第二話 おかしなことだらけ?
「ん……」
鳥の鳴き声で目を覚ました俺はうっすらと目を開ける。
「さっきのは夢だったのか……?」
ゆっくり体を起こすと、いつものベッド!
という訳にはいかず、どこかの森の中だった。でかい木の根元で俺は寝ていたようだ。
「さて、見慣れない場所か。どうやら無事に来れたらしいな。お、これか……?」
周囲を見渡して夢ではないことを再確認する。
そして近くにはアウロラが言っていた通り、俺の頼んだリュックサックがあった。
小鳥が乗ったそのリュックをしばらくボーっと見た後、自分の体を確認する。
ジーンズに黒のシャツ、それに青を基調として茶色のアクセントがあるマウンテンパーカーにスニーカー。
この世界の服がどんなものか分からないけど、このまま送られたあたり、恐らく大丈夫なのだろう。
「おっと……こうしていても仕方がないか」
俺は立ち上がってリュックを背負うと森の中を歩き出す。
だが、しかしすぐに立ちどまって冷や汗を流す俺。
「重要な事に気づいてしまった……!」
そう、どこに行けばいいのか分からないのである……!
「わおーん……!」
「う……!」
どこかで犬か狼だかの遠吠えを聞いてビクッと身を縮めてしまう。我ながら情けないが見知らぬ土地で一人だとこんなものだと思うの……
「そ、そうだ! 到着したらステータスの確認をしろって言ってたよな! えっと……確か『オープン』だっけ?」
恐怖を誤魔化すため、俺はアウロラに言われたステータス確認の文言を唱えた。
すると『シュイン』という音と共に、俺の前にシースルーのデータ画面が出てきた。
「おお!」
ゲームとかでよくあるタイプのステータス画面で、これだけでも割とテンションがあがる。さっきまでの恐怖感が一気に吹き飛んだ。
「どれどれ……」
◆ ◇ ◆
【壽命 懸】
レベル:1
HP:63
MP:500
ジョブ:(未収得)(回復魔王)
力:7
速:6
知:3
体:7
魔:9
運:6
【スキル】
回復魔王(ヒール:消費MP 25)
能力値上昇率アップ
全魔法適正
全武器適性
ステータスパラメータ移動
【特殊】
寿命:99,999,999年
◆ ◇ ◆
おお……レベルの概念があるんだな……当然1か。
ステータスもまあ平均……いや『知』が低いのが少し気になるな。レベルアップで上がることを期待しよう。
そんで魔力とMPが高いな? 『知』が低いのに……んで、スキルはヒール……OK、ちゃんとあるな。
……って、何か色々ついてるな!?
能力上昇率アップとかあの紙に書いてないぞ!? 全適性とかチートってやつじゃない?
はは、アウロラめツンデレってやつか? ちゃんと死なないよう工夫してくれてるんだな。
何も言わずに捨ててもこれくらいはしてくれるってことか。なら暴れた意味があまり無かったな。
さらにステータス画面の下へ視線を移すと、俺は妙な項目に気が付いた。
「特殊? 寿命って何だ? それもすごい数値……」
もしかして事故がなければこの期間は生きる事ができるってことか?
確かにいきなり死ぬのはアレだけど、寿命は普通で良かったんだが。まあ、殺されたら死ぬ世界みたいだし、まだ若いから考えなくてもいいか……。
そしてもう一度ステータスへ目を向けると、俺はもう一つおかしな所に気付いた。
「ん? ジョブ……未収得だけど横に何か書いているな……【回復魔王】? ……魔王!?」
え、どういうこと? 魔王が居るって言ってたけど、俺が魔王なの?
倒す側じゃなくて? おかしくね!? ど、どういうことなんだ……?
ドキドキする心臓を抑えながら見ていると、スキルの部分「もよく見ればおかしかった。
「ヒールの文字しか見てなかったけど、こっちも回復魔王になってる……『法』からサンズイを取れば『王』っぽい字になるけど、どう書いたっけ……? 書き間違えてないと思うんだけど……」
あの時はどうであれすでにステータスは決定してしまっている。アウロラに聞こうにも通信手段などない。
「ま、まあいいか。この世界の魔王ってもしかしたらイイヤツなのかもしれないし……じょ、情報収集のために町に行こう!」…
勿論、そんな俺の声に応えてくれる人もニワトリも居なかった。
再び遠吠えが聞こえたので俺は慌ててその場を移動しようとして違和感に気付く。
「ありゃ、靴が片方無い」
あの変な手にもみくちゃにされた時に落としたのだろう。凄く歩きにくいんだけど、どうしたものか。
とりあえずリュックに何か入っていないかと漁ってみると――
「お、入ってた!」
センスがいい……かどうかはさておき、なんというかマラソン選手とかが使うような機能性重視な靴だ。
前の靴はボロいスニーカーだったからかなりいいものである。
「車とか無さそうな世界だもんな、足を痛めないようにか? まったくとんだツンデレだな」
いそいそと靴を交換した。
片方しかない靴は……ひとまずリュックへ入れた。
捨てても良かったんだけど、向こうの世界のモノだし、なんとなく捨てきれなかった。どうせ無限収納だしいいだろ!
「さて、それじゃ町を目指しますかね!」
「わおーん……」
「目指しますかねー……」
誰にともなく呟き、俺はその場を後にしたのだった。
◇ ◆ ◇
「ハッ……!」
「どうされましたかお嬢様?」
見事な銀髪をショートにした、眠そうな顔の女の子が廊下から見える太陽を仰いでいた。そこでなにかに気付いた様に短く呻く。
横にいた執事のような初老の男性が声をかけると、慌てたように女の子が告げる。
「……新たな魔王がどこかに誕生したようです」
「なんですと!? し、しかし六大属性の魔王は健在ですぞ。後継者の枠も埋まっているではありませんか」
初老の男の言葉に、女の子は頭を振って困ったように答えた。
「……分かりません。ですが、この感じは間違いなく『魔王』……それもまったく違う力……のような気がします」
「気がするって……」
眠そうな目をキッ、っとあげながら割と曖昧なことを言いつつ、女の子がさらに言葉を続ける。
「協力してもらうことができれば他の魔王との戦いが有利になります。仲間に引き込めれば……爺や、私はその人を探しに旅に出ます!」
「あ、ちょ!? あの、お嬢様も魔王ですし、自ら行かなくても部下に探させればいいのではー!? お嬢様! ウェスティリアお嬢様ー!! 思い込みの強さだけは魔王級なんだから、もう……」
走り去って行く女の子を慌てて後追う初老の男であった。
彼女の名はウェスティリア。
光を司る『光翼の魔王』という存在である。今日、この時より新たな魔王『カケル』を探しに旅に出ることとなる。
いつか、その内、多分……出会えるその日を夢見て――




