「豪快! 両国夢想」第5話「黄昏の国」その5
武道棟を出るまでにも何度か地響きがあり、
その音がだんだんと大きくなってきている。
「う、な、なにっ!?」
出口の方から妲己=葛葉ねえさまの
何かに驚いているような声が聞こえてきた。
急いで校庭に出ると、
そこには葛葉ねえさまを巨大な手に握った観音さまが立っていた。
「これって大船の観音さま!?」
「でも足がある…」
大船駅のすぐそばの山の中にある巨大な観音像は
電車からも見えるので有名だけど、
シーザーの石膏胸像と同じで
山影から見えているあるのは頭周りだけで、
そのほか胴体や足は存在しない。
なのに今、この校庭にいるのは、
二つの足で立つ観音さまだった。
『音音さんから事情は聞きました~。
妲己かあさまは捕まえましたわー』
観音さまがしゃべってる…。
あれ、この声、静葉ねえさまの声だ。
「ええい、放せ! 放さぬか!」
そう叫んで暴れるだっきに、
『暴れても無駄無駄。この飛鳥重工謹製の
対妖仏型決戦兵器【鉄観音】の掌には、
何重にもシールドが張り巡らしてある。
いくら妲己といえどもこの手から逃れることは叶わぬわ』
と今度は別の声が言い放った。
あ、この声、検非違使の別当飛鳥薫子--。
「今日の実験って、
このロボットのことだったんだ…」
「…いつの間にこんなの…」
妲己との戦いになるものと思っていただけに
三狼とふたりで脱力してると、
<検非違使もやるもんですわね。
とにかく、飯綱の球を回収して封印しないとですわ>
とインカムから音音の声が聞こえてきた。
<間もなくそちらにつきますから、
力場を形成しますから鶴部の諏訪みことと
鹿部の鹿島迦久を呼んでおいて>
「うん。布都御魂剣と
藤葛も用意させとく」
つづく




