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産廃屋のおっさんシリーズ

神楽耶は全てを見抜いた、はずだった

掲載日:2026/05/02

シリーズ短編、神楽耶編です。


「見抜いているはず」の者から見た、あの男。

「どんどん焼くからどんどん食えよ!」


ユージはいつものように、魔物肉を焼いて皆に振舞っていた。


ユージア国名物バーベキュー祭りだ。


「これはな、ホルモンって言うんだ。美味いぞ」


「ほー、ホルモンとな?どれどれ、わらわも少し頂こうか」


「おー、神楽耶。皿持って来たか?」


「もちろんじゃ」


そう言って差し出した皿に、ユージが肉を盛る。


「なんと、不思議な味よの」


「噛み切るのが大変じゃが、噛めば噛むほど旨味が口の中に広がる」


「そうだろ?俺も大好きなんだ」


「ちなみに、ホルモンってのは、放る物、つまり捨てる物っていう意味でさ」


「まあ言ってみれば廃棄物の再利用さ」


「なんと、これほど美味いものを捨てておったのか?」


「不思議だろ?美味い、安い、酒にも合うって三拍子揃ったすぐれもんなのにな」


「確かにな。しかしまあそもそも魔物の肉自体が廃棄物じゃったしの」


「そうだよな。それはともかく、今はこの肉を楽しもうぜ!」


気付けば、空は茜から藍へと変わっていた。


宴の喧騒が、ゆっくりと静まり返っていく。


焚き火の火は小さくなり、残り火が赤く揺れていた。


その少し離れた場所で――


神楽耶は、一人、月を見上げていた。


「……妙な男じゃ」


(あやつだけが、なぜあれを理解できる?)


ぽつりと呟き、杯を傾ける。


先ほどのやり取りを思い返す。



◆回想


焚き火の前。


肉が焼ける音。


煙と香り。


そして――


「そなたの焼いたワイバーン肉は、廃棄部位を活用した“再生料理”じゃ」


あの男は、軽く肩をすくめた。


「いや、ありあわせで焼いてるだけなんだが」


「……」


神楽耶はその時、違和感を覚えた。



さらに。


「廃棄物の呪いを浄化し、資源循環の理を取り戻す」


ハミータの説明。


戦場。


飢え。


再利用。


犠牲。


すべてを語り終えたあと――


神楽耶は、あの男に問いかけた。


「逆に、おぬしならばどうしたと思う?」


あの男は。


少しだけ、考え。


そして――


「悪かった」


それだけを言った。


否定も、肯定もせず。


ただ、受け止めた。



◆現在


「……あやつは」


神楽耶は、目を細める。


「否定せなんだ」


善でもなく。


悪でもなく。


正義でもなく。


ただ――


「現実として、受け止めた」


風が吹く。


火の粉が、夜空に散った。


「それが出来る者は、少ない」


多くの者は、正しさを語る。


あるいは、感情で断ずる。


だが、あの男は違った。


「理屈でもなく、感情でもなく」


「ただ、“回す”ことを選ぶ者」


神楽耶の中で、点と点が繋がる。


焼き。


廃棄物。


再利用。


人の集まり。


すべてが――一つの像を結ぶ。


無駄が一つもない、奇妙な構造として。


「廃棄されるものを拾い上げ」


「価値へと変え」


「再び流れに戻す」


あの男は、無意識にそれをやっている。


料理でも。


現場でも。


人の関係でも。


「……まるで」


神楽耶は、小さく息を吐いた。


「この世界そのもののようにな」


一拍。


静寂。


そして――


「ならば」


神楽耶の目が、わずかに鋭くなる。


「あやつは、循環そのものか」


言葉にした瞬間。


自分でも、その結論に納得する。


強大な力ではない。


支配でもない。


だが確実に、流れを変える存在。


「危うい男じゃ」


だが同時に――


「……面白い」


くすり、と笑う。


その時。


後ろから声がした。


「何やってんだ、こんなとこで」


振り返ると、ユージがいた。


手には、まだ焼きかけの肉。


「肉、まだあるぞ。食うか?」


「……うむ」


神楽耶は頷いた。


少しだけ間を置いて、言う。


「のう、ユージよ」


「ん?」


「おぬしは……」


言いかけて、止める。


そして、代わりにこう言った。


「……いや、なんでもない」


ユージは首をかしげた。


「変なやつだな、お前」


そう言って、肉を差し出す。


神楽耶はそれを受け取り、一口食べた。


「うむ、うまい」


「だろ?」


ユージは満足そうに頷く。


そして、何でもない顔で言った。


「まあ、もったいないからちゃんと使ってるだけだけどな」


――その一言で。


神楽耶の中で、組み上がった何かが。


ほんの少しだけ。


崩れた気がした。


「……」


だが。


神楽耶は何も言わなかった。


ただ、もう一口、肉を食べる。


(やはり)


心の中で呟く。


(分からぬ男じゃ)


だが――


口元は、わずかに緩んでいた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


神楽耶視点でした。

「見抜いたつもりで外す」という立ち位置、個人的にかなり気に入っています。

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