第二十六話 トレーネさんの魔法講座とおまけ
「お、来たか。時間通りだな」
「はい! 今日はよろしくお願いします!」
「お願いします」
元気よく挨拶をしておじぎをするグランツと、軽く会釈をしてさっさと席に向かうエリン。
そして挨拶などお構いなしに俺の横に席をくっつけて満足気なトレーネの三人が今日のメンバーのようだった。
装備品は無く、そこらの人と変わらない格好をしている。
「カケル、昨日ぶり」
「久しぶりみたいに言うんじゃない。どうしたんだ? お前達ジョブもあるしレベルも俺より高いのに養成所だなんて……」
俺が頬杖をつきながらグランツに聞くと、椅子に座りながら答えてくれた。
「三日前にカケルさんに治療してもらってケガは問題なくなりましたけど、依頼がまだ達成できていなくて……しかしすぐに向かっても返り討ちに合うのは目に見えています。なので少し訓練をつけてもらおうと思ったんです」
「昨日、カケルさんが『養成所に行く』って言ってたのをヒントに、あの後に受付をして帰ったのよ」
なるほどな。まあ別に一緒に居て困るものでもないからいいけど。
「また話せて良かった」
「お前よくそんな恥ずかしいことが言えるな……」
「恥ずかしくない。言える時に言わないと後悔する。私達冒険者はこの前みたいにいつ死ぬか分からない」
「ああ、そりゃなんとなく分かるなあ。歳の割にはしっかりしてるじゃないか」
「ま、まあ色々あるんですよ……」
「えっへん」
グランツが珍しく歯切れの悪い言い方をする。
追及しようと思ったが、トーベンさんが授業を始める合図をしたのでそれは叶わなかった。
「よし、面子も揃ったし早速始めよう。カケルに合わせて進めるからそれは了承してくれ」
「すまないな」
「大丈夫よ、復習も大事なんだし♪」
エリンがウインクしながら俺にそう言い少し気が楽になる。
「さて、カケルよ。俺はお前さんがどれくらい知識を持っているか分からない。だから今日はお前さんが知りたいことを教えようと思う」
「いいのか? なら魔法についてとジョブの取得方法を詳しく教えてくれ。カルモのゼルトナ爺さんから少しは聞いたけど、色々聞く前に町を出てしまったんだよ」
トーベンさんが「ふむ」と一言漏らした後、トレーネに視線を移してから口を開く。
「おさらいを兼ねてお前さんからカケルへ魔法について教えてやれ。人に教えようと思ったら自分が知っていなければできない。まあ、おかしなところがあったら訂正してやるから安心してくれ」
コクコクと頷きながら教壇にトレーネが立ち、眼鏡の位置を直してから話しを始めた。
「どこまで知っているか分からないけど、魔法には種類がある。火や水を使った属性魔法とカケルの使える回復魔法に分けられる。属性魔法は生活にも攻撃にも使えるけど、攻撃に使うにはある程度の魔力が必要だから、魔術師になるのは難しい」
「トレーネは魔術師だっけ? ステータスがこれくらい必要ってのはあるか?」
「ある。最低でも魔力値は十程度は欲しい。私はレベル七で十四ある。レベル一の時は七しかなかったから少し苦労した」
最低でも十は必要ってのはゼルトナ爺さんが言ってたな。
しかしトレーネ、レベル七で十四しかないのか? 俺はレベル五で二十八ある……
『能力値上昇率アップ』があるからだろうか? もしかするとトレーネくらいが平均なのかもしれないな。
「なるほどな。じゃあ次は魔法そのものについてだけど、師匠を見つけて教えてもらうと聞いたけど、見つからなかったらどうやって覚えるんだ?」
「師匠は居た方が習熟が早くなるけど、自分で考えて使う人も居るから見よう見まねでも使えなくはない。言葉を伝えるのは難しいけど、頭でイメージしたものを魔力で作る、そんな感じ。『知』が普通にあれば理解ができると思う」
