第三十二話 ボア丼の脅威と世界の仕組み
そんなこんなで悪役令嬢との顔合わせが済んだ後は食堂へ行きお昼を食べた。
その時、ちょっとした出来事があった。
「あれ!? なんでボア丼があるんだ!?」
「あら、ホントだ。これってカケルさんの料理でしたっけ?」
「ボア丼、ですか?」
俺が食堂の黒板に書かれている『限定! アドベンチャラーズ・ユニオンで大人気のボア丼!』を見て驚いていると、ソシアさんとエリンが俺に尋ねてくる。
イノシシのイラストが随分可愛い。そして本物のサンプルもおかれていた。
「盗作」
「まあ、別に俺の料理って訳でもないし別にいいけど……」
俺より憤慨しているトレーネを抑えていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「カケルちゃんじゃないか!」
「カイラおばちゃん!? どうしてここに……」
それはあの食堂にいたおばちゃんだった。いつものエプロンをつけたおばちゃんが話を続ける。
「あたしゃ昼はここで、夜はユニオンで働いているんだよ。どうしたんだい? 学生みたいな服着て」
「……とある事情で今は学生なんだ」
「そうなのかい? あたしゃてっきり料理人かと思ってたんだけど」
そういやトーベンさんに厨房を案内されたとき名前しか言ってなかったっけ……今は下手に冒険者って言うのもアレだし勘違いさせておこう。
「学院に入学したくて金を貯めてたんだよ。運よく入れたんだ」
「へえ、それはめでたいね! あんたのボア丼、トーベンさんに頼んでこっちでも出せるように頼んだら『カケルなら文句言わないだろ』って許可してくれたんだよ!」
トーベンさん……いや、確かに文句は言わないけど一言あってもいいだろう。何回顔を合わせたと思っているんだ……!
「せっかくだし食べていくかい? おごってあげるよ。今日が初だから警戒してあまり食べてくれてないから材料が余っててねえ。ボアカツでもいいよ。もちろん友達の分もね」
「じゃあ、ボア丼を頼むよ。みんなもそれでいいか?」
とはいえこの怒りは次にあった時までとっておこう。今は昼飯が先だ。
「もちろんです!」
「あたしも!」
「なんだか美味しそうですね、お願いしてもいいかしら?」
「文句無し」
「ははは、それじゃいっちょ作ってくるかね! それともあんたが作るかい?」
「遠慮しておくよ……」
そして厨房へ引っ込んだおばちゃん。しばらくしてボア丼を引っ提げて戻ってきた。
「お待ちどうさま! まだ昼休みの時間はあるからゆっくり食べるんだよ」
そう言っておばちゃんは戻っていった。
俺達はいただきますをしてからカツを一切れ口に入れる。
「おばちゃんもうまくなったなあ」
「肉も柔らかくて美味しいです! 流石はカケルさんの料理……!」
グランツよ、それは褒め過ぎだからな?
トレーネもエリンパクパクと美味しそうに食べていた。そこで食したソシアさんが目を丸くして喋りはじめた。
「これ! 美味しいです! パンの粉をまぶして油で揚げたお肉がジューシィで、タマネギと甘めのタレがふわとろの卵と絡んでライスとの相性がバツグンです……!」
するとスプーンで次々と口に運ぶソシアさんに注目が集まっていた。
「そ、ソシア様があんなに美味しそうに……」
「もしかして美味しいのかしら……? 庶民の料理って感じだったけど……」
「お、俺ちょっと食ってみる! 限定だし」
平民もいるけどやはりお金持ちが多いこの学院。
見た目で食べるを遠慮していたようだが、領主の娘であるソシアさんがバクバク食べているのを見て体裁を気にする必要は無くなったようだ。
その後はボア丼に生徒が殺到していた。
「うおお! ボア丼一杯……いや二杯だ!」
「う、売り切れ……そんな……」
「判断が遅い」
トレーネが辛辣にそんなことを口にしていた。
そんな戦争があっていることも露知らず、ソシアさんはボア丼をたいらげる。
「美味しかったです! カケルさんが考案したんですか?」
「まあ、元のレシピはあったんだけど、俺がアレンジを加えたんだ」
ということにしておこう。
「でしたら滞在中は作ってもらいたいですね」
「気が向いたらね」
そんな会話をしながら俺達は昼食を終えて教室へと戻った。
◆ ◇ ◆
――午後の授業
「眠い……!」
「寝たらダメ」
「(こらグランツ! 起きなさい!)」
「ふが……!? お、おお……」
「うふふ」
授業中、お決まりである『お昼を食べた後はものすごく眠くなる』はこの世界も同様で俺とグランツはうとうとしていた。自然の摂理には逆らえないのだ。
