「豪快! 両国夢想」第2話「美少女を救出せよ」その3
時間が惜しいので、言問い通りに出てタクシーを拾う。
乗ってしまってから後悔した。
運転手さんが結構な年齢に見えたので、
乗務員表を見ると、
アメ連に日本が占領された10年前の日付で”長谷川和夫80歳”って書いてある…。
当然のことながら、江戸川ゲットー内では、
年金もなければ定年もなく、
免許更新などもない。
「埋め立て地のドヤ街まで…」
「おうよ。おうっ!? ネバダ関じゃねえか。
オレっち、あんたのファンなんだよ。
これで窓ガラスにサイン入れてくれ。
こっちのかわいこチャンは関取のレコかい?」
と言ってマジックを渡しながら小指を上げる。
これだから20世紀生まれの人は…。
行き先を告げると
モノスゴいスピードで飛び出して行く。
自称江戸っ子クモスケだという運転手さんの年齢等考慮すると、
無事に着けるよう天に祈るしかない。
ネバダに写真を見せながら事情を話す。
「この子を探してるんだけど、
家出娘っていったらやっぱりドヤ街じゃない。
でもあそこ物騒だから
2時間ぐらいボディガードしなさいよ」
「なんだ、まだ探偵やってんのか?」
「まだって何よ」
ムッとして語気鋭く言ったとたん、タクシーがスピンするようにして停車した。
「着いたぜ。んあ? その娘なら、
確かにオレッちがドヤ街まで乗せたぜ」
目ざとく写真を見た運転手さんが言った。
さすが私! 名推理が冴えてるっ!
もしかして、わりと早く見つかるんじゃない?
「この子、どこかで見たような…」
予感を裏付けるように、
聞き込みを始めてから1時間ほどしたころ、
何となく見覚えがあるというオッサンとでくわした。
「うーん、どこだっけなぁ…」
散々悩んだ挙句、
「あ、わかった! コスプレバー『天草』のトキサダに似てるんだ。
すっげえキレイな男の子でさ、印象に残ってたんだわ。」
とのたもうた。トキサダって、男?
探してるのは女の子だってば…。
「しかしまぁ、そっくりだ。オレも若いときは…」
まだブツブツ言ってるオッサンにお礼を言う。
取りあえず、『天草』に行ってみよっか…。
つづく