「豪快! 両国夢想」第5話「黄昏の国」その3
更衣室のドアを叩くと、
「どうぞ」
と中から応えが返ってきた。
ドアを開けると、ちょうど着替えを済ませたところのようで
葛葉ねえさまは襟元を直してたたずんでいた。
「ねえさまっ! 一体何が?」
「待ち伏せされたのです。
江戸川ゲットー内のガスタンクもすべて爆破され、
堤防を壊さなければ大変なことになるところだったのです」
三狼のほかに誰も入ってこないか
開け放してあるドアを気にしてるみたい。
「今は現地の戦力と協力して持ちこたえていますが、
敵が何を仕掛けてくるかわからないので、
私も急いで戻りたいのです。
--ところで静葉ちゃんはまだ…?」
「静葉ねえさまは、今、出張中で、
ここには戻れません」
「何!?」
と聞く声に少しケンがある。
「私も葛葉ねえさまと暮らして随分たつけど、
ねえさまのそんな声聞くの初めて」
「それは…今は緊急事態だからなので…」
「それに、私、ねえさまの大好物、
北鎌倉・光泉のおいなりさん持ってるのに
ぴくりともしないのも変!」
そう言って持ってた袋から、おいなりさんの入った箱を取り出し
包みを開ける。
「だってみんなが大変なときなのに、
私だけ食事するというもの気が引けるというか…」
「おいなりさんを前にして、
その理性的なもの言い! ぜったいありえない!
あなた誰、どうして葛葉ねえさまに化けてるの!」
つづく




