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俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?  作者: 八神 凪


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第六十九話 レムルの目的とティリアのひと芝居

「お、お前はレムル……どうしてこんなところに!?」


 満を持して登場したのはなんとレリクスの婚約者候補であるレムルだった。

 さっきのセリフを聞く限りリファとルルカに着いて来たようだが、一体どういうつもりなんだ?


「どうしてもこうしてもありませんわ。あなたを探していたのですよ? もう罪人では無くなったので戻って来るものだと思い、ウェハーの町で燃える瞳の皆さんと待っていました。けど、一週間経っても戻って来ないのでこうして探しに出た次第ですの」


 レムルはやれやれと言った感じで腰に手を当ててため息を吐く。だが、俺は首を振って言った。


「……俺は戻るつもりはないぞ? ソシアさんの件は片付いたし、グランツ達もお金を稼いだ。だから俺はこのまま旅に出るつもりだ」

「な、なんですって!? ……あの眼鏡っ子はどうするのです? あなたが居なくなってからずっと泣いていましたよ。戻ってあげてはどうです? それにわたくしも――」

「いや、俺が居たらまた妙なことに巻き込みそうだし止めておくよ。あいつらは着いて来てくれると言っていたけど、普通に冒険者稼業を続ける方がいいと思うんだ。トレーネやグランツによろしく言っておいてくれ。ユーキ、鉄板を取り戻したぞ!」

「ま、まだ話は終わっていませんわよ!」


 俺はレムルから目を離して横でボーっとしていたユーキに声をかける。するとハッとして俺のところへ走ってきた。


「さすが兄ちゃんだ! 早く戻ってたこ焼きを売ろうぜ!」

「ティリアにもお礼をな?」

「姉ちゃんもありがとう!」

 

 ユーキがぺこりと頭を下げるとティリアはにっこりと笑いながら返す。


「礼には及びません。それより早く戻ってたこ焼きを作ってくださいませんか? もちろん私が本日最初のお客さんということで」

「うん! それじゃ母ちゃんの所へ戻ろう!」


 ユーキが駆け出したので俺も歩き出す。と、そうだ。


「レムル、この貴族を知っているか?」

「あら、あまりいい噂を聞かないオルドウ子爵ではありませんか。どうしてこんなところに?」

「こいつと、この町の子供がさっきのユーキって子に嫌がらせといたずらをしていたらしくてな。新商品のたこ焼きの鉄板を盗み出したところを突きとめてさっきとっちめた」

「とっちめたって……まあいいですわ。あなたと先程の子の証言があれば家宅捜索ができそうですし、ツォレ!」

「は」


 レムルが合図をすると、陰からサッとツォレが出てきて貴族を縛り上げた。


「うお!? びっくりした……居たのかよ」

「ふん、気付かない方が悪い」

「子爵を詰所へ連れて行きなさい。わたくしもカケルさんと話をした後に追います」

「お一人でですか……? いえ、魔王様が二人いるなら大丈夫でしょう」


 そう言ってツォレは軽々と小太りの子爵を抱えて去って行った。聞き分けが良くなった気がするな。


「俺からはもう話は無いぞ?」

「わたくしはあります! いつのまにか女性を三人も連れているなんて納得がいきませんわ! どういうご関係かしら……?」

「え、いやボクはそちらの光翼の魔王様のお供だけど……」

「私もだ」

「ではカケルさんとは関係が無いと?」

「そうだね――」

「いえ、カケルさんは私と旅に出るのです」

「え!? 昨日、もう諦めたってもがもが……」


 ルルカが口を出そうとしたがティリアが塞いで話を続ける。


「世界は今、徐々に蝕まれつつあります。その原因を探るため私はカケルさんを探していました。そして、他の魔王と協力して世界を救うため旅に出るのですよ」

「……本当ですの? 世界が蝕まれるなど初耳ですけど……」

「おい、その話は断っ――」


 俺が止めようとすると、今度は俺の口を塞ぎながら耳打ちをしてくる。


「(シッ。どうやらカケルさんはあの女性のところへ戻りたくないようです。ここはひと芝居打ちませんか?)」

「(どういうことだ?)」

「(このまま私と旅に出ることにしておけば追ってくることはないでしょう? そして適当なところで別れればよいではありませんか)」


 ふむ……確かに悪くないかもしれない。

 魔王同士の旅となればあまり強くも言えないだろうし、危険だからと遠ざけることもできそうだ。


「あ、あーら、そんなに体を密着させて、随分と親しいようですね?」

「フフフ、私とカケルさんは魔王ですから、通じ合えるところがあるのですよ」


 そう言って俺の腕に手を回し不敵に笑うティリア。それを見たレムルがギリギリと歯噛みしながら俺に言ってくる。


「わたくしたちのところを離れてから一週間と少しでもう新しい女性を……! トレーネさんが可哀相ですわ!」

「いや、待て!? 俺達はそういうんじゃないぞ!? それにトレーネとは付き合ってたりしてないから別にいいだろ!」

「いーえ、女心を弄んだ罪は重いですわ!」

「じゃあどうするのかな?」


 と、今度は傍観していたルルカが目を細めて笑いながら逆の腕に絡みついてくる。挑発するのはやめろぉ!?

