第百五話 山登りと神殿と黒ローブ
地上ではさほどでもなかったが、進むに連れて空には嵐のような風が吹き荒れていた。俺とバウムさん、ニドを先頭に山を少しずつ登っていく。
「こりゃ確かに夜に来なくて良かったな。崖が多すぎる」
「……うん、後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった……」
「やめろよサン……」
広い道もあるにはあるけどそういった場所には当然魔物がつきものである。
洞窟から飛び出してきた蛇っぽい魔物やスライムなどをバシバシと倒していた。
「魔物も多い……クロウ、本当にこの山で合っているのか?」
「そのはずだよ。文献自体は仲間が持っていったから詳しいことまではわからないけどさ」
「ちなみにクロウ君の仲間ってどれくらい強いの?」
俺の近くにいるクロウにルルカが話しかける。この分だと、強さ次第では全滅しているということもあるからだと思う。
「……僕ほどじゃないけど、そこにいるパーティの人よりかは強いと思うよ。レベルは平均して二十五くらいある」
後ろでアルの「げっ」という声が聞こえてきた。どうやらニド達はクロウの仲間より低いらしい。そこでコトハが汗を拭いながら口を開いた。
「私達より強くても、レベルだけならそう差はありません。だから夜は行軍できないですよ、これ。多分少ししたら追いつくんじゃ?」
「それは期待したいところだ。先を急ごう」
コトハの言葉を聞いたバウムさんはフッと笑みを浮かべて空を仰ぐ。彼は弓を片手に空からの強襲者に対して警戒をしていた。
でかいハゲワシみたいなのが飛んでいるせいだろう。この距離からでもでかいなとわかる。
そしてさらに進むこと数時間……俺達はとある洞窟を見つけた。
「この洞窟……火の匂いがするな」
「ということはさっきまでここに居たと言うことか! 近いぞ!」
リファが興奮気味に叫んで我先にとまた進もうとした。そこでバウムさんが一言呟く。
「……僅かだが風の流れを感じる。奥へ行ってみないか?」
「待つんだリファ。この先は山じゃなくて、どうやら洞窟の奥らしいぞ」
風斬の魔王が言うのだから間違いなさそうだ。俺はリファを捕まえて奥へと進む。
「……うん、僕の仲間が野営をしたみたいだね」
「分かるのですか?」
「この食べかす、ほらこの包装紙に『アウグスト製』って書いてあるだろ? これは僕達、神官クラスしか買えないお店の食料なんだよ。これがあるってことはそういうことなんだ」
「……そ、そうですか……」
真面目な顔で説明するクロウにティリアがちょっと引いていた。
というかクロウは神官クラスなのか……なら、あの港町でノーラさんを勧誘していたのはどの程度だったのだろうか? そんなことを考えていると少し開けた場所へと到着する。
「おー……こりゃ本格的な神殿、だな? 所々壊れちゃいるが……」
「……ドアール、あまり近づいたらいけない……何があるかわからない……それに、ここ、嫌な感じがする……」
「僧侶のサンが嫌な感じがする、か。ティリアは?」
「……私も少し寒々しいというか冷えた感じを肌に感じますね。アウロラ様の封印とはとても思えないのですが……」
光っぽい人達がこぞって『嫌な予感がする』という。しかし、光属性があるはずの俺には感じはなかった。
「ま、行ってみようぜ。近づかなければなんにもわからんし」
と、ニドの言葉を皮切りに神殿へと近づいていく俺達。するとそこで――
「きゃあああああああ!」
「なんだ?」
「中からですよカケルさん!」
「今のはレオッタの声だ!」
突然、甲高い悲鳴が聞こえて来た。ティリアが中からだと叫んだ瞬間、クロウが脇目も振らずに走り出した。
「あ、待てクロウ!? 危ないって!」
「追いましょう!」
「私達も!」
ティリアとコトハが続けて走り出してクロウを追う。
