「豪快! 両国夢想」第6話「神なるもの」その1
「ゲート開放まで380sec。カウントダウンを開始します。
379、378、376……」
「五百羅漢全滅っ!!」
「天部防御線が突破されますっ!」
幽冥世へ行くみんなと別れて、
薫子と萌が指令室へ入室すると、
つぎつぎと悪い報告が入ってくる。
(あの異世界への扉が開くまではなんとしても持ちこたえなくちゃ、
私たちの日本はおしまいになってしまう…)
10年前、瑞葉とともに幽冥世に行き、生還した萌としては、
いっしょに向こうへ行きたいところだろうけど、
彼女の第一の任務は検非違使の司飛鳥大納言薫子さんを護ること。
現世でできるだけのことをしようと覚悟を決めている。
「やはり機械人形では無理か…こちらの人的被害は?」
「326名です…。
リコーンは投降する者も射殺しています…」
薫子さまの質問にシビアな数字が返ってくる。
「フン、WASP以外は人に非ずか…。
最下層までの予測到達時間は?」
「あと756sec後に最下層に到達するものと思われます」
「307、306、305…」
「結繪たちを送り出すまでは問題なさそうか…。
だけど帰ってくる場所がなくなってしまうのう…」
司令部正面のモニタを見ながらしばらく考えていた薫子が、
おもむろに口を開いた。
「司令部は0アワーをもって放棄。
藤沢の飛鳥本社へ退いて防備を固める。
萌、メイドたちに避難用チューブへの誘導を優先させて…」
ビービービービービービー…!
ズンッ!!!!! ビリビリビリ…。
薫子の指示を遮るように非常警報が鳴り響き、
何かが爆発する音と
それに続いて振動が伝わってくる。
モニタを観ていたオペレータが叫ぶ。
「緊急! ディープスロート弾…バンカーバスターですっ!
エレベータシャフト34層まで一気に抜かれました。
現在35層の装甲版が溶解中!
上空に静止した大型飛行船より高出力レーザーが照射されていますっ!
35層抜かれましたっ!! …36層…37層…38層が溶解中っ…」
江ノ島上空に飛来したサンダーバード3号そっくりな巨大飛行船は、
2013年に発表され、スペックでは66トンもの貨物を積載できる。
かさばる上に重たい高出力レーザー発生装置も無理なく搭載できるシロモノだ。
空港というインフラが必要ないそれは、
本来なら航空機業界に革命をもたらすはずだったが、
アメリカ南部連合が自国の軍事用にしか使用させないようにしており、
民間航空会社は、
相変わらずエネルギー変換効率の悪い、
ジェット燃料による飛行機を未だに使い続けていた。
「飛行船…今度は海軍か…。
民生を阻害することしかできんくせにやることは派手だな。
…水兵なら海で泳いでいればいいものを…」
対抗策を考えながら、
飛鳥の航空部門なら莫大な利益を上げられるのにと思った薫子が、
アメ連への鬱憤をボソッと呟いた。
つづく




