「豪快! 両国夢想」第1話「相続人を探し出せ」その12
在住くんが接客してて、厨房担当の私がココにいるのに何故?
疑問符だらけの私に気がついた在住が、
「凪ねえ、遅いよ! 義母さんが厨房入ってくれてるからよかったけど」
「え!? うそ…」
そう言われて慌てて厨房に飛び込むと、
私の実の母・潮が厨房内で縦横無尽に料理を作製してるところだった。
「あらあら凪ちゃん、
営業時間に遅れるなんて、いいご身分ねぇ。ウチだったら営倉入りよ」
「ママ、ここは軍隊じゃないし……」
「やだ、ママは元軍人じゃなくて元自衛官▽」
にっこりと微笑む母は、娘の私が言うのもなんだけど、
華奢な感じのするアラフォー美人。
この人が、自衛隊の元二佐で、
マーシャルアーツの教官をしていたとはとても思えない。
自衛隊が解体された今も軍人ぽさが抜けなくて、
ときどきぎょっとさせられることがある。
まあ、やっぱり元自衛官の父といっしょに
密かにレジスタンス活動を続けてるんだから仕方ないか…。
そんな義母に、
「で、ところでそのケースはなぁに?」
と聞かれてぎくっとする。
「まさかとは思うけど、パパに内緒で探偵業続けてるんじゃないわよね?」
「ち、ち、ち、違うよぉっ。探偵は危ないから、
パパがダメだって言ってたもん▽」
父と母が再婚したのは私が15歳のとき。
当時レンジャー部隊の隊長だった父は、
家にはたまにしか帰ってこなかったけど、
娘ができたとすっごく喜んで、
目に入れても痛くないという勢いで可愛がってくれた。
一方、母が教えてくれていた護身術で基礎ができていた私に、
レンジャー部隊で習得していくいろいろな体術とサバイバル技術を教え込んでくれた。
そのときは本当に厳しかったけど、
それもこれも半端に教えて怪我でもすることを
恐れてのことだということが私には分かった。
血は繋がってないけど、大好きな父。
その父が禁止している探偵業を続けてるのがバレたら、
父は滂沱の涙を流して悲しむことは必至。
内心だらだらと汗をかきながら、母親の方を見ると、
「別に私はどっちでもいいんだけどね。半分でいいんだけど…」
と何食わぬ顔。
今の言葉の言外の意味をくみ取ると、
<パパには内緒にしておいてあげるから、
それ半分口止め料にちょうだい▽>
と言われているに違いない。
250枚になったら、
スペクトラファイバーの新スーツ買えないじゃない~~っ!
母は現在、鎌倉でアメ連に抗戦し続けている弾正府の情報部を統括してるから、
この江戸川ゲットーの動きもチェックしてるはず。
それでこんなにタイミング良くお店に…。
「ママ、職権乱用じゃないっ!」
と叫んでも、
「あらあら、ママは何も言ってませんけど……」
とあくまでも何も知りませんという呈で、料理を作り続けてる。
探偵家業を父親に知られたら、絶対家に連れ戻された挙げ句、
きまじめな軍人と結婚させられて、
一生牢獄のような結婚生活を送るハメになるに決まってる…。
父が悲しむかと思うと、きっと離婚も出来ないだろうし…。
「……私の負け…。半分持ってって…」
諦めた私はパラジウム金貨の半分250枚を残してケースを差し出した。
「ありがと▽」
たぶんこの笑顔を見た男の10人中8人は陥落するだろうなぁと思いながら、
ソムリエエプロンを締めると母とチェンジする。
「たまには家にも顔出してね。パパ喜ぶから」
と言うと母はアタッシュケースを掴んでお店を出て行った。
ご飯ぐらい食べて行けばいいのにと思いつつ、
枚数が1/4(クオーター)になったバナジウム貨を金庫にしまう。
ああ、またツブラヤのおじさんから仕事もらわなくちゃなーと思いながら、
続々と入ってくるオーダーをこなす私だった。
おわり
第二話につづく