5 6/2 雨の日スープ(リコ)
朝から雨だった。
ぽつ……ぽつぽつ。
やがて、ざあーっと本格的に雨が降って来る。
村までの道はぬかるみ、だれも通らない。
蜂蜜屋も、今日ばかりはお客の来る気配がなかった。
「ひま……」
窓におでこをくっつけながら、リコが外をにらむ。
雨を見ながら、何度もため息をついていた。
「ひまひまひま……」
父親が奥から、うっとうしそうに声を出した。
「店番をしていろ」
「お客なんか、どこにもいないじゃん!」
図星を差された父親は、何も言い返せない。
「……」
沈黙。
気まずい空気が店の中に生まれた。
しかし、それも長くはつづかない。
ぐぅううう……。
かわいらしいお腹の音が鳴った。
リコからだった。
父親が振り向く。
「朝ごはん、食べただろ」
「食べたけど……雨の日はお腹がすくの!」
雨の日に限らず、退屈な日はお腹が減る。
お腹がすいたせいで、余計に雨を強く意識してしまった。
ざぁあああ。
雨の音がうるさい。
「……」
ざぁあああ。
耳をふさいでみても、余計に雨音がうるさく聞こえるだけだった。
むかっ腹。
貧乏揺すりをしていれば、しばらくして店の扉がぎいっと開いた。
旅人だ。
「わっ」
思わず、リコが声を出す。
マントはびしょびしょ。
髪からも水がぽたぽたと、したたり落ちている。
「すみません。……雨宿り、いいですか」
「えっと……」
自分では判断できない。
リコは父親のほうを向いた。
父親が苦笑しながら、うなずいている。
「ど、どうぞ」
リコがそう言うと、初めて旅人はほっとしたように息をついた。
じいーっと、リコは旅人に視線を送る。
相手が子供だからか、それとも凝視されることに慣れているのか。旅人に気を悪くしたそぶりは見られない。
(寒そう……)
同じ感想を父親も抱いたようで、厨房のほうへと向かった父親が鍋に火をかけていた。
ぐつぐつ。
ほどなくして、カウンターのところにも匂いが漂って来る。
振り向いたリコが目をまあるくした。
「何それ」
「野菜スープ」
「えっ?」
「昼飯だよ」
出来上がったスープを父親が見せてくれる。
湯気がふわっとリコの顔にあたった。
にんじん。
じゃがいも。
玉ねぎ。
ケアロナ。
鍋の中のスープは2人分にしては多いようだった。
父親が3つの椀を取り出す。
「食えよ」
父親が旅人に声をかける。
旅人は驚いた顔をしていた。
「えっ? いいんですか?」
「こんな雨の日じゃ、良いも悪いもないだろう」
肩をすくめて父親が話す。
リコはひったくるようにして、父親から木の椀を受け取った。
ふわぁあああ。
持っているだけで、じんわりと手のひらに熱が伝わって来る。
「あったか……」
ずずず……。
一口すする。
次の瞬間――喉を通った食材の熱が、お腹から全身に伝わっていく。
「うわぁ!」
リコが叫ぶ。
父親は驚いていた。
旅人も驚いていた。
「どうした」
「体の中に火がついた!」
リコが椀を抱きしめる。その拍子に、こぼれたスープが旅人の顔に跳ねた。
「あちちちち」
「雨で寒かったのに、全部消えた。すごい!」
大げさに話すリコに、父親が苦笑を浮かべる。
「ただの野菜スープだよ」
きらきらと目を輝かせながら、リコがスープをすする。
そんなリコを見て、父親も思い出したように昼食を取りはじめた。
ざぁあああ。
外ではまだ雨が降っている。
でも店の中は、湯気と、スープの匂いと、小さな笑い声で満たされていた。
「雨の日もいいね」
椀を抱きしめながらリコが話す。
「そうかもしれないですね」
外を見ていた旅人も、小さくうなずいた。
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