戦術スキルが『おしくらまんじゅう』? 〜無能と捨てられた元凡人コーチ、ルールを定義して最強の騎士団を育てる〜
攻撃魔法も聖剣技も使えない。授かったのは、指定した範囲に「奇妙なルール」を強制するだけのハズレスキル『規律化』。
無能として辺境に追放された元少年サッカーコーチが、素人だらけの弱小騎士団を「戦術」だけで最強に導く爽快ファンタジー。
「攻撃魔法も、まともな剣技もなし。固有スキルは……『規律化』? なんだその地味な能力は。我が家系に戦えない役立たずは不要だ!」
大貴族の父から冷酷な言葉を突きつけられ、僕は着の身着のままで辺境の荒野へと追放された。
僕の前世は、少年サッカーのコーチだった。
スター選手のような華々しい才能はなかったけれど、子どもたちに「空間の使い方」や「戦術」を教えることだけは誰にも負けない自信があった。
そんな僕がこの異世界で授かった『規律化』。
これは、僕が指定したエリア内に「独自のルール」を設定し、その中にいる人間に強制するだけの、一見すると戦闘には全く役に立たない能力だった。
「……いや、待てよ。これ、使いようによっては最強の戦術兵器になるんじゃないか?」
*
追放された辺境の村で、僕は行き場のない若者たちを集めて小さな「防衛騎士団」を結成した。
集まったのは、剣も握ったことがない農家の息子たち、わずか十人。
そんな彼らに、近隣の山賊団が小競り合いを仕掛けてきた。
その数、およそ五十。
まともにぶつかれば、数秒で全滅する圧倒的な戦力差だった。
「お、おい、団長! 敵が突撃してくるぞ! どうするんだ!?」
「みんな、落ち着いて僕の指示通りに動いて。陣形は『コンパクト・ブロック』。全員で固まって、絶対に隙間を空けないで」
怯える団員たちを中央に密集させる。
それを見た山賊の頭領は、下卑た笑い声を上げた。
「ハハハ! ひと塊になって怯えてやがる! 包囲して一網打尽にしろ!」
山賊たちが僕たちを取り囲むように、一斉に群がってきた。
前世のサッカーでいう、全員がボールに群がってしまう「おだんごサッカー」の状態だ。
敵の全員が、僕の視界の中に収まる。――射程圏内。
「――スキル『規律化』、発動。エリア指定、僕を中心とした半径五十メートル」
キィン、と頭の中にシステム音が響く。
「ルール定義――『集団行動の不利益』。これよりこのエリア内において、半径二メートル以内に三人以上の人間が密集した場合、その者たちの『身体能力』および『魔力』を九〇%カットする」
――ガクンッ!!
次の瞬間、勢いよく突撃してきた山賊たちの動きが、まるでスローモーションのようにピタリと止まった。
お互いに距離を詰めすぎて「密」になった者たちが、突然、自分の体重すら支えられなくなって地面に膝をつく。
「な、なんだ!? 急に身体が重く……っ!?」
「馬鹿な、魔力が練れねえ!?」
山賊たちはパニックに陥った。
彼らには僕の作った「ルール」が見えていない。
ただ、本能のままに群がった結果、勝手に自滅しているのだ。
「よし、みんな。敵の動きが止まったね。僕たちのルールはこうだ」
僕は味方の団員たちに、あらかじめ仕込んでおいたルールを告げる。
「味方ルール定義――『ディレイ・アンド・カバー』。一人につき、敵一人をマークする。お互いに五メートルの『適切な距離』を保って戦う限り、攻撃力と移動速度を三倍にする」
一歩引いて、空間を見出だした我が騎士団の少年たち。
彼らの身体から、爆発的な銀色のオーラが立ち上った。
「いけっ! 空いているスペースに走り込んで、一人ずつ確実に仕留めるんだ!」
「う、おおおおお!」
さっきまで素人だったはずの団員たちが、恐ろしい速度で荒野を駆け抜ける。
群がって身動きの取れない山賊たちを、適切なディスタンスを保った騎士たちが、まるでチェスの駒を動かすように鮮やかに、一網打尽にしていった。
「ば、化け物め……! どんな魔法を使ったんだ!?」
腰を抜かした山賊の頭領が、震えながら僕を睨みつける。
僕はただ、戦術ボードを見るような冷徹な視線で彼を見下ろした。
「魔法なんて使っていませんよ。ただ、ゲームの『ルール』を変えただけです。密集したら負けるゲームで、群がったあなたたちの戦術負けです」
*
わずか十分足らずで、五十人の山賊団は壊滅。
味方の被害はゼロ。
呆然と立ち尽くす団員たちの中で、僕は静かに手帳に次の戦術メモを書き込む。
「次は、相手のパスラインをカットしたら威力が上がる『インターセプト・ルール』でも試してみるか……」
力押ししか知らない異世界の脳筋騎士たちを、現代の戦術理論でハメ殺す。
辺境の無名騎士団が、世界最強の「戦術軍隊」へと駆け上がっていく伝説は、ここから始まるのだった。




