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「豪快! 両国夢想」第6話「神なるもの」その2

「282、281、280……」

「このままではゲート開放前に最下層まで貫通してしまいますっ!!」

「落ち着いて、そんな溶解した鉄の中を来られる人は…」

司令部要員を落ち着かせようとした萌は、

そこまで言ってハッとする。

以前リベラルアメリカに行ったときに聞いた噂。

「――マウントラシュモア・フォー・プレジデント…」

(アメリカ南部連合が分裂前のアメリカの大統領たちを

復活させたというあの噂が本当なら、

江ノ島にいる飛鳥の人間では到底防ぎきれない…)

大概のことには動じない薫子にも、

少し焦りの色が見える。

「総員警戒…来ます」

薫子がエレベータシャフトの方から

うろんな気配を感じると同時に萌が警戒を促す。

ダ----ンっ!!!!!!!

という落下音が司令室に響き渡ると、

「HA-----------HAHAHA!」

という高笑いが聞こえてきた。

「生意気なモンゴロイドどもめ…!

この世にはアングロサクソンピューリタン以外はいらんのだっ!

イエローモンキーに神の審判を下すために我は来た!

アメリカ南部連合陸軍大元帥

ジョン・パ--------シングっ推参っ!!!!!!」

挿絵(By みてみん)

「何っ!? パーシングだと…」

「――お知り合いですか?」

「萌…ははっ…この非常時でもかわらぬそのテンション…。

おかげで落ち着いた。

旧合衆国第一次世界大戦時の英雄だ。

前線での指揮経験も豊富だが、

戦術よりも戦略が得意な印象があるんだが…。

なぜヤツをここに投入したのだ?

相手の思惑がまるでわからないのも厄介なものだが、

こうなると来た玉をうつしかないな…」

薫子が苦々しく吐き捨てるものの、

その肩からはすっと力が抜けた。

ガン! ガンッ! ガガガガンッッッ!!!!

<223、222、221……あっ>

その大きな音に驚いたオペレーターがカウントダウンを中断する。

さらにガンガンと音がすると司令部の耐爆扉にコブシの形が浮き上がる。

ついには扉がぐんにゃりと曲がり、

そこから口ひげを生やした初老の男が入ってくると、

さらに緊張が高まる。

司令部要員の構える火器の銃口がその男に向けられているが、

空気がビリビリと震えるほどのすさまじい気で、

緊張した誰もが発砲することができずにいた。

「--で、『二ガー・ジャック』殿が何の用だ?

こちらは招待した覚えはないが…」

と轟然と嫌味をいう薫子と萌だけが平然としている。

「飛鳥薫子殿とお見受けする。

お初にお目にかかる。

黒人部隊を率いたのでそんなあだ名もあるようだが、

せめてもうひとつのニックネーム『ブラック・ジャック』と読んでもらいたいものだ。

だいいち、その方が日の本にはなじみがあろう?」

「初めまして。

――と言ったほうがいいのかな、陸軍大元帥閣下?

墓標の下で大人しく寝ていてくれればいいものを、

わざわざ日の本までおでましとは、

年寄りの冷や水という言葉をご存知か?」

「アメリカ史上、

たったふたりしかいない陸軍大元帥としては、

やはりそれ相応の義務を果たさねばならんからな。

それにしても今どきの若い女は口の聞き方も知らんらしい。

全世紀、東京に駐在武官として赴任したときよりも悪化しているようだ。

どだい黄色い猿に礼儀は無理か? HAHAHAHA!」

「『自慢高慢馬鹿のうち』ということわざがあるが、

パーシング殿には難しすぎるかのう?」

「――美しい顔に似合わず口が悪いですな…まあよろしい…。

ん? まもなくゼロアワーか?」

ふっと思い出したようにパーシングが言うと、

「ゼロアワーです…コンタクト! 

――特異点開きます…安定に成功しました…」

オペレーターが状況を報告する。

「これで我々も向こうに行かせてもらえるといいのだがな?」

「それは出来ない相談だ」

そう言った薫子が手に持っていたボタンを押すと、

室内に非常警報が鳴り響く。


つづく

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