第六十六話 タコ焼きの実力
――あなたが探していた新しい魔王なのですね!
俺の頭の中をぐるぐるとその言葉が駆け巡る。
何故、どうして、Why、この目の前にいる銀髪少女は俺を魔王だと知っているのか……
「人違いです。さ、次のお客様がお待ちなのでどいていただけますか?」
「え!? そ、そんなはずはありません! 今、確かにタコ焼きのパックを通じてビビってきました!」
「今、魔王って……」
「あー! マーボー!! マーボーって言ったんだよ! マーボー豆腐旨いもんな!」
「豆腐って何でしょうか……?」
藪蛇だ!?
この世界に豆腐はなかったか!? 今の発言で周りもざわついてきたしごまかさないと。
……しかしこの子は一体どういうつもりなのだろう……確かに俺もびびっときた。
あれは静電気じゃないのか?
しかしこのまま店先に居座られてもたまらないので、俺はそっと耳打ちをした。
「(とりあえず今は魔王ってのを口にするのをやめてくれ。それにお客さんも待っているし困る。話は後で聞くから今はちょっとだけどいてくれないか?)」
「(分かりました。逃げないでくださいよ?)」
「(……分かった)」
とりあえず話はまとまり銀髪の少女はパックをもって仲間らしき人達のところへと向かった。
むう、あの子も可愛かったが二人とも美人だな……ベレー帽の子は好みかもしれん……
「兄ちゃん! お客さん待ってるよ!」
「お、おお……あ、はい一パックですねー」
「……こちらもどうぞ、焼き上がりました」
なぜかユーキがむくれて声をかけてきた
俺は紙でできたパックにノーラさんが焼いたたこ焼きを入れてソースをかけ、お客さんに渡していく。
少女のことは一旦置いておき、とりあえずの状況を説明しておこう。
まず、たこ焼きとから揚げを食した後、俺は二人に店をやらないかと提案した。
ユーキはタコを手に入れるのが容易で、小麦粉もそれほど高くない。
となるとお金の無い二人にはちょうど良いと思ったからだ。鉄板は俺がお金を払ったが、この二日でそれを取り戻すのが目標だったりする。
売れなかったらそのままでも良かったが、今朝から屋台を出したところまずまずの滑り出しだった。
食材を見せないで売るのは後からクレームになりやすいため、タコを桶に入れて見せたり、試食をしてもらったりと工夫を凝らしている。
<私が考えました>
うん、ありがとうな。
で、屋台は古いが鍛冶屋のおっさんのツテでタダで譲ってもらい、俺が昨日の夕方から夜までかけて改造した。
そして俺がおっさんに頼んだのは、ユニオンの販売許可だった。
聞けば、屋台を出すにはアドベンチャラーズ・ユニオン(この港町フルスにもあった)で申請をする必要があるとのこと。
お尋ね者(仮)の俺が一緒に行けばとっ捕まってしまう可能性が高いので、おっさんに付き添ってもらったというわけだ。
なお、ユニオンに登録すれば新しい商品や商売はその人が創設者として扱われるため、他の人が真似ができないようになっている。
許可を取れば同じ商売はできるけど、売上の何%かは創始者に支払われる仕組みというのも中々ありがたいシステムだったりする。
売上金はいくらだったか月で申告しないといけないから誤魔化しは利かない。
ちなみに創始者は俺で、代理でおっさんにカードを出してもらった。なので真似する輩がでれば俺にお金が入ってくるという――
まあおっさんには他にもやって欲しいことがあるわけだが……と、思っていたらおっさんが列にならんでいたらしく目の前に現れた。
「よう、やってんな! タコのから揚げくれよ」
「昨日あれだけ食べたのにまだ食うのかよ……」
「へへ、お前の依頼料もたんまり入ったしな! 酒だ酒! 店が終わったら来るだろ?」
「ああ……ちょっとお客さんを連れて行くかもしれないがいいか?」
「あん? 構わんぞ?」
「はい! おっちゃん!」
「お、頑張ってるなユーキ。おお、あちち……じゃあまた後でな!」
おっさんがたこ焼きとから揚げを一つずつ持って立ち去り、その後も繁盛に繁盛を重ねて夕方前には材料が無くなってしまった。
「また明日お願いしますねー!」
「……お願いします……」
買えなかった人も多数いたようだが、この勢いも恐らく最初だけだ。
今後、一日でどれくらい稼げるかは未知数だな。
ただ、現時点ではタコ焼きはオンリーワンなので完全に赤字になることだけはないと思っている。
「売れたな……」
「うん……俺、こんな大金初めて見たよ……」
「……うう、本当にいいんですか……? この屋台があればあなたがずっと稼ぎ続けることだってできるでしょう……?」
「……まあ、宗教に身をゆだねられるよりはよっぽどいいからな」
「これがあればそんなこと、しません……でも、なんとお礼をしていいのか……」
最初に見た時より少しいきいきした表情になった気がするな? ユーキのために宗教に入ろうとしたくらいなら、これで頑張ってくれると信じたい。
「それじゃ片づけて帰ろう。何か美味い物が食いたいなぁ」
「うん! 肉! 俺、肉が食べたい!」
「それじゃ肉にするか、まだ陽は高いし店は開いているだろうし買い物だ」
屋台をガラガラと引き始めたところで、俺は袖を引っ張られる。
「お、何だ……?」
すると先程の銀髪少女が頬を膨らませて立っていた。
「……置いていくとは何事ですか……ずっと待っていたのに……やっぱり逃げる気でしたね?」
完全に忘れていた。途中までおっさんに『客を連れていくかも』とか言っておきながら、このザマだ……!
