第五十九話 おっさん剣士の実力と修行
おっさんにビーフシチューを食われてしまったので朝は目玉焼きとおにぎり、そして味噌汁に生野菜を食べることにした。
しかし朝っぱらから動いたのでこれだけでは足りないと思い、薄切りにしたボア肉を使ってこの世界だとセイユ……いわゆる醤油焼きをタマネギと共に焼いた。
「便利なスキルかもしれん……」
一口食べてみると味がしっかり整っていた。これはもしかするとひと商売できるスキルかも……!
<魔王なのにセコ……みみっちいのではありませんか?>
「言いなおしても酷いな!?」
戦わないで稼ぐ。
それもまたアリだろ? と、胸中で呟きそろそろ食べようかと顔をあげるといつの間にかおっさんが近くによってきていた。
「うおお!?」
「おう、それも美味そうだな……。俺の分は?」
「さっき誰のビーフシチューを食ったんだっけ!? 足りないのかよ……」
仕方なくおにぎりと目玉焼き、ボアの醤油焼きを取り分けておっさんに渡してやると、凄い笑顔で戻って行った。
「いただきます、と」
「いただきます」
同時に手を合わせて食事が始まる。結局なんだかんだで居座っているおっさんに話を振ってみることにした。
「おっさん、急がなくていいのか?」
「あん? ああ、急ぎじゃないから問題はねぇ。呼びつけられたから行くだけで、いつまでに、とは言われてないからな」
「とか思ってるのはおっさんだけなんじゃないのか? 行ってみたらガタガタ言われるパターンが見えるぞ」
「へ! そんなの気にしてたら道に迷っていられねぇよ」
やっぱり迷っていたのか……
「ちなみにどこに行くんだ?」
「フエーゴだ。港町から船が出ているから、それでひとっとびだな」
確かフエーゴは炎の魔王が居る島だっけ?
「海に行かないといけないのにどうして山にいるんだ……」
「まあ俺の家が山の中だからな。カルモの町近くの」
「へえ……って! それでも街道歩きゃいいだろうに!?」
「細かいことはいいんだよ! それよりお前の武器適性って槍だけなのか?」
バクバクとおにぎりを食いながら話題を変えてくるおっさん。どうもこの人の中で俺を鍛えることは決定事項のようだ。
まあ対人戦の練習と思えばおっさんのお礼とやらに乗るのは面白いとも思う。どうせ暇だし。
さて、おっさんの問いになんと答えるか。まあどうせ三日で大陸から居なくなる(予定)だし、言ってもいいか。
「全部だ」
「ん?」
「全武器の適性がある。これがユニオンのカードだ」
おっさんに見せると、まじまじと見ながら『ほう』と呟いた。
「珍しいヤツだな、おもしれぇ! 俺は見ての通り剣が得意だ。だから剣技を教えてやるぜ」
オーソドックスな武器だな。
使っている人間も多いがそれ故に弱点も多いと思う。だがそれはそれとして追及するのも面白いかもしれない。
……ビーフシチューは食われるわ、朝食をねだられるわで散々な朝だし、手加減無しで戦って驚かせてやろう。
程なくして朝食を終えて、食休みの後おっさんと対峙する。
「とりあえずどれくらいやれるか試させてくれ。おめぇは槍を使って本気でかかってきてくれればそれでいい」
「大丈夫か? うっかりざっくりやっちゃうかもしれないぞ?」
「そん時ぁそん時だ! ……まあ、かかってこいや」
<ステータスは?>
「(デフォルトのままでいい。魔法は使わないから、『魔』を『力』と『体』に振り分ける準備だけしておいてくれ。『力』多めで)」
<了解しました>
余裕を見せるおっさんに一泡吹かせるため、ひとまず力任せにいくことにした。
俺が構えてもおっさんは手ぶらだったので眉をひそめて尋ねる。
「おっさんは剣を抜かないのか?」
「おめぇの力を試すだけだからな。必要ねぇさ」
くっ……舐められているのか……? こちとらステータスは軒並み高いんだ、ぎゃふんと言わせてやるぜ!
「それじゃ、遠慮なく行くぞ!」
俺はおっさんに向かって容赦なく槍を突くために踏み込んだ!
◆ ◇ ◆
「ぎゃふん!?」
五分後、俺は余裕でおっさんにボコられてしまい派手に地面を転がった。
つ、強い……『速』をあげても、『力』をあげてもまるで勝てる気がしない!?