そういえば『自分で考える』ってのもゼルトナ爺さんの講習で聞いた気がする。
「抽象的!? 魔法の名前とか叫ばなくてもいいのか? ファイヤー! とか」
「名前はみんな自分で適当につける。分かりやすい名前だとイメージしやすいから自分にあった言葉を使うことが多い」
「ちょっと見せてくれよ」
「うん。【小さき火花】」
トレーネがポツリと呟くと、スッと魔力がトレーネの指先に集まる感覚がした。
肌で感じる、と言ったら分かりやすいだろうか。
目には見えないけど感覚で『あ、魔力が集まってるな』というところだ。
「お、凄いな。それで火をつけられれば野宿も楽そうだな……どれ、【小さき火花】」
目を瞑って、指先に火を出すイメージでさっきのトレーネみたいに魔力を集中して呟くと――
「うわわわ!? ちょ、カケルさん!?」
「え? どわ!?」
エリンが慌てた感じで叫んだので俺は目を開けた。すると天井にまで届かん勢いで火というか炎があがっていた。
「カケル、火事になる」
「お、おお、そうだな! ……って、どうやって消せばいいんだ!? 水、水は!」
「落ち着いて炎を霧散させるイメージで魔力を手放せばいい」
落ち着いて……炎を――
「消えた……」
俺が安堵していると、ニコニコ顔のトレーネがいつの間にか俺の目の前に来ていた。
「カケルは凄い。魔力はどれくらいある?」
「ん? えっと二十八だな」
「二十八!? レベル五で!? レベル十七程度の魔術師と同じくらいじゃないですか!?」
「え? そうなの?」
するとずっと黙っていたトーベンさんが椅子から立ち上がって俺の前に立った。
若干焦っているのか、怒っているのか微妙な表情をしているのが気になる。
「どうしたんだ?」
「『全武器適性』以外のスキルはなにがある?」
なぜそんなことを? と、思いつつも魔王に関わるスキル以外をトーベンさんに伝えた。
すると横に居たグランツは目をキラキラさせ、エリンは驚愕。トレーネは背中に抱きついて来た。
……『全魔法適正』……こいつらを回復させた魔法を見てとんでもない奴だろうと思っていたがまさかこれほどとはな。ステータスは?」
回復魔法を使ったところを見られていたのか……流石はユニオンマスターってところだ。侮れないな。そう思いながら俺はステータスを上から教えていく。
「『力』が――」
続けてステータスを言うと、これまたトーベンさんが自分の頭に手を置いて苦笑いをしていた。なんかもう諦めた表情をしている。
ちなみにグランツの『力』はレベル八で十五を越えたところらしい。
俺の二十三という数値は明らかにおかしいようだ。これはステータスも迂闊に口にできなさそうだな。
「カケルが少し戦い方を覚えたらお前達三人が束になっても勝てないだろうな。それくらい異質だ。HPとマナポイントはもはや化け物と言っていいぞ」
「そ、そうね。まさか弓術士のあたしより『速』が高いなんて……」
「だから俺達をあれほど簡単に回復できたんですね! くうう……もしかして俺は未来の英雄と話しているのかもしれない……!」
涙を流しながらぐっと拳を握るグランツ。暑苦しい。
「お、おう。英雄とか絶対なれないと思うけどな。魔法はだいたい分かった。ありがとうなトレーネ」
「えへへ。後で一緒に練習する?」
「お、それは助かるな、頼めるか」
「うん」
小さく『やった』と呟いているのは少し可愛い。
喋り方は淡々としているが、感情が無い訳ではないようだ。元々そういう性格なんだろう。
それじゃ次は……
「後はジョブについて教えてくれるか?」
「ん、そうだな。しっかしこれだけ力を持っていて知識が全然ないのもすげぇな……」
「あ、ああ……はは……田舎者でね……」