まあ、しかし、今の授業はいわゆる『社会』で世界情勢や国の話がメインの授業のため寝る訳には行かなかった。
この世界『ペンデュース』について新たに分かったことは、世界には国が六つあり、それぞれの国に魔王が存在する形になっているようだ。
その中で、ドライゼンさんが言っていたように魔王が本当に国を治めているパターンがある。
魔王が治めている領地は三つ。
『水氷の魔王』が治める、万年雪と氷で覆われた最北の地『極北』。
日中の半分が夜みたいになっていて『闇狼の魔王』が治めている北西大陸にある獣人の国『ジェイドス』。
南東にある孤島『フエーゴ』は『烈炎の魔王』が治めている。
――ということらしい。
俺が会いに行こうとしている『光翼の魔王』はボーデンさんと同じく、領主止まりで国王との仲は良いとか何とか。
で、俺の居るこの国は人間が治めている『ヴァント王国』で、『土刻の魔王』がどこかに居るようだった。
となればここの魔王に会うのが一番手っ取り早そうだけど……ドライゼンさんはカルモの町どころか国に居て欲しくなかったきらいがある。
ただ、厄介事を追い出したかったと考えるべきか、それとも他に理由があるのか……
もしくはこの国にいる魔王が好戦的だからという理由もあるかもしれない。
そうなると国王と仲がいいとされる比較的温厚そうな光翼魔王に会うのは間違いではない気がする。
どちらにせよソシアさんの問題を片づけるのが先か。
「――なので~、世界を恐怖のズンドコに陥れた魔神は魔王様達と女神アウロラ様の活躍によって救われたのです~。良かったですねぇ~怖いことが無くなって~♪」
ネーレ先生の眠くなる声を聴きながら俺は教科書を適当にめくっていた。
その中にアウロラの名前も何度かでてきた。
もうすでに懐かしい名前になりつつあるな……
「――その後~中央には神都『アウグゼスト』が出来たのです~」
アウロラを祀っているとかいう世界の中央にあるとかいう町か……あんなの祀ってどうするのかねぇ? ロクでもないと思うんだが。
「あ、鐘が鳴りましたね~、今日はここまでにしましょう~。このままホームルームを続けますね~? 連絡事項ですが、明後日は実技訓練の日です~! 実力を発揮したり、先生や気になるあの子にアピールしたりと楽しみですね~! クラス対抗の模擬戦もあるから頑張ってくださいね~それでは気を付けて帰ってください~」
「……実技訓練だと……?」
俺が呟くと、すかさずソシアさんが説明してくれた。
「はい、月に一回実技訓練を設けているんです。冒険者になるにしても、騎士になるにしても実力は必要でしょう? その適性を見極めるためにやっているそうですよ」
「私達はもう冒険者だからステータスが数値化されているけど、ユニオン登録していなくても実力はきちんとある」
トレーネいわく、その辺に居る学生もユニオンで登録したら実はレベル十五だった、ということもあるらしい。
さっきのツォレとかもそうだけど、視覚化されていないだけで力をつけた分はしっかり実になっているとそういう訳だ。
一般人ってどうなっているんだろうなーと思っていたけど、これでスッキリした。
「俺も腕試しができると思うとワクワクします! 勉強も面白いですし!」
「前向きだなあグランツは……」
「あたしはクラス対抗の模擬戦ね! 何人出られるか分からないけど、燃えるわ!」
エリンが拳を握って力説するのを見て、ああやっぱりグランツの恋人だなって思った。するとトレーネがソシアさんに尋ねていた。
「あの性格が悪そうなのは強いの?」
「性格が……ああ! レムルさんですね。私が言うのも恥ずかしいですけれど、王子の婚約者になるには魔力が高くないとダメなんです。だから、候補に入っている私とレムルさんは高いですよ? それに彼女は攻撃する魔法が得意なのでお強いです」
「そう……腕が鳴る」
「対抗するなって。ケガしたらどうするんだ?」
「カケルが治してくれる」
「他力本願かい……」
という感じで無事(?)一日が終わり、久しぶりに登校したせいもあるのか嫌がらせも無かった。
――そして翌日
初日は我慢していたらしいクラスメイト(主に女子)がトレーネを可愛がり、俺の後ろに逃げた。
俺やグランツ、エリンはソシアさんの友達ということでクラスに馴染むのは割と早かった。男にはまだ警戒の色が浮かんでいるのだが。
このまま、悪役令嬢も王子にも出くわさず、さらに嫌がらせも無いまま俺達は実技訓練を行うことになった。




