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俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?  作者: 八神 凪


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第八話 覚えたての何か


 アンリエッタと別れ、てくてくと歩くこと数分。

 彼女の言っていた林はすぐ近くにあった。くるぶしより高い草は無いので、それなりに歩きやすく、木々の間もそれなりに開いているので見通しも悪くない。


「人の気配は無さそうだし……まずはさっきのピロリン音の確認だな。『オープン』」


 俺がいつもの文言を呟くとステータス一覧が表示される。スキルの項目に点滅している文字があった。恐らくこれが覚えたものだろう。


 【#壽命 懸__じゅみょう かける__#】


 レベル:1


 HP:63


 MP:446


 ジョブ:(未収得)(回復魔王)


 力:7


 速:8


 知:3


 体:7


 魔:7


 運:6


 【スキル】


 回復魔王

 

 ヒール:消費MP 25

 

 能力値上昇率アップ


 全魔法適正


 全武器適性



 【全世界の言語習得:読み書き】(新規)


 ステータスパラメータ移動


 【特殊】


 寿命:99,999,999年

 全世界の言語習得、か。


 そういえば看板とかも最初はなんだかぼやっとした感じで理解しにくかったもんな。

 じっくり見ていたら読めるようになったわけだが……どうやらスラスラと読み書きできるというスキルを得たようだ。

 読み書きできるのはありがたい……言葉が通じているだけでもラッキーだとは思ったけどな。

 まあスキルを覚える条件がレベルアップだけではない、ということが分かったのも大きい。


「んで、相変わらず寿命はカンストか?」


 言語習得以外に覚えた物は無さそう……スライム一匹倒しただけじゃレベルも上がっていないからステータスはそのままか。


 「これは仕方ない。とりあえず武器の扱いに慣れるようにしとこ」


 力は確か七が初期値だったから俺の力はこれが通常だ。まずはこのまま槍を振ってみるか。


「そおい!」


 勢いよく突いたり横に振ったりすると風切り音がする、これは良い感じだ!


「あ、そおら!」


 続けて振り回す。

 力強く振ることができ、人間なら吹っ飛ばせそうな勢いだ。


「はは! まだまだ!」


 楽しくなってきた俺は調子に乗ってカンフー映画のように回してみたりしてみた。


「ふう……とお……!」


 まあまあ回せるな。


「……そーれ……」


 何度か振っているとすぐに疲れてきた……最初はいいと思ったけど、続けてみると意外と重い。

 俺はまだまだ走れるって! とか言ってすぐに足を挫くおっさんみたいだ……一旦休憩を挟むことにしよう……


「うん、やはりリンゴは美味い……しかしこの調子じゃフォレストボアを倒せないぞ? ……どんな魔物か分からんけど、流石にこれはまずいと思うんだ……」


 とりあえず今度は『力』と『体』にパラメータを多めに振ってみるか。

 そんなことを考えながらリンゴを食べていると草むらがガサガサと揺れ出した。

 俺はリュックを背負って慌てて立ち上がり、槍を音のする方へ向けた。


「な、何奴!? 名を名乗れい!」


 自分でも驚くほど馬鹿なことを叫んだなと思った。魔物だったら返事がある訳がない。 

 すると草むらからぷるぷるとした体が姿を現した。さっき見たスライムだ。


「緑色……ということは敵意が無いということか? しかし、すまない……レベルアップの足しにさせてもらう……!」


 速攻で近づき、ずぶりと、スライムの体を槍で貫通させる。手ごたえあり。

 しかしスライムは死ぬどころか体を赤くしながら槍から離れて俺になにかを飛ばしてきた。


「うわ!? あれ? 何で死な……熱っ、酸だこれ!?」


 もぞもぞと俺の足にまとわりつき、じゅう……と嫌な音を立てはじめる。

 

「く、靴が溶かされる!?」

 

 俺は慌てて足を振ってスライムを引きはがした。木にぶつかりべちゃっとなるが、まだ戦意を失っていない。


「マジか、さっきのやつは石で死んだのに……」


 じりじりと近づいてくるホールケーキくらいの大きさのスライムをよく見ると、中央付近に丸い物が見えた。もしかしてあれが弱点か?


 スライムが飛び掛かってきそうな距離と槍のリーチはほぼ同じ。

 中央の丸い物に向かって俺は槍を振りぬいた。『速』を上げているので突くスピードはかなり速い。


 「やった!」


 今度こそ手ごたえがあり、スコンという心地いい音を立てた後、スライムはどろりと溶けて地面に染み込むように消えた。

 なるほど、軟体や液体系の敵はどうやって倒すのかと思っていたけど核みたいなものがあるんだな。今後もそういったヤツが出たら気を付けてみよう。

 すると、また草むらがガサガサとし始めた。

 

「全てを把握した今の俺に戦いを挑むとは愚かな! さあ、かかってこいスライム!」


 ◆ ◇ ◆


「は、はあ! はあ! に、二十一匹目! も、もういないか!? 終わったか!?」


 陽も落ちちゃったなーって感じの林の中で俺は槍を抱きしめて辺りを見渡す。

 いや、そもそもここに来たのが夕方だったから多分二時間くらいだと思うけど。

 で、その間、俺はスライムに襲われまくった。

 

<ピロリン>


 都合二十一匹……! 

