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第6話 : あやのノートと未知の感情
──放課後。
安藤ゆうとが帰ったあとの理科準備室は、
心拍装置の熱と、わずかな体温の名残だけを残して静まり返っていた。
黒羽あやは、白衣の袖をぎゅっと握りしめたまま、ほとんど動けずにいた。
「……今日は、測定にならなかった」
誰もいない部屋に落ちる、淡々とした独り言。
けれどその声には、自分でも気づいていないわずかな震えが混ざっている。
装置の故障ではない。
被験者A(安藤ゆうと)の問題でもない。
──観測者である自分の反応が、すべてを壊した。
あやは深く息を吸い、胸ポケットから小さなノートを取り出す。
ページを開いた瞬間、蛍光灯の光を受けて記録の文字が浮かび上がった。
『至近距離調整5cm → 観測者Bの心拍:170超』
『観測者B:呼吸乱れ → 測定継続不可能』
(観測者B……つまり、私)
自分で書いた文字なのに、信じたくない気持ちで指が止まる。




