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魔法には無いもの

石造りの部屋は、夜の底よりも暗かった。

第三王子マギアとその母イファルナが軟禁されているこの屋敷は、かつて魔法研究のために建てられたものだ。だが今では、魔力を持たぬ不全者とそれを産んだ者を隠す檻として使われている。


マギアの母イファルナはエルドラドの王ガルシアの第二側室であり、エルドラドの名魔道士の家系であるアズール家から王の元へと嫁いで来た。


しかし、第三王子であるマギアを出産した後、すぐに不明の病により病床に伏せる事となる。


王子として産まれたマギアは齢3才になるまでの間は丁重に育てられてきた。しかし、3才になると行われる5属性の世界樹の苗を用いた魔法適性検査の結果、マギアは全ての属性に反応しない、魔法不全者である事が判明する。


その事実は魔法力の強さを権威としたこの世界での王族にとって非常に不都合であった。


よって、世間にはこの2人は病により死亡した事とし、城から遠く離れた今は使われていない古い魔法研究所の屋敷に軟禁する事となった。


屋敷には監視役の騎士数名と2人の世話役にアズール家の従者が十数名が出入りするのみで、2人は一切の外界への接触を認められる事はなかった。


そんな生活をして早6年、マギアは9才を迎える。


部屋の壁にはひびが走り、窓は小さく、光は差さない。


それでもマギアは怯えてはいなかった。むしろ、この静寂こそが彼にとって唯一の「自由」だった。


——魔力がないというだけで、王子に生まれた身がここまで軽んじられるとは。


嘆きはない。怒りもない。

ただ、心に残るのは淡い寂しさだけだった。


彼は机の上に広げた紙へと視線を落とした。

そこには精密な図面と数字、そして魔法とは無縁の記号が並んでいる。


円は力を表す。矢印は向き。

摩擦、質量、加速度。


「魔法がなくても……いや、魔法がなくとも『成り立つ理』が、世界には必ずある」


誰に聞かせるでもなく、マギアは小さく呟く。


彼が見出したのは、世界樹の属性に頼らない“普遍性”。


ある場所では火球魔法が強く、ある場所では治癒魔法が強い。魔法はあまりに地域差がありすぎた。


だが、物が落ちる速さはどこでも変わらない。

水が沸く温度も変わらない。


いくつかの法則に気付いた日、彼の胸に灯った炎は、魔力とは違う熱を伴っていた。


「きっと力は魔法だけじゃない。魔法には無いもの。それを絶対に見つけ出してみせる。」


幸いにもここはかつての魔法研究所。マギアが知識をつけるには充分な様々な書籍が放置されていた。


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