「豪快! 両国夢想」第5話「黄昏の国」その21
小太郎と呼ばれた少年は、
「もう問題ないですよ…」
と結えちゃんに向かって答えたあと、
タチアナ皇女大佐のほうを向いて、
「あと大佐、
ボクはもうピラトじゃないんだ」
と告げると、その場の空気が一瞬氷付いたようになる。
「誰?」
話の流れが分からない私は、
隣にいたネバダに小声で聞くと、
お手上げという感じで肩をすくめた。
前に座っていた瑞葉ちゃんが、
「十三部、烏部司、
熊野小太郎殿は、
10年前の戦で
第二契約者を裏切ったピラト--
--ローマ帝国で救世主の処刑を認めたの総督--
--に肉体を乗っ取られ、
今は体を取り戻して
ずっとリハビリしていたのです」
と少しこちらを振り向いて教えてくれる。
「はぁ…それって、
ローマ帝国の人の霊か何かに取り付かれてたってこと?」
「そんなようなものなのです。
その折の戦闘で負った傷が元で、
障害が残っていたのですが…」
瑞葉ちゃんが説明してくれる間も、
小太郎さんたちは会話を続けていた。
「10年前は不覚をとりましたが、
今は傷も癒えました。
今度はボクに先鋒をさせてもらえないでしょうか?」
それを聞いていた静葉が口を開いた。
「ピラトを憑依させていた遺伝子上の第十三因子は取り除いてあるので、
ピラト本人でないことは確かなのです。
ただ…魂の一部が融合してるので、
完全にもとの小太郎というわけではないのです…」
「………」
黙って聞いている小太郎に、
「万が一を考えると、
幽冥世に連れて行くには
リスクが多すぎますわ」
と音音が言い放った。




