第三話 なし崩しにスキルを使ってみた
「ふう……ふう……」
あれから何時間経っただろうか? 一時間のようにも思えるし、何十時間のようにも感じた。
なんとか森を抜け出した俺は、街道のような場所をひたすら歩き続けていた。
だが、まだ町らしきものは見えてこない。
「ふう……喉が渇いた……腹も減った……」
小鳥の囀りと太陽の位置……太陽でいいんだよな?
それを考えると俺が目が覚めたのは早朝だったはず。しかし今は太陽が真上近くにまで来ている。これが地球と同じであればそろそろお昼の時間……
「でも、リュックの中身は片方の靴のみ……」
途中、もう一度リュックを漁り何もない事を確認した俺……その時、また恐ろしい事に気づいてしまった。一度、おさらいしてみよう。
『俺の持ち物はリュックと片方の靴』のみ――
……お分かりいただけただろうか?
そう、この魔物が徘徊している異世界だというのに俺は丸腰。
そして無一文なのだ。魔物に襲われれば即死。野盗も裸足で逃げ出す貧乏っぷりであろう。
「くそ……あの立て看板、実は違う方向に曲がっていたんじゃないだろうな……」
多少、焦りはしたものの武器もお金も結局のところ町へ行かなければどうしようもないと結論した。多少だからね、焦ったの?
……まあ、それはともかくそれしかできないのでひたすら歩いた。
最初は走っていたけど足が痛くなったからやめた。
で、途中、分岐路があり「カルモの町」と書かれていたのでそっちを目指していたのだが、一向に辿り着く気配が無かった。
「あーもう! 休憩だ休憩!」
その辺の草むらに腰掛けて辺りを見渡す。緩い風が汗をかいた俺の体を冷やしてくれる。冷静に見渡すと景色も悪くない。
「もうちょっと考慮して欲しいよな。確かによくある展開だけど、町のすぐ近くとかさあ……」
ぼやいても仕方がない……せめて夜までには辿り着きたいと腰を上げようとしたところで、背後からガサガサと音がした。俺はビクっと身を強張らせる。
「な、何だ……?」
そっと後ろを振り向くと、鮮やかな緑色をした丸っこいゼリー状の何かがぷるぷると揺れていたのだ。これはスライムというやつではなかろうか?
感情の見えない物体が少しずつ俺に近づいてくる。足元近くまで寄ってきたので、しゃがんでから突いてみる。
「お、柔らかいな」
ぷるんぷるんと、本当にゼリーみたいな食感で中々気持ちいい。しばらく突いていると、スライムが赤く変色した。
「ん? 色が変わった……?」
と、思った瞬間、突いていた指が、つぷん……とスライムの中に飲みこまれる。おお、変な感触……しかし次の瞬間……。
「熱い!? あうおおお!? 熱っ! と、溶けてる!?」
慌ててスライムから指を引きぬいたが、塩酸でもかけられたようにどろっと肉が溶けていた。嫌な匂いが立ち込める。
「う、ううう……そ、そうだこんな時の為に……か、回復って、ど、どうすりゃいいんだ? ≪ヒ、ヒール≫?」
ふわっとアウロラが俺の目を治した時のように体に暖かい光が纏い、指の傷が治っていった。
くいくいっと曲げても痛みは無い……た、助かった……
そしてふと足元を見ると、スライムは俺の指を溶かして満足したのか、緑色に戻ってスタコラと草むらへ逃げ込もうとしていた。何となく怒りを覚えた俺はその辺にあった石を掴み一心不乱に投げた!
「この! この! 痛かったんだぞ!」
「ぴぎゅゅうう……」
少し大きめの石がクリーンヒットしたらしく、呻き声? みたいな音を立てて地面に染み込むように消えた。
どうやら倒したらしい。俺の復讐はここに完了したのだ。
「馬鹿め、人間様を甘く見るからだ! ぬははははは……はあ……アホらしい……行くか……」
笑って体力を使ってしまった……再び俺はとぼとぼと歩き出す。
そろそろ昼の三時くらいかと思われるような位置に太陽が傾いた頃、俺は甘い匂いを嗅ぎつけた。前をみると木に実がなっていた。
「あれは……リンゴ……か? やった! 食い物だ!」
真っ赤な美味しそうなリンゴがいくつも実をつけており、自然と唾をごくりと飲み込む。だが問題はどうやって取るかだ。
「ジャンプ……! 後、少し……! なんだけどなあ……」
少しでもいいので台のようなものがあれば届きそうだが、あいにく都合よくそんなものは置いていない。何度か挑戦したのち、俺はステータスを開いてみる。
「能力値上昇……全適性も今は意味が無い……」
そしてスキルの一つ『ステータスパラメータ移動』に目をつける。
移動、ね。俺の思い描く能力ならあのリンゴをゲットできるかもしれない。
「ステータスパラメータ移動、と」
スキルの名前を指でなぞると、パラメータ値が点滅を始めた。能力値の左右にプラスとマイナスのアイコンが表示された。
「左右のプラスとマイナスをしたら変更できるのかな?」
残ポイント:0
- 力:7 +
- 速:6 +
- 知:3 +
- 体:7 +
- 魔:9 +
- 運:6 +
知は減らすと何か良くない事が起こりそうだから、ここは一番高い魔力を……二ポイントくらいでいいか、ピッピ……と。
残ポイント:2
- 力:7 +
- 速:6 +
- 知:3 +
- 体:7 +
- 魔:7 +
- 運:6 +
おお、残ポイントが増えたぞ! これを『体』恐らく体力だろう、これに振り分けてっと。
残ポイント:0
- 力:7 +
- 速:6 +
- 知:3 +
- 体:9 +
- 魔:7 +
- 運:6 +
おし! これで試してみよう!
俺は頭上のリンゴを目指してジャンプをする。すると、先程まで届かなかった場所から少し上まで飛べるようになり、見事にリンゴをゲットできた!
「くー! うまい! 疲れた体が生き返る!」
シャクシャクとその場で一気に一つ食べ終える。
この先、すぐに町へ辿り着けるかは怪しいので、リンゴをいくつかもいで持っていくことにした。
「これくらいでいいか。無限収納は便利だな。貰ってよかった」
もう一つリンゴを齧りながら俺は再び歩き出す。リンゴしかないけど、無いよりはマシだ。
お、そうだ! もう一つステータス変えておくか。速に振り分けたら足が速くなるんじゃないか?
- 力:7 +
- 速:8 +
- 知:3 +
- 体:7 +
- 魔:7 +
- 運:6 +
MP 471
何となくだけど足が速くなった気がする! これはいいや、アウロラ様ありがとう!
で、よく見たらMPが減ってる。さっきヒールを使ったから二十五はいいとして……その他で四減ってるな。パラメータをいじるとマイナスは減らないけど別のステータスに追加した場合はMPを消費するみたいだ。MAXが五百あるからあまり気にしないでもいいか。
「――ロボー!」
ん? 今何か聞こえたような……?
「――――!!!」
やっぱり何か聞こえるような? ま、いいか。俺はリンゴをかじりながら、先を目指した。
そしてあのリンゴの木から十分ほどで町に到着してした。拍子抜けだが人生こんなものである。
アーチ状の入り口の前に鎧を着た門番が二人、町の入り口を守っていた。丘の上から見た感じ町は壁に覆われている。魔物から守るためだろう。
ブルリと武者震いが起こり、俺は門を目指した。門番が最初の異世界人との会話か……感慨深いと思いながら俺は挨拶をした。




