第八.五話 今日のウェスティリア②
「お嬢ちゃん達、また来てくれよな!」
「ありがとう、あなた達に光の加護がありますように」
「次はないよ!?」
口の周りをタレでベタベタにしたウェスティリアが祈るポーズをする。
彼女をルルカが首根っこを引っ張って引きずっていく。その後をおろおろした感じでリファが着いてきた。
「お、おい、ルルカ。お嬢様にそれは……」
「それは、何? 全屋台を制覇してスタンプラリーを埋めたあげく、大食い大会に優勝したお嬢様に賞賛を与えろとでも!? もう日が暮れるんだけど!?」
あの後、ルルカの言うとおり屋台へ突撃したウェスティリアは片っ端から屋台の料理を食べ始めた。
昼を回ったかどうかという時間だったためウェスティリアの腹ペコ度はMAX。餓えた野獣が放たれた瞬間であった。
そして、スタンプラリー制覇により特別なステーキが出されるという話を聞いて完遂。
そして最後に、大食い大会に出場するという暴挙にまで及んでいた。
「ごめんなさい……つい……」
「つい……で、足を止めるのはやめてくださいね? もう今日は帰って明日の朝もう一回集まった方がいいと思うんだけど……」
ルルカはそう言いつつ、明日になったら雲隠れをするつもりだった。
この調子で旅を続けたらストレスと食べすぎで胃を壊してしまうかもしれないと思ったからだ。
「そ、そうだな。ではお嬢様、今日のところは……」
リファもそれに賛同して屋敷へ帰ろうと提案する。しかし当のウェスティリアは首を振った。
「私のせいで遅くなってしまって申し訳なく思っています。でも少しでも進みたいの。この時間なら隣の町へ着くのにいい時間でしょう。だから……行きましょう!」
何故かやる気満々のウェスティリアの言葉にルルカは驚いた。
「(くっ……まさかボクが逃げることを予想して? 町から数えるほどしか出ていないのに隣町までの距離まで……この状況で帰ることを進めたら怪しいじゃないか……)」
「では、安全のため馬車を使いましょう。乗合馬車はまだあるハズです」
「そうですね。では行きますよルルカ」
「わ、分かりましたよ……あー! ローブの裾で口を拭かないでください!? ピュリファイ! ピュリファイ!」
そんな一幕を終えた後、間もなく。
乗合馬車を使って隣町へとやってきた三人。すでに周囲はとっぷりと暮れ、後は寝るだけとなった。
リファがいそいそと宿を探し、三人がシャワーを浴びて部屋に戻って来たところだった。サービスシーンは無かった。
「ふう……落ち着きました」
ベッドに寝そべるウェスティリアを見てルルカはため息をつきながらその様子を見ていた。反対側のベッドにはリファが長い髪をタオルで拭いている。
「お腹がぽっこり出てますよお嬢様……それで、新しい魔王探しの旅に出ましたが、感知はどれくらいできるのでしょうか? ユニオンカードがありますので、お金は心配ありませんが……」
リファの言葉に、ウェスティリアがむくりと起き上がって二人の顔を見た後静かに呟く。
「西の果ての大陸から魔王の力を感じます。正直なところ、微々たるもので感知できなくなることもあるのですが、近づけば何とかなると思います」
「(また曖昧な……)」
「後、魔王独自のスキルを使うと目の色が変わりますから、怪しい人の目を見て歩くのもいいかもしれませんね」
こんな風に、と、ウェスティリアが何かを呟くとウェスティリアの青い瞳が金色へと変化した。それを見てルルカは言う。
「なるほど。でもそれって一人ずつ見ていくわけにも行かないですし、かなり困難な旅ですよこれ? ボクもすごく暇って訳でも無いし……期間を設けませんか?」
「期間ですか、そうですね……お父様もそわそわしていましたし、ダメそうなら帰ることを検討した方がいいかも……では三か月ほど経っても見つからなければ戻りましょう」
「ですね、闇雲に探しても仕方ありませんから。でも他の魔王様じゃダメなんですか? 極北に居る『水氷の魔王様』は? 同じ女性だから協力してくれるじゃないですか」
「……あの人はちょっと、性格がきつい……」
「じゃあ、闇狼の魔王様は? 紳士的だって聞いてますよ?」
「顔が狼で怖くて……」
ルルカが他の魔王に協力を仰いだらどうかと聞いてみるが、もじもじしながらなにかと理由をつけて拒否していた。
「我儘!? ちゃんと魔王を就任したんだから向き合ってくださいよ! ……あ! だから新しい魔王を探してるんだ! ……まあ、いきなり魔王の会合は怖いでしょうから分からないでもないですけど……とりあえず三か月ですよ? それ以上はリファのお願いでも聞けませんからね」
「うん……ええ、分かりました。ありがとうルルカ」
「リファも分かったわね? ……リファ?」
そこでお付きの騎士であるリファに声をかけるも返事が無かった。
「グー……」
「寝てる……! 君がお目付け役でしょう! 先に寝てどうするの!」
「ふあ!? 巨大なクレープが!?」
「寝ぼけるのも早い!?」
「くー……」
「な!? お嬢様も!? ……もうー! ならボクも寝るよ!」
ルルカはプリプリとしながら布団を被り、三人は一日を終えた。奇しくもカケルが『魔王の慈悲』を覚えたことで、新しい魔王カケルを見つけるのは容易になるのだが……それはまだ、先の話――
「帰りたい……」