俺が動いたらそこに拳がある。
そんな感じで攻撃をするたびに逆にダメージを負っているのだ。おっさんは全然素早くない……と思うのだが、掠りもしなかった。
「なるほどな。速、力、体は結構なもんだが、体が追いついてない感じがするぜ? 使えるド素人とでもいうのか? となると基礎からやるのが良さそうだな……」
おっさんはパンパンと土ぼこりを払いながらぶつぶつと言う。
「おっさん何者なんだ……?」
「見ての通りただのおっさんだぜ? というか全適性もちのおめぇに言われたくはねぇがな。おめぇの実力はだいたい分かった。今から基礎の部分を教える」
「分かったよ。俺は何をすればいい?」
「おう、負けて大人しく従うのはいいことだ。強くなるには、自分の実力を認めることがなによりも必要だ」
いいかげんなおっさんかと思ったけど、こと強さにおいてはしっかりした持論があるようだ。
どちらにせよさっきの感触だと何度やっても勝てるとは思えない。
メリーヌ師匠と同じく、ここはラッキーだと思って修行をしよう。
「とりあえず槍はしまっていい。代わりにこいつを使え」
どこから取り出したのか、一振りの剣を俺に投げてきたのでそれを慌ててキャッチし、抜いてみる。
「……錆びついているな」
「ああ。そいつはおめぇにやるよ、で、一つ聞きたいんだが時間はどれくらいある?」
「大根も切れそうにないな……ん? そうだな……俺も別大陸へ行くつもりなんだよ。今日を入れて三日後にここから退散するつもりだけど、どうしてだ?」
「そうか。なら俺もその時一緒に行くとすっかな。それじゃ目標はその剣で木を切り落とすことにしよう」
「はあ? こんな錆びついた剣で斬れないだろ」
そんなのはアニメかマンガの世界だけだと俺は肩をすくめておっさんに言う。すると、おっさんが俺に近づいて来て剣を掴んだ。
「まあ見ていろ……ハァ!!」
「げ!?」
斜めに振り降ろした剣が木をするりと滑るように抜けて木を真っ二つにしていた!
「できるぞ?」
「嘘だろ……」
流石は異世界というところか……物理面でも向こうの世界の常識は通用しないようだ。おっさんは俺に剣を返しながら口を開く。
「これが最終目標だ! というわけでまず体幹を鍛えるぞ! その剣で素振り百回からだ!」
「うええ!?」
脳筋。
そんな言葉が浮かんだが、めちゃくちゃやる気になっているおっさんに、やっぱいいですとは言えなかった。
昼、夕方、そして夜。
適度に休憩を挟みつつ素振りや剣の握り方、剣の一般的な使い方を教えてもらった。
途中、ステータスを変えていたけど、おっさんが訝しんでいたのでデフォルトに戻して修行を続けた。
「ぐは……!?」
「はっはっはぁ! 今日はここまでにするか!」
洞窟付近まで戻ってきてから、俺は倒れるように寝転がった。つ、詰めこみ過ぎだろ……
「はあ……思ったよりしんどいな……俺ってもっと強いかと思ってたんだけどな」
「おめぇ……いつまでもおめぇって言うのもアレだな。名前はなんていうんだ?」
「そういや自己紹介もしてなかったな……カケルだ。おっさんは?」
「俺はフェルゼンだ、よろしくなカケル」
ニカっと笑いながら寝ている俺に手を出してくるおっさん……フェルゼン。
この修行はむちゃくちゃだが、悪い人では無さそうだ。
手を差し出すと、ぐいっと引っ張られて俺は身を起こた。擦り傷なんかもあるためヒールを使う。
「お、回復魔法を使えるのか? いいな」
「魔法は使えないのか?」
「使えるぞ。ただ、攻撃に特化しているから回復はできねぇ」
まあフェルゼンが回復をする姿は想像ができないので人それぞれということだろう。適当に会話をしながら晩飯の支度をし、焚き火の前で二人で両手を合わせる。
「「いただきます」」
ライスが昼で尽きたのでパン食へと切り替えた。
献立は野菜スープに厚切りベーコンのバター焼きで、後は付け合せのコーンで決まりだ。
レヴナントは盗賊のくせに金を持ち逃げせず、きちんと食料を買ってきてくれたのは本当に助かった。
「そういや、家はカルモの町付近って言ってたけど、奥さんは居ないのか?」
「んあ? ああ、もう随分前に死んじまったよ。いい女だったんだがな」
「……悪い」
「なんだ? 気にしなくていいぜ? 本当に昔なんだからな。カケルはどうなんだ?」
「俺は一人だな。このまま旅を続けていくのか、どこかで暮らすのか……なにも決めていない」
改めて考えると光翼の魔王と出会った後のことは考えていなかったな。まあ寿命は腐るほどあるし、適当に過ごすのも悪くないけどね。
「ま、おめぇは若いし、大丈夫だろ。俺ぁあいつ以外とつがいになる気は無いからこのまま一人だろうな。子ができなかったのが心残りくらいか」
あいつは欲しがってたけどな、と、少しだけ寂しそうな目をしてフェルゼンはベーコンにかじりついた。
飯を食うと、修行の疲れから急速に眠気に襲われ、一瞬で寝ついてしまい、ぐっすり眠ることができた。
そして、修行はなおも続く――




