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喜びの都市、ディライト


――――ディライトシティ


 喜びの都市、という意味を込められたこの都市は、ここ30年程で飛躍的に発展した新興都市だ。

 グランディア大陸の中央に位置し、東西南北の土地からさまざまな種族が入り乱れる多種族都市、妖精人(エルフ)獣人(ビースト)鬼人(オーガ)吸血鬼(ヴァンパイア)土人(ドワーフ)、そして人間(ノーマル)。これらは一部だが、それらが共存しあい、支え合う都市。

 しかし、新興都市なだけあり、課題は山積みだった。最たる例は、種族間の思想の相違だろう。

 日々起こる、種族間の対立、諍い。それらを引き起こすのは、力の差だ。

 種族によって、当然の如く得手不得手がある。例を挙げると、エルフであれば内包魔力が多く、魔術の扱いに長けている一方。代わりに筋力がなく、肉弾戦はめっぽう弱い。

 その逆が鬼人だ。鬼人は筋力が高く、肉弾戦に長けている一方。その代わり内包魔力が低く、魔術を得意としない。

 そんな種族間の力の差が、犯罪を引き起こす。今やディライトは、犯罪の温床。犯罪界の聖地(メッカ)である。

 喜びの都市、なんて名称は見る影もない。

 今や、狂気の都市(マッドシティ)なんて蔑称も付けられる程だ。

 ディライト警察も度重なる犯罪で引く手数多な状態だ。

 そんな折、台頭した団体があった。賞金稼ぎ(ハンター)ギルドと呼ばれる団体だ。

 その名の通り、警察の手に余る犯罪者に懸賞金をかけ、所属している賞金稼ぎ(ハンター)に賞金首を捕縛させることを目的とした団体だ。

 近年、急速に発展している賞金稼ぎ(ハンター)ギルドは、警察と肩を並べるほどにまで勢力を拡大し、ディライトの平和を担う組織として注目されている。

 そんな賞金稼ぎ(ハンター)ギルドの底の底、C階級に位置しているのが、ハンターネームJ(ジェイ)。ジョンという男だった。




 時刻はPM12:00を過ぎた辺り、ジョンはA地区の商業地域の大通りに車を走らせていた。

両脇には飲食店や物販店、さまざまな彩り豊かな店が立ち並んでいる。

 ジョンは車内に付属されているラジオで若者の間で流行っているらしい音楽を流しながら、目的の大手ハンバーガーチェーン店に向けて車を走らせていた。


 「こんなのが流行ってんのか……今?」


 アイモンに『このアルバムが現代の若者(キッズ)の間で流行ってる曲だぜ。俺様初めて聴いたとき新しい世界へのトビラが開いたね!最高にHiで最高にイカしてるからさぁ聴いてみてくれよ!成層圏ぶち破るほどぶっ飛ぶぜ!聞き終わったら感想ヨロ〜』

 なんて言われて押し付けられたCDだが、肌に合わないというか、耳に合わない。ラップに区分されるであろうその曲は、ジョンの知らない現代用語のオンパレードでまったく理解できなかった。

 若者の流行に触れてみたいと言ったのはジョンだが、ハイセンス過ぎてついていけない。

 常時、脳内麻薬を分泌させているようなヤツのお気に入りだ。そんなイかれたセンスにジョンがついていけないのは自明の理だろう。

 別のCDを取り出し、再生。

 流されたのは一昔前のロックバンドの曲だった。


 「やっぱこれだな。歌詞がストレートに心に響くっていうか、なんていうか」


 一人リズムにのり呟く。


 周囲からはおっさんとか言われるがまだまだ27歳で若い方だと思う……。老け顔だし、センスが古臭いのは自覚しているが、まだまだ流行の波に乗れるような歳だろう。今度はあいつ(アイモン)以外から聞いてみるか。


 ――――なんて、内心で呟いた。




 最寄りの駐車場に車を停め、徒歩で向かう。

 グランディア大陸の中枢都市なだけあって、さまざまな種族が入り乱れている。妖精人、鬼人、獣人、人間、etc……。さまざまな国の名産、文化が混在するため観光客は後を絶たない。

 それらの人混みを避けながら、角を曲がる。


 ドンッ!


 「おっと、すまん」


 腹部に軽い衝撃が走った。少し足がもつれるも立て直す。

 視線を少し下げると、子供が尻餅をついていた。染みが入ったボロボロの布を目深に被っており、顔や種族は伺い知れない。


 「ほら、掴め」


 手を差し出し、立ち上がらせる。


 「す、すみません……」


ソプラノの声から少女のようだ。軽く礼をして、スタスタと小走りに人混みのなかに消えていく。


 「スラムの住民か……」


商業地域であの身なりはよく目立つ。15年前にディライトで起きた未曾有の大災害。D区を壊滅させたそれは今も色濃く爪痕が残っている。その被災孤児だろう。あれを考えるだけで気分が悪くなる。先ほどの少女のことを他人事だとはとても思えなかった。


 「お、おい、兄ちゃん」


 トントンと肩が叩かれる。


 「ん?なんだ?」


 振り返ると、緑色の肌に髭を生やした土人(ドワーフ)がいた。ジョンの背丈の半分ほどの土人はやられたな、と言いながら憐れみの視線を向けてくる。


 「やられたって……まさか!?」


 「そのまさかさ」


 ロングコートの外ポケットをまさぐるも、在るべき物の感触がない。


 「お、俺の……サイフが……」


 感傷に耽っていたせいで失念していた。スラムの実情は治外法権に等しい。毎日のように血が流れ、毎日のように争いが勃発している。あの身なりで警戒しておくべきだった。

 このままじゃ腹を満たすこともできない。


 「あ、あんの……クソガキッ」


 サイフにはC級ハンターライセンスも入っている。あれを失うと、再発行まで途方もない時間がかかる。賞金首を仕留めても賞金は貰えないので、空腹で野垂れ死ぬ羽目になるだろう。

 銀行の口座はつねにカツカツだ。再発行までこのままだと持たないだろう。

 土人に感謝を告げ、踵を返し走り出す。


 「待ちやがれぇ!」


 その怒声で周囲の目が奇異の視線を向けてくるが気にしない。これは死活問題だ。ジョンは冷や汗を流しながら人混みをかき分け、少女の元へ向かう。





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