神楽耶は全てを見抜いた、はずだった
シリーズ短編、神楽耶編です。
「見抜いているはず」の者から見た、あの男。
「どんどん焼くからどんどん食えよ!」
ユージはいつものように、魔物肉を焼いて皆に振舞っていた。
ユージア国名物バーベキュー祭りだ。
「これはな、ホルモンって言うんだ。美味いぞ」
「ほー、ホルモンとな?どれどれ、わらわも少し頂こうか」
「おー、神楽耶。皿持って来たか?」
「もちろんじゃ」
そう言って差し出した皿に、ユージが肉を盛る。
「なんと、不思議な味よの」
「噛み切るのが大変じゃが、噛めば噛むほど旨味が口の中に広がる」
「そうだろ?俺も大好きなんだ」
「ちなみに、ホルモンってのは、放る物、つまり捨てる物っていう意味でさ」
「まあ言ってみれば廃棄物の再利用さ」
「なんと、これほど美味いものを捨てておったのか?」
「不思議だろ?美味い、安い、酒にも合うって三拍子揃ったすぐれもんなのにな」
「確かにな。しかしまあそもそも魔物の肉自体が廃棄物じゃったしの」
「そうだよな。それはともかく、今はこの肉を楽しもうぜ!」
気付けば、空は茜から藍へと変わっていた。
宴の喧騒が、ゆっくりと静まり返っていく。
焚き火の火は小さくなり、残り火が赤く揺れていた。
その少し離れた場所で――
神楽耶は、一人、月を見上げていた。
「……妙な男じゃ」
(あやつだけが、なぜあれを理解できる?)
ぽつりと呟き、杯を傾ける。
先ほどのやり取りを思い返す。
⸻
◆回想
焚き火の前。
肉が焼ける音。
煙と香り。
そして――
「そなたの焼いたワイバーン肉は、廃棄部位を活用した“再生料理”じゃ」
あの男は、軽く肩をすくめた。
「いや、ありあわせで焼いてるだけなんだが」
「……」
神楽耶はその時、違和感を覚えた。
⸻
さらに。
「廃棄物の呪いを浄化し、資源循環の理を取り戻す」
ハミータの説明。
戦場。
飢え。
再利用。
犠牲。
すべてを語り終えたあと――
神楽耶は、あの男に問いかけた。
「逆に、おぬしならばどうしたと思う?」
あの男は。
少しだけ、考え。
そして――
「悪かった」
それだけを言った。
否定も、肯定もせず。
ただ、受け止めた。
⸻
◆現在
「……あやつは」
神楽耶は、目を細める。
「否定せなんだ」
善でもなく。
悪でもなく。
正義でもなく。
ただ――
「現実として、受け止めた」
風が吹く。
火の粉が、夜空に散った。
「それが出来る者は、少ない」
多くの者は、正しさを語る。
あるいは、感情で断ずる。
だが、あの男は違った。
「理屈でもなく、感情でもなく」
「ただ、“回す”ことを選ぶ者」
神楽耶の中で、点と点が繋がる。
焼き。
廃棄物。
再利用。
人の集まり。
すべてが――一つの像を結ぶ。
無駄が一つもない、奇妙な構造として。
「廃棄されるものを拾い上げ」
「価値へと変え」
「再び流れに戻す」
あの男は、無意識にそれをやっている。
料理でも。
現場でも。
人の関係でも。
「……まるで」
神楽耶は、小さく息を吐いた。
「この世界そのもののようにな」
一拍。
静寂。
そして――
「ならば」
神楽耶の目が、わずかに鋭くなる。
「あやつは、循環そのものか」
言葉にした瞬間。
自分でも、その結論に納得する。
強大な力ではない。
支配でもない。
だが確実に、流れを変える存在。
「危うい男じゃ」
だが同時に――
「……面白い」
くすり、と笑う。
その時。
後ろから声がした。
「何やってんだ、こんなとこで」
振り返ると、ユージがいた。
手には、まだ焼きかけの肉。
「肉、まだあるぞ。食うか?」
「……うむ」
神楽耶は頷いた。
少しだけ間を置いて、言う。
「のう、ユージよ」
「ん?」
「おぬしは……」
言いかけて、止める。
そして、代わりにこう言った。
「……いや、なんでもない」
ユージは首をかしげた。
「変なやつだな、お前」
そう言って、肉を差し出す。
神楽耶はそれを受け取り、一口食べた。
「うむ、うまい」
「だろ?」
ユージは満足そうに頷く。
そして、何でもない顔で言った。
「まあ、もったいないからちゃんと使ってるだけだけどな」
――その一言で。
神楽耶の中で、組み上がった何かが。
ほんの少しだけ。
崩れた気がした。
「……」
だが。
神楽耶は何も言わなかった。
ただ、もう一口、肉を食べる。
(やはり)
心の中で呟く。
(分からぬ男じゃ)
だが――
口元は、わずかに緩んでいた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
神楽耶視点でした。
「見抜いたつもりで外す」という立ち位置、個人的にかなり気に入っています。