 時には三匹いっぺんだった……あ、ズボンとマウンテンパーカーに穴空いてる……うう……

 腕がもう上がらない。いま襲われたらアウトだ……しかし限界を迎えたので俺は座り込んで休憩することにした。


「そういやなんか音がしたな……」


 スキルを覚えた時とは違う音が聞こえてきたので俺はステータスを開いてみる。すると――


「おお! レベルが上がってる!」


 俺のレベルは二になっていた! 

 現金なもので、疲れていたはずの身体でサッと立ち上がり、握りこぶしを作ってしまった。


「ステータスもあがってるな、一旦『速』を『魔』に戻しておくか……」


 基本ステータスは把握しておきたいので、俺はピピっと元に戻す。マナポントが二減った。さて、改めて見てみるか……。



 【#壽命 懸__じゅみょう かける__#】


 レベル:2


 HP:42/76


 MP:444/750


 ジョブ:(未収得)(回復魔王)


 力:10


 速:8


 知:4


 体:9


 魔:13


 運:9


 【スキル】


 回復魔王


 ヒール:消費マナポイント 25


 【ハイヒール:消費MP 30】(新規更新)

 

 能力値上昇率アップ


 全魔法適正


 全武器適性


 ステータスパラメータ移動


 全世界の言語習得:読み書き


 【特殊】


 寿命:99,999,999年


 【魔王の慈悲】(新規スキル)


  

 ……普通だー


 『力』とか『速』とか凄い普通だ……いや、『知』が一しか上がってない!?

 一応、死ぬ直前は大学生だったんですけどね!? 

 で、驚きなのはマナポントの上り幅。軽く1.5倍ほど上がってる。


 まあ能力値の入れ替えが出来るから『知』が低くても何とかなるだろうし、少しでもパラメータが上がれば移動させる値も大きくなるからそれだけでもいいんだが……


 で、スキルが二つ増えているな。一つはハイヒールか、いいね。回復量が上がるんだろうけど、レベル2で習得できたのは流石回復魔王だけのことはあるのか?


 ……後は……特殊に一つ増えている『魔王の慈悲』だな。


「いいな、魔王らしいスキルじゃないか! うん! ……うん……」


 そこで俺は気付いた。


「使い方が分からん!?」


 名前だけみたらカッコいいけど、〇〇斬とか〇〇波みたいに分かりやすい感じじゃない。慈悲って慈悲だよな……? とりあえずやってみるか?


「魔王の慈悲……!」


 特に何も起こらなかった。


「なんだよこれ……取説か攻略本が無いとわからねえよ……」

「わおーん……」

「ヒィ!?」


 どこかで遠吠えが聞こえて俺は身を震わせる。

 しかし、折角覚えたスキル! 使いこなせばフォレストボア討伐に役に立つかもしれない。


「魔王の慈悲! 魔王の慈悲!」


 手を翳したり、足を翳したり、木に手を当ててみたり、祈ったり……ありとあらゆるポーズをとってみたが、なんら変化は訪れなかった。


「魔王のじひぃぃぃぃぃ!」


 半泣きで叫ぶがやはり無情にも林に叫び声が響くだけだった。


「はあ……全然使い方が分からん……クソ! もうちょっと分かりやすくしろってんだ!」


「……なにやってるのよ……」

「おほう!?」


<ピロン>


 なにか音がしたけど、今はそれどころではない。急に話しかけられた俺は即座に木の陰へと隠れる。

 そして声のする方を向くと――

 

「あ、アンリエッタ!? どうしたんだ!?」


 そこにはランタンを手に持ったアンリエッタが居た。


「どうしたもこうしたも、遅いから様子を見に来たのよ」

「そ、そうなのか。そういや、すっかり暗くなってしまったな、大丈夫だったのか? ここスライムが多いし……それによく俺の居場所が分かったな」

「この辺は庭みたいなものだから今くらいの時間なら大丈夫よ。スライムもそれほど足が速くないし。というか、カケルめちゃくちゃ叫んでたでしょ、だからすぐに分かったわ。でも、いい歳して魔王ごっこはちょっと……」


 聞かれていた。

 そして色々と誤解を受けているようだ……


「いや、レベルが上がってな? スキルを覚えたんだ。魔王の慈悲ってやつ。でも使い方が分からなくて、試してたら遅くなったんだよ」


 身振り手振りで説明しながらアンリエッタに話しかけるが――


「ジー……」


 あ、ダメだ、信じてない目だ。UFOを見たって言った時の友人の目にそっくりだ。


「魔王のスキルが人間に使える訳ないでしょ? 世界で六人しか居ないのに……さ、そろそろ戻りましょ、フォレストボアを待たないとね。その前にご飯くらいは食べさせてあげるから!」

「本当なのに……」


 とはいえこの世界の常識であれば俺みたいなのが魔王というのはありえないだろう。

 恐らく俺でも疑うと思う。なのでこの話は終わりにし、さっさと飯にありつくためアンリエッタの後ろを着いていくことにした。

 

 俺は魔王の慈悲の事はすぐに頭から離し、異世界のご飯に想いを馳せるのだった。

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