俺も慌てて神殿の中へと入っていく。両脇に気持ち悪い像があるのを横目で見ながら走っていると、その像に色が付いて動き出した。
「魔物!?」
「ガーゴイルか、こいつが設置されているってことは相当な場所だなこれは」
俺が驚いているとバウムさんが冷静に説明してくれた。お宝や侵入を防ぎたいときに設置する、罠の類であるらしい。
「頭を狙え! それ以外は再生して襲ってくるぞ!」
「了解!」
バウムさんが一体のガーゴイルの頭を矢で貫くと、灰色になった後でびしびしと音を立てて崩れ去る。たまたま腕を斬り裂いたリファの前にいるガーゴイルは腕を再生してリファに再び襲いかかる。
「固い! それに太い……!」
「こら! 王女様がはしたない!?」
「なにを言ってるんだカケルは! 私が動きを止めるから頭を攻撃してくれ!」
不穏な発言はどうも首のことのようだ。リファの剣だと、文字通り『刃』が立たないようで、俺の槍で粉々に粉砕する。
「ありがとう! さっきのはどういう意味だったんだ?」
「うん、知らないでおこうね」
「≪その偽りの生に終止符を≫」
「貰ったぜ!」
コトハの呪術で動きを止めたガーゴイルをニドが仕留め、その逆サイドではアルが牽制をしながらサンへと叫ぶ。
「それそれ……! サン、援護を!」
「……はいです……! ≪ハイシールド≫!」
サンが防御を上げてアルが斬りこむという絶妙なコンビネーション。ドアールは一人バッサバッサと斬りこんでいく。
「≪大地の牙≫」
「これで終わりだ!」
別の場所ではルルカの魔法とバウムさんの矢により、残りのガーゴイルも崩れ去っていく。
「ひとまず終わったか? クロウは?」
「奥へ行きました! 早く!」
「なら俺が先行する、後から着いて来てくれ!」
「え、それはどういう……」
ティリアが言い終わるより早く、俺は『速』を上げて先を急ぐ!
「は、速っ!?」
「カケルのやつそんな魔法も持っていたのか?」
「その話はあとでカケルに聞けばいい、私達も行くぞ」
バウムさんのそんな声を遠くに聞きながら、俺は神殿の奥へと走っていく。
脇道は無いので真っ直ぐ進むと大仰な扉が目に入った。少し開いた扉をすり抜けるように入ると、天井が高い部屋になっているようだった。
すぐ近くにクロウの背が見えたが、微動だにしないので、大声を出して呼びかける。
「クロウ!」
「カ、カケル!? あれ……!」
呼びかけにビクッと体を震わせクロウが俺を振り向かず指をとある場所へ向けた。
その先には黒ローブの集団がおり、ただ一人の女性で、恐らく声を出したレオッタと呼ばれていた女性がへたりこんでいる。
さらのその前にあるガラスのような素材で出来た石碑らしきものを見て彼女も震えていた。
全員フードを取っており、一人はエルフ耳で残る一人は体のでかい男、そしてもう一人。
しかし、最後の一人は、血だらけで地面に突っ伏していた。
「まずいか!?」
『???(?) 寿命残:1分……59秒……58秒……』
「でしょうね!?」
「カケル!」
クロウの声を背に受けながら、慌てて死にかけの男に近づいてハイヒールをかける。あと数秒だったがなんとか一命を取り留めたようだった。寿命がちょっと減ったが、まあ仕方ない。
「あ、ありが、とう……アンタは一体?」
レオッタが俺を見ながら尋ねてくるが、それよりもこの状況を把握するのが先だ。
「礼はいい、どうしてこんなことになった? この石碑はなんだ?」
「た、助かったのかい?」
「ク、クロウ!? エルフとの戦いはどうなったのさ?」
「その話は後にしてくれ」
俺が苛立たしげに言うと、横にいた大男が口を開く。
「お、俺達は……いや、先に事情か。こいつ……トロベルがこの文献にある言葉を呟きながら石碑に触った瞬間に急に全身から血を噴いたんだ」
「クロウの言っていた文献か、ちょっと見せてくれるか?」
俺がそう言った瞬間、俺の後ろにあった石碑が妙な音を立てながら鈍く輝き始めた。




