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俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?  作者: 八神 凪


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第二十三話 初見殺し

 早く食べなければこの美味しそうなフォレストボアの卵とじが冷めてしまう。

 そう思いながら俺は気絶した冒険者へと近づいた。目の前で死なれでもしたら最悪だ、日本人は迷信に弱いんだぞ?


「な、なんだ? 飯ならあっちで食えよ、こいつらを運ばないと行けないんだ、それとも手伝ってくれるのか?」


 女性冒険者を介抱しようとした下心がありそうなおっさんが俺に声をかけてきた。

 さて、どうするか……ハイヒールはちょっと規格外なのは自分でも分かっている。

 怪しまれないように使うには……俺はステータスをポチポチと変更する。


「おい、黙ってないでなんとか言ったらどうだ! あーもういい、誰か手伝ってくれ!」


 おっさんが俺を無視して他の人に頼もうとしたところで俺は叫ぶ。


「あ! 外に裸の姉ちゃんがいるぞ!」

「なんだと!?」


 俺の叫びでその場に居た者の目が一斉に外へと向かう! 今だ……!


「(ハイヒール)」


 俺はしゃがんで、即座に小声でハイヒールを連続で使った。

 そしてステータスを『速』にかなり振り分けていたので、そのまましゃがみ歩きで人と人の間をすり抜け離脱する。

 見る者がいたならきっと気持ち悪がったに違いない……そう、まるでGのようだったからだ。


「これで落ち着いて飯が食えるな……」


 一番奥の席まで逃げてフォレストボア丼(仮名)を食し始める。


「全裸の姉ちゃんなんていねぇじゃ……って、傷が治っているー!? ど、どうしたことだこれは……傷どころか服まで……あ、病院へ運ぶぞ!?」

「お、おう! こいつら本当にケガしてたのか?」


 すると、ユニオンに新たな人影が入ってきた。


「おお、ここに居たか!? 病院に行ったら居ないと言うから探したぞ」


 げ!? 門番Aじゃないか!? もう少し遅かったら鉢合わせだったな……危ねぇ。

 それはそれとして俺は気にせず食事を続けることにする。

 今朝のやりとりは一瞬だったし、今のやり取りで俺を覚えている者はいまい、フフフ。


「さっきの黒髪の兄ちゃんがやったんじゃないか?」

「そういえば居ないな、探せ探せ!」

「げほ……馬鹿な、完璧な作戦だったハズだ……!?」


 俺みたいな普通の男のことなど覚えているはずが……そこでキョロキョロしていた若い男と目が合う。


「あ、いたぞ!」

「くそ! まだ食べている途中だってのに!?」


 俺はどんぶりと槍を両手に持ち席を立つ。


「お、おい、あんた回復魔法を使わなかったか……!」

「ちょっと使ってみてくれよ!」


 どんどん増えてくる!? ゾンビの群れのようだ! 

 一番奥に逃げたのは間違いだったようで逃げ場がない。

 だが、今の俺は速さに自信がある。隙間をぬって逃げ切れるだろう。

 しかし食器を持って逃げる訳には……そう思っていたところで、俺に向かって手招きしながら声をかけてくる人物がいた。


「おい、兄ちゃんこっちだ!」


 さっきフォレストボア丼(仮名)を提供してくれた料理人だ! そこってことは厨房に逃げ込めってか!


「助かる!」


 シュッと文字通り目にもとまらぬ速さで俺は厨房へと入った。


「あ、あれ? 今そこに居たのに……」

「窓から逃げたか!? 外かもしれん探せ!」

「行ったぞ」

「助ふかっふぁ」

「この状況で食ってるのかよ!?」

「んぐ……ふう、美味かった。食器を返すよ」

「そりゃよかったが……お前さん何者だ? ハイヒールなんて代物、使える奴は滅多にいないんだがな」

「え、そうなの!? アンリエッタはそんなこと言ってなかったぞ!? ……まあ事情は省くがそういうことだ」

「全部省いたらなんも分からんだろ!?」

「とりあえず助かった、だけどこのフォレストボア丼(仮名)はまだ美味しくなる……次を期待している……!」


 すちゃっと手をあげて厨房から出ようとすると、襟首を捕まえられて俺はガクンと体が揺れる。


「ぐえ!? なにをするだー!? 首が折れたらどうする!?」

「回復魔法を使えばいいだろうが? それより、お前面白いな。どうもこのフォレストボアの卵とじに似た料理を食ったことがある口ぶり。美味しくなるとはどういうことだ? ちょっと俺に付き合え、悪い様にはしない」