「どこのど田舎だ? 料理も上手いし訳が分からんなあ。で、ジョブか。それはグランツ、やってみるか?」
まだハラハラと感動の涙を流していたグランツが我に返り、はい! と、教壇へと上がった。
「ジョブについてどんなことを教えましょうか?」
「そうだな、まずメリット。それからどうやって習得するかの二つでいい」
「分かりました! それではメリットからですが、その職業に適した武器が扱いやすくなります。重さをあまり感じなかったり、急所を狙いやすくなります。俺なら剣、エリンなら弓が得意ですが、弓だと命中精度があがったりといった恩恵があったりしますね」
「ほうほう」
俺が相槌をうつとグランツはニコニコと話を続ける。兄妹だなあと苦笑する。
「他には……他には……なんでしたっけ?」
「ったく、もう終わりか? 妹の方が勉強してるじゃないか……後は専用スキルが手に入る。レベルが上がってジョブを変えるのも可能だ。専用スキルはそのまま使えるから、盾で魔物をぶん殴る魔術士とかできるぞ」
……やっぱりゲームみたいだな。
あのステータス画面はみんな使えるということか。パラメータは見れるみたいだしそう考えた方が良さそうだ。
「そ、そうでした……」
「しっかり精進しろよ? さて、カケルの知りたいことはひとまず終わりか?」
「ああ、助かったよ。後はジョブの習得方法だけど……」
「はいはーい! それはあたしが!」
「それじゃ、外の訓練場へ行くか。お前達の訓練もしないといけないしな。そこで話を――」
やる気いっぱいのエリンに苦笑しながらトーベンさんが訓練場へ行こうと提案をする。その時だった。
「おう、どうした」
ガラリと扉を開けて入ってきたのは、ユニオンの制服を着た男性だった。
ボア丼騒ぎの時に何度か見かけたことがある。今は少し焦っているような印象を受けた。
「失礼します……あ、あのマスター、来客です」
「来客? 今日はカケルと遊……用事があってアポは無しにしておいたはずだぞ」
今、『遊』って言った!? 新しいステータスみたいな感じで絶対言った!
「それが来られたのは領主様の娘さんで……」
気まずそうに俺の方をチラッと見ながら言葉を続けた。
「『カケル』という者と会わせろ、と……」
「ふむ、ソシアお嬢さんなら無下にもできんか。分かった俺とカケルで行こう。応接室へ通してくれ、くれぐれも粗相のないようにな」
「かしこまりました」
一礼をして去っていく男性職員。
「聞いた通りだ。悪いが三人は先に訓練場へ行っててくれ、後で稽古をつけてやる」
「ガーン!? あたしの出番が!?」
エリンが口で『ガーン』と言いながら項垂れる。ガーンって言ってる奴を初めて見た。するとトレーネが険しい顔で手を上げた。
「私も、行く」
「相手は領主の娘だ、関係ないのを連れて行くわけにはいかない」
「そうだぞトレーネ。カケルさんを指名しているんだ、迷惑をかけることになったら嫌だろう?」
「う……兄貴が珍しくまともなことを」
兄貴呼びなのかトレーネ。比較的大人しい喋りだからそのギャップは結構いいな。
「仕方ない、後で甘いもの作ってくださいね! 行ってらっしゃい」
「しっかりしてるぜ……カケルがなにか作ってくれるさ。それじゃ行くか」
「しれっと俺を使うんじゃあない」
俺とトーベンさんは廊下に出て、一階にあるらしい応接室へと向かう。
「それにしても俺を名指しか……忘れかけてたぞ……」
「知ってるのか?」
「詳しくは知らない。名前とお嬢様と呼ばれていたことくらいだな」
「ふうん……なんでまたカケルを呼びつけたんだろうな」
うまく逃れたと思ったし、もう会う事は無いと思っていたんだけどなあ。多分ロクな事にならない、俺の勘がそう告げていた。




