オリジナル小説「豪快! 両国夢想」プロローグ 後編
きわどいTバックの水着に目元を隠す仮面、
そして背中に天使ような羽をはやした彼女は、
おもむろに跳躍するとアナウンス席のマイクを奪い、
「ココは禁煙だし、そのエンジンの音はお年寄りにはちょっとうるさすぎますよ~」
と言うと、フェンスで仕切られた向こうにいる群衆の中にキーを放り投げ、
颯爽と土俵へ登っていく。
会場からは歓声と大きな拍手がわき上がる。
『大関・バトルTOKYO、
炉須案是瑠巣の意表をつく先制パンチをくりだしたぁー!』
アナウンサーが彼女の名前を告げ、状況をあおると、
顔を真っ赤にした炉須案是瑠巣は吸っていた葉巻を投げ捨てると、
土俵へ猛然と上がっていく。
炉須案是瑠巣がバトルTOKYOに掴みかかろうとするのを、
土俵上にいる眼帯の行司
二代目アルベルト・オ・コロンナが制止する。
巨漢揃いのOH! SUMOU界で、
公表体重56キロというバトルTOKYO。
柔よく剛を制すの言葉さながらに、
彼女が外国人力士を投げ飛ばす様を観て、
普段溜まりに溜まっている準州総督府軍への不満の溜飲を下げようと、
日本中の人間が固唾を飲んで見守っている。
「time up! Both correspond.!
good luck!(時間一杯! 両者見合って! はっけよい)」
アルベルトの掛け声で取り組みが始まる。
会場がバトルTOKYOへの割れんばかりの声援で建物がビリビリと振動する。
勝負はあっという間だった。
炉須案是瑠巣の後ろに素早く回ったバトルTOKYOが一瞬の隙を突いて跳躍、
炉須案是瑠巣の首に足を絡ませて、
背中に垂れ下がると、その勢いで炉須案是瑠巣の膝の裏に手刀による一撃を加えた。
炉須案是瑠巣がたまらず膝を着く前に
再び跳躍して土俵際に降り立ったバトルTOKYOは、
アルベルトが勝ち名乗りを上げるなか、
沸き立つ群衆に向かって手を振ると、素早くフェンスを越え、
立ち見の観客の中に紛れ込んでしまった。
「ただいまぁ~」
「あ、凪ねえ、丁度今結びの一番がおわったとこだよ!」
もうちょっと早く帰ってくれば観られるのにと僕は思うんだけど、
凪ねえは、
「私お相撲ってあんまり興味ないんだよね~」
と、どうでもいい様子。
「それより、ふたりとも、お相撲終わったから忙しくなるよ!」
そう言い終わらないウチに、お客さんがやって来始めた。
今日もバトルTOKYOが勝ったから、みんな上機嫌。
いそがしくなりそうだ。
プロローグおわり
第一話につづく