「豪快! 両国夢想」第5話「黄昏の国」その4
<結繪ちゃんっ! 葛葉ねえさまに気をつけてっ!!>
無線が回復したのか、
不意にインカムから音音の叫びにもにた声が聞こえてきた。
「あらあら、もう結界が破られましたか…。
役に立たない神使の狐どもよ」
そうつぶやいた声は、
10年前に聞いた妲己の声だった。
古代中国では殷という国を滅ぼし、
平安末期の日本を騒乱に巻き込んだといわれる九尾の狐、
そして葛葉ねえさまたちのおかあさまでもある妲己。
10年前に復活しかかったことがあるけど、
そのときは瑞葉ちゃんの機転でことなきを得た。
あのときは9本の尻尾が揃ったことで妲己が復活したけど、
今は尻尾が5本しかないのにどうして…?
そんな疑問は音音からの通信で解消された。
<飯綱の玉はトラップだったの。
玉に封印されてた妲己の記憶が
葛葉ねえさまを乗っ取ってしまったのですわ>
なるほど……悪い方にビンゴ。
ということは、絶対静葉ねえさまに会わせちゃダメってこと。
そんな焦りを読まれたのか、
「こうなれば、静葉を探し出して取り込むのみ」
と言った妲己が、私たちのいる入り口の方に近づいてくる。
妲己に乗っ取られてるとはいえ、
体は葛葉ねえさまなんだから、傷つけられないし…。
そのとき突然地面が揺れ始め、
その揺れがだんだんと大きくなっていく。
「! お、大きい!?」
規模は3ぐらいだけど、長い。
さらにもう少しおおきな振動が、
どん! という音とともに響き、
妲己が体勢を崩した私と三狼の間をすり抜けていく。
すり抜けざまに、両手を振り回し爪で攻撃してくるが、
三狼も私も刀の鞘だけではらった。
「三狼、追うよ!」
言うより早く二人とも体が動いて
校庭のほうへ向かった妲己を追いかけていく。
つづく




