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朽ち果てるまでここにいて

ある日不意に目が覚めた

目が覚めたと言うよりはそこで誕生したというのが正しいのかもしれない


「見ろ!実験は成功だ!!」


その時ぼくの目の前にあったのはよくわかんない緑色の水と、よくわかんないケーブルたちと、よくわかんないガラスと、それとよくわかんない大人たち


「No.1645が目覚めたぞドクター!」

「ホント!?やっぱりあそこの遺伝子構造が間違ってたんだわ!73日と4時間前に言った通りじゃない!」

「あーぁー悪かった悪かった、お見それしました、参りましたよドクター」


その日からたくさんの時間が過ぎた、人間っていうのはすごく脆くてすぐ老いる

1人、また1人と僕の前で人間が老いて朽ちて倒れていく

僕を作ったらしい博士も含めてどいつもこいつも碌な奴じゃないのか警察だとか軍隊だとか国だとかミサイルだとかまぁともかく色々と攻め込んでくる


「無駄な抵抗はやめろ!!ッグゥ?!

「無駄はどちらだ、言ってみろ」

「ウグゥ————ッ?!」

「あぁ悪いな、まさか何か言う前に死ぬとは思わなかった」


何億と殺した、何兆と死んだ

どうやら俺は超再生能力とやらを身につけて生まれた悍ましいモンスターらしく何をされようが死ぬ前に回復してしまうし、死んだら死んだで心臓やら脳が超回復のついでに蘇生してしまうらしい

だからこうしてラボを襲う奴らを排除するために駆り出されては死んだり、殺したり、死んだり、死んだり、死んだり死んだり殺したり殺したり死んだり殺したりするわけだ


「…ねぇ、死なないからって無茶苦茶するのはやめなさいな」

「そういうカタチに造っておいていざ死なれると困るのか?」

「えぇ言いますとも、だってわざと死んでいるでしょう?」

「そりゃあもちろん、どこかの貴婦人がスーパーパワーをくれたんだ、健全な男の子なら無茶をしたいものだろう?」

「あら、モンスターのくせに男の子を騙ってレディを誑かすのかしら?」

「おや、皺くちゃのくせにレディと嘯くキミと同じくらいニンゲンぶってるつもりなのだが」

「随分とひどい人ね」

「最初からヒトじゃないさ」


皺くちゃの博士は私が死ぬ度に辛そうにしていた。私はそれを知っていて、そして心配をしてもらえる人間らしさというぬるま湯に甘えて化け物じみた行いを繰り返していた

いつかくる終わりを理解した上で私は彼女と共にいた


「ねぇ私の可愛い子…?どうかこっちに来て…?」

「貴女の子じゃない、私は貴女の隣人で在りたかった」

「嫌よ、あなたは私の可愛い子供で…友人で…恋人で、家族で……そうねぇ、きっとどこに在っても愛する人よ…」

「…ぼくも、あの日からずっと愛してたよ」

「ふふふ、大人ぶった仮面をやっと引っ剥がしてやったわ…!」

「おいおい、貴女の隣にいるための仮面だったのに…!」

「大人ぶるのも、化け物ぶるのもおしまいよ?これから貴方はたくさんの人に会って、たくさんの場所に在って、いろんな思い出に遭って…そして大切な人に逢うの」

「いいや…全部貴女で良くて、貴女とが良くて、貴女が良くて…

——絶対に貴女じゃなきゃいやだ」


あら、わがままな子…

じゃあ私がねむるまで…

抱きしめていてちょうだい…


それから何年も経った、彼女はとっくに死んで土に還ったしラボも制圧の後は放置され、朽ち果て、今じゃあんな研究なんて無かったみたいに何も残っていない


「やぁドクター、性懲りも無く花を手向けに来たよ…僕も貴女と同じようにまともな子供を持とうとはしない、私とキミは似た者同士だ」


かつて非人道的な研究を行っていた研究所だったという噂のある廃墟の近くには今、見渡す限り美しいキキョウの花畑が広がっている

文明も歩みを進めて天然の種から咲いた花なんてもうここにしか残っていないかもしれない…それくらいの時が経った


「素敵な花畑ね」

「えぇ、貴女によく似てる」


後ろから話しかけてきた女性に振り返ると彼女とは思えないくらい可愛らしいきょとんとした顔をしていた、私がくすりと笑うと彼女もあの頃と同じようにふふふと笑う


「それにしても頑固ね、アレだけ感動的なお別れをすればきっと次の愛を見つけると思ったのに…やっぱり女の勘なんてアテにならないわ」

「あぁ、貴女がたとえ100年後に生まれ変わっても100万年後に生まれ変わっても…僕は貴女に捧げるキキョウを育てていたと思うよ」

「物好きねぇ」

「お互い様だろう?」


あら、いじわるな人

じゃあ私がまた朽ち果てて生まれ変わったその先の先の先まで…

ずっと抱きしめていてちょうだい?

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