「豪快! 両国夢想」第3話「在住と飯綱の珠」その5
「在住がいいなら、連れていっても構わないけど、
私は動く気ないからね」
「先ぱ~いだって、
弾正台関係者だってわかったらただじゃすまないんですよっ」
「でも、蘭が守ってくれるんでしょ?」
「もちろん!
私もだてに京都で陰陽師の修業してたわけじゃないから。
今や変化もすれば式神も使えるようになってるんです。
全力で守りますよ」
「じゃあ、しばらくはそれでいいじゃない。
とにかくお店においでよ」
世界のパワーバランスなんって言われてもピンとこないけど、
一般庶民としては、
今以上にここ江戸川ゲットーが混乱するのだけは
勘弁して欲しいんだけどな――。
* * *
「ええええええ~っ!? わ、私もこれ着るんですか?」
お店に着いてメイド服を渡すと、
服をあてて鏡に映った自分をみて恥ずかしそうにする蘭。
「そうだよ。在住だって着てるでしょ」
「カフェっていうから、ソムリエエプロンかなって思ってたのに~」
「追い出されたくなかったら、とっとと着替えてきてね」
にっこり微笑んでそう言うと、
蘭はしぶしぶという感じで事務室兼ロッカールームへと入っていった。
――と思ったら、慌てふためいた様子の蘭が、
乱れた服装のまま飛び出してきた、
「先ぱ~いっ! なにあの子…」
「…挨拶がないから礼儀を教えてあげたの!
年下でも、ここでは私の方が先輩なんだから、
挨拶するのは当然でしょ! 芸能界だったら…」
「あ~、ごめんごめん、ちゃんと紹介しなかった私が悪い。
この子はこの前から働いてもらってる迦陵逸音。
この子は私の後輩で京都からきた阿部 蘭」
「京都なのに”どすえ”とか言わないのどすか~?」
「…なっ…1300年にも亘る由緒ある阿部家の令嬢たる私に向かってなんという無礼…」
「蘭は東京育ちだからね。
もう、ふたりとも今日からいっしょに働く仲間なんだから
仲良くしてよね。仲良くしないとホントに怒るよ…」
「えっ!? するするっ! ねー逸音ちゃん」
「えー、ボクぅ、
先輩のことちゃん付けで呼ぶような人と仲良くできるかなぁ?」
この前までヤクザの親分を操って自由気ままに生きてきた逸音だけに、
気に入らないことがあれば
この子にはそろそろ体に教えてあげたほうがいいかもしれないね、ふふふ。
私の雰囲気の変化を察した蘭がびくんと反応した。
「ばばばばば、ばかっっっっっっ…!」
幼馴染だけあって、私を怒らせると何をされるか知っている蘭は必死で逸音を制止する。
「え~、先輩に向かって、ばかって言っちゃううんだ、
信じらんないっ!」
「はいはい、言うことを聞けない子には体に教えましょうね~♪」
私はにこやかに言いながら、逸音の腕を掴むと足を払って床に倒す。
「え!?」
一瞬なにが起こったか分からない逸音に四の字固めをキメる。
「う…キャーーーっっ! 痛い痛い痛いっっっっっ!!!」
技を外して、両手両足を絡めると私が下になって、
そのまま逸音の体を上へ持ち上げる。
「ふぐっ…」
「つ、吊り天井…」
青くなって見つめている蘭がガクブルでつぶやいてるのを聞きながら、
更に技を切り替えていく。
足首を掴んで、腹ばいにせるとさそり固めを決める。
「………」
あれ、逸音ってば反応うすいなぁ??
「…せ…先ぱ~い…失神してる…」
あ、ちょっとやりすぎちゃったかな?
つづく