「豪快! 両国夢想」第1話「相続人を探し出せ」その5
「お嬢さん、ちょっと肩を叩こうとしただけじゃないですか…」
うわ、あれだけいやらし~い気を放っておいてタダの肩叩きとはよく言う…。
SUMOU界でも女好きでならすダイブッダは、
あの釈迦を輩出したインド帝國人で、どう見ても大仏。
キミも一応坊主なんだから、
女犯の戒とかカタチだけでも守ろうね。
なんて思っている間も鬼化し続けていた老人が完全に鬼と化して、
ソバに立っていたダイブッダに襲いかかった。
「ここは我ら『愛法院』が仕切るっ!」
そう言いながら襲い掛かってくる鬼の手を両手で受け止めるダイブッダ。
さすがSUMOUレスラーだけあって、
常人の数十倍と言われる鬼の動きを押さえ込んだ。
そこに、いつの間にか現れた坊主たちが、その隙を突いて鬼の腹に無針注射をうった。
鬼は急激に大人しくなり、もとの人間の姿に戻っていく。
アンジェリワクチン!
ディアボロ(悪魔)と名付けられた鬼化ウィルスに
唯一効果があるのがアンジェリ(天使)ワクチン。
製造するのに相当コストがかかるらしく、結構な高値で取引されている。
こんな江戸川ゲットーにもあるんだ…。
感心する私など眼中に無いらしく、
坊主たちは担架に老人を乗せると、そそくさとその場を立ち去ろうとする。
大事な探し人が連れてかれちゃう!
と思ってちょっと焦った私に、
「あのじいさん、ウチの信者なの。
助けてくれてありがとう。お礼したいから、あんたもおいでなさい」
ダイブッダはそう言うと私の手をつかみ有無を言わさず歩き出す。
「あ、あの…」
と言いかけたものの、このまま敵の懐に入り込むのも手かも…
と思い直して口を濁す。
「何?」
と聞いてきたダイブッダに、
「いえ、さすがオスモウさん、大きな手だなって思って…」
と言うと、嬉しそうに笑ったダイブッダは、
私のふくらはぎ辺りを腕を絡めるようにして持ち上げると自分の肩の上に載せてしまった。
「SUMOUレスラーは力も強い。どうだ良い眺めだろう?」
確かに眺めはいい――どんだけでかいんだ…
いやしかし、往来の真ん中でこれはかなり恥ずかしいよ…。
このまま愛法院まで行くのかなぁ…。
その6につづく