1 8/22 はじめての蜂蜜(リコ)
店の棚には、金色の瓶がずらりと並んでいた。
太陽の光が当たると、瓶はまるで宝石みたいにきらきらと光る。
リコは椅子に座りながら、じーっと瓶を見つめていた。
「ねえ、お父さん!」
奥で作業をしている父親の背中に声をかける。
「なんだ?」
「蜂蜜って、どんな味?」
少しだけ考えてから、父は言う。
「……。甘いな」
「それくらいなら、リコも知っているよ!」
リコは店のカウンターに突っ伏した。
「知りたいのは、どれくらい甘いのかってこと」
父親は困ったように笑う。
「うーん……そうだな、太陽みたいに甘いかな」
「……。意味わかんない」
父親の返事にすっかりとふてくされたリコは、明後日のほうに視線を向ける。
そのときだった。麓の村に住むおばあさんが、店に入って来たのだ。
「こんにちは、リコちゃん。今日も店番かい? 偉いね」
「いらっしゃい!」
店番を任されているのはリコだ。リコは元気よく立ち上がってあいさつをする。
いつものように、おばあさんは蜂蜜を一瓶だけ買った。
そして、帰り際にくすっと笑うと、手招きをしてリコを呼んだ。
「話し声が聞こえて来ちゃったからねえ。店番のお礼に、ちょっとだけ分けてあげるよ。内緒にするんだよ」
小さな木のスプーンに、買ったばかりの蜂蜜を垂らしてくれた。
金色の雫が、スプーンの上でゆっくりと揺れている。
リコは店の入り口で、すっかりと固まってしまった。
「えっ……。えっ!?」
あちゃーと、おばあさんは額に手をあてる。リコがあまりに大きな声を出したため、父親が何事かと様子を見に来てしまったのだ。
「食べてごらん。ご厚意を無駄にするな」
父親に促され、やっとリコは恐るおそる口を開いた。
ぺろり。
スプーンの上に軽く舌を這わせる。
次の瞬間――口の中に知らない甘みが広がっていた。
「お父さーーーーーん!!!!」
店の外にまで響くほど、リコの声は大きかった。
父親はびっくりしていた。おばあさんは気絶していた。
リコは、がしがしと店の扉を叩く。
「何これ!? すごい! 何これぇえ!」
父親はそんなリコを見て、呆れたように笑う。
「これが蜂蜜だよ」
「めちゃくちゃ甘いね!」
瓶よりもきらきらと顔を輝かせるリコを見て、我に返ったおばあさんも釣られて笑った。
「そうだね。おいしいね」
リコが空を見上げる。
「たしかに太陽だ……」
父親は自慢げに胸をそらせた。
「だから、言っただろう?」
リコは静かに決意する。
「太陽っておいしいんだね……。あたし、いつか太陽を全部食べるよ」
それから2年後、3日間だけ太陽が失われたとか失われていないとか。
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