「絢の告白 ―すれ違う心」
チャイムが鳴り終わった直後。
玲央はカバンを閉じ、帰ろうとした。
そのとき――
「……黒瀬。ちょっと来い」
低い声が背中から飛ぶ。
絢だった。
腕を組み、いつものクールな顔。
でも目だけが妙に据わっている。
玲央は覚悟して立ち上がった。
「う、うん。どこ行く?」
「……屋上の前の階段」
「な、なんでそんな限定的なの……?」
「いいから来い」
腕をつかまれ、そのまま連行。
玲央の心臓はずっと鳴りっぱなしだった。
● 人のいない階段の踊り場
人気のないその場所は、放課後の淡い光が差し込んでいた。
絢は玲央から手を離し、
深呼吸してから――ゆっくりと振り返る。
「……黒瀬」
「なに、改まって」
「今日は……言うって決めてたんだよ」
絢の声は少し震えていた。
(あ、あれ……これって、もしかして)
玲央の頭に浮かんだのは――
“絢が落ち込んでて、相談されるパターンだ!”
(よし……友達として元気づけてあげなきゃ!)
完全なる勘違いである。
● 絢の覚悟
「……さっき、校門で……言ったろ。
“そいつ、あたしのだ”って」
玲央は優しく微笑む。
「絢……ああいうの恥ずかしかったでしょ?
気にしてないよ、僕はそんなので怒らないし。
むしろ、守ってくれたんだよね。ありがとう」
「は……?」
(ちょ、ちょっと待て……守った……?
あたし、守ったんじゃなくて……)
絢の頭の中が白くなる。
玲央は続けて、さらに致命的な一言を放った。
「絢ってさ、ほんと“親友想い”だよな」
「――っ!?」
絢の顔が真っ赤になる。
(ち、ちげぇ! そうじゃねぇ!
なんで“友情”になってんだよ!?
どこをどう聞いたらそう聞こえんだよ!!)
でも言えない。
心臓がうるさすぎて。
絢は俯き……拳を握りしめる。
「……黒瀬はさ」
「ん?」
「その……あたしのこと……どう思ってんの?」
「絢?
うん……大事な友達だよ!」
最高の笑顔で言われた。
絢はその場に膝をつきそうになる。
(殺す気か……?
その純粋さで……あたしを……)
言葉を絞り出す。
「……友達、だけ?」
「もちろん!
絢は頼れるし、優しいし……最高の親友だよ!」
トドメである。
絢の顔がゆっくりと伏せられる。
(……ばっかじゃねぇの、あたし……
こんなん……言えるわけねぇじゃん……)
でも。
それでも。
心だけは、玲央に届いてほしかった。
絢は小さく、震える声で呟く。
「……いつかでいい。
その“親友”ってやつ……変わるかもしれねぇってこと、覚悟しとけよ」
「え、どういう意味?」
「――じゃあな!」
絢は階段を駆け下りて逃げていく。
残された玲央は階段の真ん中でぽつんと立ち尽くした。
(……なんで逃げたんだろ?
僕……なんか変なこと言った?)
● 遠くの廊下から――青髪の影が見ていた
そのやり取りを、
ほんの少し離れた廊下でセレナが見つめていた。
手で口元を抑え、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「神宮寺絢……
想いを告げる勇気は持ったのに、最後は逃げたのね」
その目には、静かな炎。
「……可愛いわ、本当に。
でも――私も負けるつもりはないの」
青髪が揺れ、廊下の影へ消えていく。
恋は、もう完全に火がついた。




