「豪快! 両国夢想」第1話「相続人を探し出せ」その4
さすが江戸川ゲットー、人口だけは多い。
娯楽が少ない上に低所得なので、
ゲットー住人のお手軽な娯楽はセックス。
コンドームや経口避妊薬は値段が高くて買えないけど、
気持ちいいからという単純な理由で避妊もしないから、
女の子も18歳を過ぎる頃にはだいたいお母さんになっている。
単純計算で36歳でおばあちゃん、
48歳でひいおばあちゃんで66歳になれば
玄孫がいるという具合なので、
ゲットー内の人口は増える一方。
そんなわけで、駅前ともなると、人、人、人でごった返している。
そんな中、ケータイショップに入ろうと、
雑踏をかき分けて歩いてると、
前方から、後ろを振り返り振り返りしながら、
こちらにやってくる人がいる。
どうしたんだろうと見てみると、
なんとあの藤谷ナントカっていうおじいさんじゃない!
こんな所で会えるなんてラッキー!
なんて簡単に喜べる状態じゃないみたいだね。
誰かに追われてる?
じゃあ追いかけてるヤツは、
総督府のエージェントか、ナントカ院の宗教ヤロー。
――まあ、どっちにしろ、ここは助けるの一手だよね。
「おじいさん、どうかしましたか?」
と親切で優しい女性っぽく声を掛けると、
そのじいさんはイキナリ苦しみ出した。
「え? ねえ、どうしたの?」
驚いて介抱しようとした私は、
藤谷老人の額から角が生えていくのを見て、
何が起こっているのか理解した。
(鬼化ウィルス……!)
そう思った瞬間、私の背後で悪寒が走った。
その場から転がるようにして飛び退ると、気を感じた方向を見る。
――と、そこにいたのは、
ぐるぐると縮れた髪がまるで大仏の螺髪頭みたいな大男が立っていた。
(げっ…SUMOUレスラー、ダイブッダ…)
「SUMOU」---、
それはかつて国技とまで言われた国民的スポーツ相撲が、
アメ連風にショーアップされたもの。
アメ連のプロレスプロモーターWWPに買いとられた世界SUMOU協会により運営されている。
この江戸川ゲットー最大の娯楽であり、
そして唯一の希望と言ってもいい。
試合に勝てば報奨金が貰えるうえ、
トーナメントで優勝すれば、莫大な賞金と
アメ連の国民として市民権=グリーンカードが支給される。
ただし、本当のガチンコSUMOUのため、死者もよく出る。
ダイブッダは、そんなSUMOU界でも、
そこそこ強いと言われる幕内(In The カーテン)にランキングされるレスラーだった。
その4につづく