 くいくいっと指を二階に差してニカッと笑う。むう、こっちのルートは外れだったか。


「分かったよ、あまり色々話せないけどそれでいいなら」

「お! 話が分かる奴だ。早速行こうぜ! みんな、すまん俺はこいつと一杯やってくるわ!」


 すると近くに居た三角巾をつけたおばさんが呆れ笑いの顔をしてシッシと手を振る動作をしながら言う。


「マスターの悪い癖が出たねぇ。ああ、いいよ、別にマスターが居なくても……むしろ居ない方がいいわ」

「酷くね!? まあいい、行くぞ……ええっと?」

「カケルだ」

「オッケーだ。そんじゃ行くかカケル」


 厨房の裏を通って俺はマスターと呼ばれた男について行くことになった。

 少しだけ薄暗い廊下を歩きながら俺は前を歩く男に尋ねてみる。


「あんた、厨房の料理長だったんだな」

「え? なんで?」

「いや、だってマスターって……」

「ああ、確かにあの格好じゃそうなるか。料理長ね、はっはっは!」


 こりゃおかしいとばかりに笑いながらエプロンを外し、扉の前に立つ。どうやら到着したようだ。


「そういや名乗っていなかったな、俺はトーベン……このウェハーの町のユニオンマスターだ」

「は?」


 軽快に笑いながら開かれた部屋は、カルモの町のユニオンマスターであるドライゼンさんの部屋とよく似ていた。


「なにぃぃぃぃ!?」


 俺は思わず叫んでしまった。

 粛々と魔法の勉強や依頼を受けつもりだったのに……もう町から追い出される可能性がある人物とエンカウントしてしまった。

 もともとそのつもりだったけど、これは迂闊なことは言えない……!


「ま、座ってくれ」

「……はい」

「めちゃくちゃ暗いな!? さっきまでの威勢はどうした!?」

「ああ、ちょっと人生について考えてました」

「重いよ!? ほら、グラス。酒、飲めるだろ?」

「……いただきます」


 とくとくとグラスに注がれた赤い液体は――


「ワインだ」

「ああ。そこそこの値段の品だが悪くないぞ?」


 コクコクと喉を鳴らしながら飲むのを見て、俺もくいっとワインを煽る。ぶどうの酸っぱい感じがツンと鼻に来る。


「ふう、酒はビールが多いけど、ワインも美味いな」

「おお、いける口だな。で、さっきの話に戻るが、お前は何者なんだ? あのフォレストボアの卵とじをどこで食べた?」


「……ちょっと遠くの国で似たような料理を食べたことがあるんだ」

「……なるほど。で、もっと美味しくなるってのは? 前に食べたのと違うのか? 例えばどういう風に?」

「そうだな、まずボアだけど、小麦粉じゃなくてパン粉で揚げるんだ。そしてダシももう少し甘辛くして、タマネギも気持ち多めだな。醤油の代わりに何かを使っているみたいだけど、もう少し濃い調味料が欲しいな。酒はありそうだけど、みりんはあるのか?」

「お、おお、ずいぶん饒舌になったな。ふむ、お前は材料があれば作れるのか?」

「そうだな、一人暮らしが長かったしって今もそうだけど、一通り料理は作れるかな」


 すると、トーベンさんが少し考える仕草をしながら俺の目をじっと見る。しまった、少し喋りすぎたか?


「なら、明日作ってみてくれないか? 材料は用意する。実は俺のオリジナルだと思っていたフォレストボアの卵とじがすでに存在して、レベルが低いと言われれば気になるだろ?」

「気持ちはわかるけど……というかなんでまたユニオンマスターが料理を作ってるんだ? そっちのほうが驚きなんだけど……」

「まあ、趣味みたいなもんだ! 俺は新しいものが好きでな、ライスもワインも試しに仕入れてみたんだよ! まあライスはあまりなじみが無いから減らないけど」


「へえ、俺はライスが好きだから毎食でもいいくらいだ。あ、そうそうライスはもうちょっと水を減らしたほうがいいと思う」

「……お前、本当に何者なんだ? ライスの水加減なんて知ってる奴の方が少ないぞ? それこそ仕入れ先以外は」

「は!? あ、えーっとあれだ、前に食べた時よりべちゃっとしてたからそう思ったんだよ!」

「まあ、いいか……とりあえず明日は頼むぞ?」

「あ、はい……」


 お互い、ほろ酔い加減になったところでお開きとなり、俺は宿へと戻る。

 チーズと干し肉のつまみで結構飲めた。チーズもあるんだなあ。


 そして俺、迂闊。


 ついフォレストボア丼(仮名)とご飯について喋ってしまったけどかなり危ない橋だった。

 ユニオンマスターとか絶対関わりたくないと思っていたんだが……仕方ない。

 ゲームと違って正解のルートを選ぶことは難しいのだ。せめて異世界からきた魔王ってことだけは隠し通そう。


 そういやユニオンマスターに養成所のことを聞けばよかった……まあカツ丼を作る時にでも聞いてみるか……久しぶりにベッドで俺は眠りについた。

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