出会い
赤茶けた大地を、風が吹き抜けていく。
フレアはひとり、乾いた道を歩いていた。背には双剣、腰には旅の荷。頭にはフード。目は細く、けれどまっすぐに前を向いている。
「……そろそろ、町のはず」
遠くに見えてきた建物の影を見つめながら、フレアは小さく呟いた。喉は乾いているが、荷の水も残りわずかだ。気軽には飲めない。
──初めて来る土地。何を得られるか、何を失うかは、まだ分からない。
それでも、歩くしかない。
自分で選んだ道だから。
夕日が照り返す赤い岩肌の荒野に、影が揺れていた。
「よぉ、おとなしく荷物置いてきゃあ、怪我はさせねぇよ」
「いやいや、もう少し優しくしてよ。ほら、僕こう見えても繊細だからさ?」
猫耳の少年が、岩場に追い詰められていた。前には数人の山賊。背後は崖。逃げ場はない。
「口の利き方がなってねえな……!」
一人の山賊が短剣を抜いて一歩踏み出す。
その瞬間、空気が焼けた。
ゴッ、と風が唸り──炎の閃光が山賊たちの間に走った。
「な、なんだ!?」
突風のように現れた少女が、山賊の一人をなぎ倒す。
赤い髪をなびかせ、両手に片手剣を構えた少女──フレア。
「……退いて」
その声音は落ち着いているが、周囲の空気が熱を帯びていく。
「くっ...!何者だ?
まあいい、やれ!」
山賊たちが叫び、武器を構える。
フレアは構えを低く取ると、一気に間合いを詰めた。
剣が閃き、風と共に炎が舞う。地を這う火が山賊たちの足元を焼き、悲鳴が荒野に響いた。
「ぐあああっ!」
「ば、化け物か……!」
残った山賊が崩れ落ち、静寂が戻る。
フレアは剣を鞘に収め、小さく息を吐いた。
荒野に残る焦げた匂い。
「えーっと……助けてくれてありがと?」
後ろから声がした。振り返ると、猫耳の少年が倒れた山賊の懐をまさぐっていた。
「……それ、君の?」
フレアの問いに、少年は手を止めてこちらを見た。
「にゃー、見つけ物? こんなに危険な目にあったんだから、ちょっとくらい報酬もらってもいいでしょ?」
少年は悪びれる様子もなく言った。
フレアは肩をすくめる。
「別に咎めるつもりはないけど。……あまり恨まれないようにね」
「心配してくれるの? やさしいなあ、燃えるお姉さん」
「燃える……?」
「いや、なんか雰囲気が。赤い髪に、炎みたいな剣捌き。いいじゃん? “燃えるお姉さん”」
「......変えてくれる?」
「じゃあ名前教えてよ。そしたらちゃんと呼ぶよ」
フレアは一瞬、ためらったように口をつぐんだが、やがて小さく名乗った。
「フレア」
「フレア。うん、いい名前。僕はミル。見てのとおり、旅の猫」
ミルはひらりと片手を上げて笑う。
「……旅って、どこへ?」
「それが分かってたら、もっとマシな格好してるってば」
「ふふ、そうね」
フレアが少しだけ微笑むと、ミルはその表情をちらと見て、目を細めた。
「で、フレアさん。お姉さん一人だとちょっと物騒だから、僕も一緒に歩いていい?」
「心配してくれるようなタイプには見えないけど」
「僕が心配してるのは、僕の命。助けられて味をしめたってわけ。さっきの戦い、なかなか楽しかったしね」
フレアは呆れたように空を見上げる。
「……いいわ。ついてこれるなら、好きにすれば」
「そうこなくっちゃ!」
ミルは笑い、フレアの隣に並ぶ。