「悪い、忘れてた……とりあえず屋台を片づけないといけないから一緒に来てくれ。そっちの二人も、かな?」
すると、えっちな体をした剣士? と、ふわっとしたベレー帽の女の子は頷いた。
「姉ちゃん、いつまで兄ちゃんの袖を掴んでるんだよ! 困ってるだろ?」
「あ、す、すいません……」
ユーキが銀髪少女にぷりぷりと怒りながら手を払うと、慌てて俺から離れた。
……やれやれ、面倒なことにならないといいけど……
◆ ◇ ◆
「俺は上に行くからな。てか、お前はなにを作っても美味いな……」
「おやすみ、おっさん。悪いけど工房を借りるよ」
「気にすんな、お前なら悪さしねぇだろ……」
俺は銀髪少女一行を鍛冶屋へ連れて帰り、屋台を収納。
ユーキの自宅だと盗まれたり、壊されたりする可能性があるのでここに置かせてもらえるよう頼んだのだ。
今は二人もステーキを買って家へ帰っているだろう。
今日の売り上げはたこ焼きだけで五百パックくらい売れた。
だいたい二十万セラである。タコは朝一でなんか四匹くらい獲れたからこの数を出せた。余ったのは氷魔法で冷凍中である。
から揚げは見た目の問題かそれほど売れなくて、だいたい十万くらいだ。
そして売上金はなんとユニオンで預かってもらえた。
銀行みたいな受付に魔力で本人確認をする装置でお金のやり取りができる優れもので、強盗の心配もクリアした。
……余談だが、こっそり変装して、俺もチェックすると、生前地球で貯めていた貯金が俺の口座に入っていたのは内緒だ。
アウロラの仕業、だろうな……金額は……と考えていたところで、銀髪の少女がずいっと前へ出て口を開いた。
「……コホン。夕食をありがとうございます。まずはお礼を言わせてください」
「ああ、ついでだったしな。金もあったし。っと、そういや名前もまだだったか、俺はカケル。知ってるみたいだから言うけど一応、魔王らしい」
すると少女は微笑んでから自己紹介を始める。
可愛い顔をしている。身なりもいいしどこかのお嬢様だろうなどと考えていると、衝撃的な言葉を発した。
「ええ、それは分かっています。私の名前はウェスティリア。世を忍ぶ商家の娘は仮の姿……私は『光翼の魔王』ウェスティリアです」
ニコッと笑い、首を傾げる。
いや、商家の娘とか知らないけど……いや、今コイツなんて言った!? 光翼の魔王って言わなかったか!?
「光翼の魔王、って言ったか……?」
「はい♪」
「(お嬢様テンション高いな)」
「(そりゃ目当ての人物を引き当てたから嬉しいでしょうよ。ちょっと冴えない感じはしますけど)」
聞こえてるぞ、可愛い人。
しかし、こちらから会いにいくつもりだったが向こうからやってくるとは……本物かどうかまだ分からないが、俺の目的が一つ終わったことだけは分かった。
しかし、この出会いが俺の旅の本当の始まりになるとはこの時はまだ全然、まったく、これっぽっちも思ってなかった。




