第七十九話 前哨戦
「……」
名前も分からない獣人の女の子を乗せた檻を馬車が引いていく。
俺達は程なくして出発し、森の中を歩いていた。町から村や他の町へ移動するための道はあるので、歩きにくいと言うことはない。だが、獣人の子は進むたび顔を青くして俯いている。
――総勢三十人。
それがゴブリンの群れを討伐するのに集まった冒険者の数だ。
本当はもっと欲しかったそうだが、緊急なので城下町のユニオンから募るのも難しいらしい。
で、とりあえず今いる戦力をかき集めたとか。俺以外はだいたいパーティを組んでいて、先程のゴウリキのような奴でも。
「へっへ、成長すればいい女になりそうなのに残念だな」
「どうせゴブリンの中に放り込まれたら死んじまうだけだし、休憩の時楽しませてもらいたいな、がははは!」
ガシャガシャと檻を揺らしながら下卑た笑いをあげるゴウリキのパーティ。
どう考えてもおっさんが少女を手籠めにしようとする図しかみえない……俺の考えが見透かされたのか、サンがボソリと声をあげる。
「……ロリコン」
「誰だ!? 今、俺のことをロリコンって言ったやつあぁ!」
大声をあげるゴウリキ。すかさずコトハの後ろに隠れるサン。そこで俺がゴウリキに声をかける。
「別にあんたのことを言っている訳じゃないと思うが、なにか心当たりでもあるのか?」
「う、ぐ……な、なんでもねぇよ!」
ガシャンと檻を蹴飛ばして前へ出ていき、慌ててメンバーも追いかけて行った。
「良かったな」
俺は檻に目を向けると、ジトっとした目で俺を見たあとふいっと顔をそむけた
「ありゃ……うーん、なんか嫌われている?」
嫌われる程話した覚えはないが、触らぬ獣人にはなんとやら。俺は檻から離れてニド達の元へ戻ると、ニヤニヤ笑いながらアルが肩を叩いてくる。
「わははは! いいねカケル、あいつの顔見たか? レッドスライムみたいに真っ赤だったぜ! なあ、サン」
「……ぐっ。ロリコンは敵」
アルの視線の先を見ると、サンがコトハの後ろに隠れながら親指を立てていた。ノリはいい子なのかもしれない。
「まあ、可愛い子ではあるがな」
「む。ごにょごにょ……」
「ぐあ!? コトハ、やめろ!?」
ニドが獣人の子を可愛いと言った瞬間、コトハが不機嫌になり怪しげな呪文を唱えた。するとニドが頭を押さえて苦しみだす。なるほど、この二人はそういう関係か。
「リーダー、あんまり迂闊なこと言うとコトハが拗ねるから気をつけてくれよ? オレ達にとばっちりがきたら困るぜ?」
「うぐ、俺ならいいってのか……」
「そりゃ、恋人でしょうが」
「ふん」
賑やかなパーティで悪くないと思いながら、雑談をしながら進む。
ちなみに檻を引いているのはユニオンの職員で、ユニオンマスターのイクシルと並んでクリューゲルが歩いていた。
「なあ、あのクリューゲルって人はどういう人なんだ?」
気になって俺がドアールに話しかけると、陽気な彼にしては珍しく言い淀んだ。
「……あの人か……オレも詳しくは知らないんだけど……」
何かいいかけた時、ニドが手をひらひらさせながら言う。
「やめとけやめとけ。詳しく知らない俺達が言っていいことじゃない。知りたいなら直接聞いてみた方がいい」
「そうだな」
ま、凄く気になる訳ではないし、とりあえず今はゴブリン退治が先決か。隠れてスマホで時間を確認すると、昼を回っている頃だった。
「結構歩いたな……」
俺が呟くと、待ってましたと言わんばかりにイクシルが全員に向かって止まれと声をかけてきた。
「報告によると、目的地までまだかかる。一旦食事休憩を取るから各自休んでおけよ。一時間後に出発だ!」
合図でそれぞれ座りやすい場所や木陰を探しに散り、俺も適当な石に腰掛けた。
カバンから食料を取り出し、あまり重いものは食べないほうがいいだろうと思いリンゴやパンといったもので済ませる。
遠目ではブルーゲイルのメンバーも食事を広げて仲良く話しているようだった。休憩中、特に襲撃を受けたりすることもなくゆっくり休ませてもらった。
再び移動を開始し、さらに奥へと進んだところで空気が変化したことに気付く。
「ん? ……嫌な感じがするな」
「この辺は道があるけど、そこまで人通りが多い場所じゃないから魔物が出やすいんだ。その気配だな。というかレベル七だって言ってたけど本当? そのレベルでもう気配を悟れるんだ」
アルが道の脇にある草むらをダガーでガサガサしながら俺の呟きに答えてくれた。
魔物の縄張りではないが町に遠い所に魔物が集まりやすいようだ。するとクリューゲルが槍を構えて森の方を見据えていた。
「なんだ……?」
俺もそっちへ目を向けると、草むらから小さな人影が飛び出してきた!
