「豪快! 両国夢想」第2話「美少女を救出せよ」その8
弁天組のボスが撃ったその弾は、幸い誰にも当たらなかったけど、
お札を切り裂き、逸音を呪縛していた結界が崩れ、
逸音は壊れた窓から外へと飛び出して行く。
「まったく…」
そう言ってボスの方を振り返ったそいつを見た途端、
ボスは悲鳴を上げてその場に崩れるように失神した。
慌てて表に出ると、
赤いランドセルをしょった小犬を思わせる4人の女の子に囲まれるようにして
全身を注連縄で拘束された逸音が地べたに倒れてていた。
あの制服、たしか鎌倉の西御門学園小等部のだったはず…。
「よしよし、よくやったな」
子供達の頭を撫でながら男はそこに近づくと、懐からビンを取り出した。
「君は犬神憑きなんから、
あんまり力を使い過ぎると
犬神に取り込まれるよ」
「この子は、そんな子じゃないっ!
この子はただ寂しかっただけで…」
そう怒鳴る逸音の前で、
男は指を不思議な形で組むと、
お経の様な言葉を何事かつぶやく。
するとビンに張ってある御札が光り、
苦しむ逸音の口から光の靄のようなものが浮かび上がる。
それをビンで捕獲すると、
懐から取り出した御札で口を塞いでしまった。
「これでよし……」
男がそういって指をパチンと鳴らすと
みるみるウチに逸音は人間の姿に戻っていく。
服は変身で破れてしまったようで裸になってる逸音に
気を失ってる弁天組みの構成員から服をひっぺがして着せる。
「――オレは鎌倉弾正府の隠神刑部だ。
これは弾正府が預かる。その子はもう変身することはないから安心していい」
言いたいことだけいうと気がすんだようで、
放心状態の逸音を残したまま隠神はフッと姿を消してしまった。
え!? 弾上府!? じゃあ、あの人はママの同僚か何かなの!?
今回の依頼は逸音さえ戻れば報酬は問題なく貰えるはずだけど、
まるで狐に摘まれたような展開に、
納得がいかない私の前に、
ツブラヤがカブに乗ってやってきた。
つづく




