクが言いかけたその時、マキは車を急にバックさせた。その勢いでリサは機械を落としてしまった。
リサはその時、バックミラーに移る光を見つけた。
それは言うまでも無く、施設から抜け出した2人を追う邪悪な意思を持った光だった。