「ま、まさか貴女も……」

「どうかなー? でも、ボク達と旅に出るから……分かるよね? だから、レムルさんだっけ? カケルさんが好きなのは分かったけど、諦めて欲しいかな。それとトレーネって子にもカケルさんは旅に出たって伝えておいて?」

「おい、ルルカ、レムルはレリクス王子の婚約者だぞ。俺を好きなわけがない」

「だ、誰が誰を好きですって……! しかもカケルさんもボンクラなことを……」


 レムルが顔を赤らめたり青らめたりとせわしなく変化するのを見てリファがおろおろしながら二人に言う。


「お、おい、ルルカ……お嬢様も……それ以上は……」

「よろしいですわ! そこまで言われてこのレムル、はいそうですねと下がる女ではありませんの。勝負です!」

「え、あれ? おかしいな……ここは悔しがってどこかへ行くパターンじゃ……」


 ルルカが焦りながらポツポツと呟いていると、ティリアが鼻を鳴らして叫びだす。


「いいでしょう! カケルさんは渡しません、たこ焼きを食べる前の運動にはさっきの戦いは物足りないと思っていたところです」

「いつから俺はお前のものになったんだよ……」


 しかし俺の呟きはレムルとティリアには届かず、ティリアはレムルと睨みあう。

 俺から離れると広い場所へと移動した。ここはもの寂しい港の倉庫街なので、人的被害はきっとないのが救いか。


「魔王様、恥をかく前におやめになられた方がいいのではありませんか?」

「言いましたね? 安心しなさい、私は慈悲深いのでそこまで言われても命までは取りません」


 うわあ……怖い……レムルも魔王相手にあの啖呵……ってそういえば魔王を倒すとそのまま次の魔王になれるとか言ってたっけ。そう考えたら喧嘩を売ること自体は不思議でも無いのか。


「うふ……うふふふ……」

「オーホッホッホ……」


 異様な空気に包まれた緊張の中、それは始まった……!


「≪氷傷≫!」

「≪光の槍よ≫!」


 お互いの魔法が発動し、それぞれの相手に襲いかかる。だがティリアの魔法は明らかに強くレムルの魔法を撃ち消した上で彼女へダメージを与えていた。


「くぅ……!」

「フフフ、魔王相手にその程度で挑もうとは甘いですね」


 やはり魔王だけあってティリアの魔力は高いらしい。学院ではソシアさん以外は強者だったレムルが押されていた。

 魔王の戦いを見るのは今後の役に立つかもしれない……となるとこの戦い目が離せない……! そう思っていたところで先に戻っていたはずのユーキが舞い戻ってきた。


「兄ちゃん! なに遊んでるのさ、お客さんいっぱい並んでるよ! 手伝って!」

「おお、マジか。それじゃちょっと行ってくるわ」 


(のこのこと近寄ってくるとは間抜けですわね!)


「え!? それじゃボクも行くよ。見ていても仕方ないし。手伝えることがあるかな?」 


(叩きましたね!? えい!)


「わ、私も……」 


(痛っ!? わたくしは素手でしたのに、ロッドで叩くとは……!)


 リファが言おうとしたところでルルカがそれを遮った。


「リファはお嬢様のお目付け役だから見届けてよ? 終わったら呼びに来て。ケガしたら回復魔法を使うからね」

「う……わ、分かった……」


 肩を落としてリファは争う二人へと向き直った。ちょっと嫌そうだ。

 とりあえず彼女に任せて俺達は屋台へと歩き始める。チラリと後ろを振り返ると――


「早く負けを認めなさい、小娘!」

 「大して歳なんて変わりませんわよ! この! この!」


 ああ……魔法合戦になるかと思いきや、いつの間にか醜い争いに発展していた。

 マウントの取り合いになっている。ティリアも魔王なのに子供っぽいからな……見た目のままと言えば怒るだろうが。



 ――さて、ひと暴れしたら腹をすかして帰ってくるだろう。美味しいたこ焼きを焼いて待つか。俺はため息を吐きながらそう思った。

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