表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フレア  作者: 化井夏人
1/3

出会い

赤茶けた大地を、風が吹き抜けていく。


フレアはひとり、乾いた道を歩いていた。背には双剣、腰には旅の荷。頭にはフード。目は細く、けれどまっすぐに前を向いている。


「……そろそろ、町のはず」


遠くに見えてきた建物の影を見つめながら、フレアは小さく呟いた。喉は乾いているが、荷の水も残りわずかだ。気軽には飲めない。


 ──初めて来る土地。何を得られるか、何を失うかは、まだ分からない。


それでも、歩くしかない。

自分で選んだ道だから。


 夕日が照り返す赤い岩肌の荒野に、影が揺れていた。


「よぉ、おとなしく荷物置いてきゃあ、怪我はさせねぇよ」


「いやいや、もう少し優しくしてよ。ほら、僕こう見えても繊細だからさ?」


 猫耳の少年が、岩場に追い詰められていた。前には数人の山賊。背後は崖。逃げ場はない。


「口の利き方がなってねえな……!」


 一人の山賊が短剣を抜いて一歩踏み出す。

 

 その瞬間、空気が焼けた。


 ゴッ、と風が唸り──炎の閃光が山賊たちの間に走った。


「な、なんだ!?」


 突風のように現れた少女が、山賊の一人をなぎ倒す。

 赤い髪をなびかせ、両手に片手剣を構えた少女──フレア。


「……退いて」


 その声音は落ち着いているが、周囲の空気が熱を帯びていく。


「くっ...!何者だ?

  まあいい、やれ!」


 山賊たちが叫び、武器を構える。


 フレアは構えを低く取ると、一気に間合いを詰めた。

 剣が閃き、風と共に炎が舞う。地を這う火が山賊たちの足元を焼き、悲鳴が荒野に響いた。


「ぐあああっ!」


「ば、化け物か……!」


 残った山賊が崩れ落ち、静寂が戻る。


 フレアは剣を鞘に収め、小さく息を吐いた。

 荒野に残る焦げた匂い。


 「えーっと……助けてくれてありがと?」


 後ろから声がした。振り返ると、猫耳の少年が倒れた山賊の懐をまさぐっていた。


「……それ、君の?」


 フレアの問いに、少年は手を止めてこちらを見た。


「にゃー、見つけ物? こんなに危険な目にあったんだから、ちょっとくらい報酬もらってもいいでしょ?」


 少年は悪びれる様子もなく言った。


 フレアは肩をすくめる。


「別に咎めるつもりはないけど。……あまり恨まれないようにね」


「心配してくれるの? やさしいなあ、燃えるお姉さん」


「燃える……?」


「いや、なんか雰囲気が。赤い髪に、炎みたいな剣捌き。いいじゃん? “燃えるお姉さん”」


「......変えてくれる?」


「じゃあ名前教えてよ。そしたらちゃんと呼ぶよ」


 フレアは一瞬、ためらったように口をつぐんだが、やがて小さく名乗った。


「フレア」


「フレア。うん、いい名前。僕はミル。見てのとおり、旅の猫」


 ミルはひらりと片手を上げて笑う。


「……旅って、どこへ?」


「それが分かってたら、もっとマシな格好してるってば」


「ふふ、そうね」


 フレアが少しだけ微笑むと、ミルはその表情をちらと見て、目を細めた。


「で、フレアさん。お姉さん一人だとちょっと物騒だから、僕も一緒に歩いていい?」


「心配してくれるようなタイプには見えないけど」


「僕が心配してるのは、僕の命。助けられて味をしめたってわけ。さっきの戦い、なかなか楽しかったしね」


 フレアは呆れたように空を見上げる。


「……いいわ。ついてこれるなら、好きにすれば」


「そうこなくっちゃ!」


 ミルは笑い、フレアの隣に並ぶ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