「豪快! 両国夢想」第3話「在住と飯綱の珠」その1
「まったく風情がないねえ」
錦糸町駅前の魚屋うる寅の主人ツブラヤが、
隅田川沿いにある通称うんこビルの脇に建設中のガスタンクを見て、
吐き捨てるように言う。
最近なんだかゲットー内にガスタンクが増えている。
もともと東京湾岸には南関東ガス田という、
国内の天然ガス埋蔵量の9割を占める巨大ガス田があるんだけど、
地盤沈下するからと、
前世紀に都が採掘権を取得して採取を規制していたらしい。
だけど総督府はゲットー内の環境には興味がないらしく、
住民を立ち退かせ、巨大な精製プラントを建設し、
貯蔵用ガスタンクを増やしていた。
メタンハイドレートのおかげで、
今世紀中のエネルギー供給に不安はないとはいえ、
融合炉の完成が見込み薄な今、
使える化石燃料は使ってしまおうという腹らしい。
京都議定書を完全無視するアメ連ならではだけど…。
「で、今回の依頼っていうのは?」
「京都陰陽寮の依頼で要人警護。
ギャラはカナダパラジウムで3000枚」
「さ、3000っ! なにその破格なギャラっ!」
通常ならこの手の依頼は1000パラぐらいが相場なだけに、
ちょっとヤバイ話かなと思ったり…。
そんな思考が顔に出たのか、
「依頼主のねえちゃんを見た限り、単におまえさんをご指名なだけで、
やばそうには思えないがね」
と言うツブラヤは、旧首都高の柱が林立してる方を指さした。
すると、そこから影のようなモノが走り出てこちらに接近してくる。
「探しましたよぉ~先ぱ~い! お久しぶりです~」
って、<ぱ>と<い>の間を伸ばす
この独特のイントネーションとこの声、ま、まさか…。
つづく




