2 2/3 初雪を見る(ラルク)
冬の朝。
王都の空は、いつものように灰色だった。
郵便配達人のラルクは、重たい鞄を肩にかけて歩く。
「寒いな……」
吐いたそばから息が白くなって顔から離れていく。
ラルクはそれを見て、少しだけ笑った。
「王都の冬は、やっぱり慣れないな」
港町出身のラルクにとって、冬が寒いという当たり前の事実さえもまだ受け入れがたい。
足を進めるラルクに、横からパン屋の女主人が声をかけた。
「おや、ラルク! 今日は一段と早いじゃないか?」
「おはようございます。マルタさん」
少しだけ手間だったが、帽子を外してきちんとあいさつを返す。マルタは気のいい女主人だ。できれば失礼な態度は取りたくない。
「今朝は雪になるかもしれないねえ」
マルタの言葉に、ラルクは首を傾げた。
「雪……ですか?」
これにはマルタが首を傾げる番だった。
「……あんた、まさか雪を知らないのかい?」
「はい。自分は港町で生まれたもので、冬が寒いことさえ王都に来るまで知りませんでした」
「もしかして南国の……」
「そうです、そうです」
マルタと話しているときだった。
ふわりと、白いものが空からラルクのもとに落ちて来る。
完全に足を止めたラルクが、目の前で舞う白いものを注視した。
「……?」
それはすぐに、別のところにも降って来た。
もう一つ。
また一つ。
白い粒が、ゆっくりと落ちて来る数を増やしていく。
反射的に手を伸ばし、そのうちの一つを手のひらで捕まえた。
「冷たっ」
子供のようにふるまうラルクを見て、マルタは笑いながら正体を教えてやった。
「それが雪だよ」
「これが雪」
「そうさ」
しばしの沈黙。
そして、次の瞬間にラルクは叫んでいた。
「うおおおお!!!!」
何事かと、マルタの旦那が大慌てで起きて来たが、ラルクの姿を見ると、すぐさま興味を失ったように寝床へと戻っていった。そんな旦那を後ろから、マルタがぶっ飛ばす。
「これが雪なのか! すげえ!」
両腕を広げ、ラルクは落ちて来る雪を全身で浴びた。
「持って帰らなきゃ」
ラルクは慌ててポケットをまさぐった。雪を包むための道具を探したのだ。
そんなラルクに、マルタは笑いながら首を横に振る。
「必死に集めたって、溶けてしまうよ」
「えっ!? そんな……」
せっかく故郷の家族にも見せてやれると思ったのに。
想像していなかった事態に、ラルクはしょんぼりと目の前の景色を見つめた。
「その代わりに雪には、別の使い道があるのさ」
そう言ってマルタが家の一角を指さす。
そこでは早起きをした子供たちが雪玉を作って、お互いに投げ合っていた。
「あれは……」
「雪合戦だよ」
「……。雪合戦?」
ぽかんと呆けた顔を浮かべるラルクに、子供たちがにやりと笑った。
「こうやるんだよ!」
ぽすっ。
丸めた雪をラルクへと投げる。それはラルクの胸に命中した。
しばしの沈黙。
自分の身に何が起こったのかわからないでいたラルクだったが、フリーズが解除されると、すぐさま自分も雪玉を作っていた。
「こういうことですね!?」
ぽすっ。
子供たちへと雪玉を投げ返す。
きゃっきゃと子供たちは笑って逃げだした。
空からはなおも雪が降っている。
ラルクは静かに独り言ちた。
「……今日は、いい日だな」
いつもよりも配らなければならない手紙はたくさんあった。
だが、今日は楽しい一日になる。ラルクはそんな予感がしてならなかった。
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