「ゴブリンか! 気をつけろ、数が多い」
「指図するんじゃねぇ! おぅら!」
クリューゲルが先制してゴブリンの脳天を一撃で貫き、ゴウリキに飛び掛かったゴブリンは斧で首を飛ばされた。一応、口だけじゃないみたいだな。
「≪縛鎖≫!」
「グエ!?」
「動きが止まったな、こいつめ!」
コトハの呪術で体をびくんと震わせたゴブリンはニドによって脳天を割られ絶命する。
その後ろにはドアールと斬り合うゴブリンと、杖を抱きかかえたサンがもう一匹のゴブリンの前をウロウロしていた。あれはマズイか? そういや、アルは? と思っていると、ゴブリンの腕と足に矢が突き刺さる。
「サン、やっちまえ!」
「……ええーい!」
ゴツン、と鈍い音がしてゴブリンが気絶すると、木の上から矢を撃っていたアルが飛びおりて、心臓にダガーを突きたてた。
「グランツ達よりは強いかな? おっと!」
よそ見していた俺に草むらから飛び出てきたゴブリンが剣で斬りかかってきた。
俺は軸をずらして回避し、槍の背をゴブリンの腹に叩きつけて間合いを取った。
「グギャ!?」
「悪いな、討伐させてもらう!」
がら空きの頭を刺し貫いて絶命させ、続けて別のゴブリンを探す。視線を動かすと、ゴウリキの背後に一匹振りかぶるヤツがいた。
「危ないぞ! ≪炎弾≫!」
「ギェェェ……」
「チッ、余計なことを……うお!?」
ゴウリキが毒づくが、ゴブリンの猛攻の前に先程までの勢いがなくなってきた。
前に出過ぎて囲まれたみたいだな。それでも五体倒しているのは凄いが、ここはもうあいつらのテリトリー。
いつもと同じ感覚だと痛い目を見るってところを教えてくれる。俺がフォローに入ろうとしたが、その前にクリューゲルが切り開いてくれた。
「はあ!」
「グゲ!」
「ギャア!?」
「す、すまねぇ……」
「一旦下がるんだ、向かってくる奴だけ叩くぞ」
おう、カッコいいな。あっちは大丈夫か、なら他のパーティを……
「~! ~!!」
「キケケケケ!!」
ガッシャンがッシャン音がしていたのでそっちを見ると、檻を揺らしながら歓喜の声をあげるゴブリン達がいた。
獣人の女の子を見て舌なめずりをしており、足元には職員や冒険者が倒れている。
さらにイクシルがゴブリンに押されていたりと苦戦していた。
「案外頭がいいな!」
戦力が集中したところで、別働隊が弱いところから崩す感じだろう。ゴウリキ達がおびき寄せられた形で、こいつらは確信をもって動いていたのかもしれない。
「たありゃぁ!」
檻に組みついたゴブリン達を串刺しにして群れに投げつけると、やつらは少し怯み、様子をみるようにジリジリと動く。
「む、新人か、あっちは?」
「ブルーゲイルとクリューゲルがいるから多分大丈夫だ、手伝うぞ」
「ならこいつらを回復させてやってくれんか? 雑魚でも戦力は多い方がいい」
なるほど、嫌みな奴だがマスターだけあって冷静だし頭は回るか。
だが、目の前のゴブリンはまだ二十ほどいる。こっちは俺を含めて十人程度。
回復した端からボコられそうなので、俺は魔法を使うことにした。
「先に何匹か潰してからそうしよう」
「なんだと?」
イクシルがなにかを言う前に、俺は魔法をゴブリンの群れへ放った。
「≪地獄の劫火≫」
<威力まいるどバージョンです♪>
ナルレアがいらん横槍を入れるが、構わずぶっ放す!
「え?」
冒険者が気の抜けた声をあげた瞬間、着弾と同時に大爆発を起こした!
「ギィエギェ!?」
「ギャァァァァ!」
「……!?」
「――!」
何匹か逃がしたけど、場にいたゴブリン達は跡形もなく消滅した。
「な、なんだありゃ……」
「フッ、やはりな」
ゴウリキ達が相手にしていたゴブリン達も慌てて退散し、森に静けさが戻る。
「お、お前は一体……」
「ふう、なんとかなったな。あれ? どうしたんだ、ボーっとして? おお、そうか回復してやらないとな」
なぜか呆然としている冒険者達を尻目に、倒れていた奴等をヒールで回復していく。全員回復させた後もイクシルが呆然としているので、俺は声をかけた。
「おい、回復は終わったぞ? どうするんだ、あいつらを追うか? それとも少し休むか?」
ハッとしたように俺を見て、イクシルは眼鏡をくいっと上げてから声をあげた。
「あ、ああ……一旦ここで休憩とする! まだ怪我人がいれば回復魔法を使える者に頼むかユニオンの薬を使え!」
まあやっぱり休むよな。それぞれ腰を降ろしたりしているので、俺はニド達のところへ戻る事にした。
「お疲れー、いやあニド達、強いな! 見てたけどいい連携だよな!」
「……カケル一人でゴブリンをぶっ飛ばしておいてどの口が言うんだよ!?」
よく見ればみんな目を丸くして俺を見ていた。あれ? もしかしてまたやっちゃったか……?




