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ルナソルの魔封城  作者: TIEphone Studio
第一章 フォージア編~俺こそが、かつて魔王を封印した張本人…勇者だよ~
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第二話 世の中って不公平だと思わない?

 そうして俺たちはレグウスの警備担当区域に到着していた。

 俺にとってはいつもより数十分早い到着になるので、更に早く来ている連中の気が知れない。


「この暑さでよくそんな格好していられるな」


 今の季節は夏であるため、日中の温度はかなり高い。それなのに横にいるヴァルは黒のフードと仮面を付けており背中には弓まで背負っていて、見るからに暑そうだ。


「ん?まあ、慣れているからな」

「どんな生活をしたら慣れるんだよ」


 それこそ溶岩湖や砂漠で過ごさないと、この暑さを乗り切ることなんてできないと思うが。もしや、何らかの魔法を使っているのか?

 訝しんだ俺はヴァルの周りを鋭い目つきで調べるが、特にそういう類はないようだ。


「ふむ」

「?」


 やがてヴァルと共に集合場所に着こうとしていると…。


「⁉」


 突然後ろから刀を振り下ろされた。だがその攻撃が俺に届くことはなく、振り向いた顔の目と鼻の先で刃先は寸止めされていた。


「危ないじゃないか。萃那」

「いつも遅刻寸前に来ている貴方が私より早く到着していたので偽物かと思いまして」


 そんな嫌味を言いながら見下すように笑う彼女の名前は兎梁とばり 萃那すいな。いつも何かと突っかかってくる容姿端麗の友人だ。

 肩に届かない程度に切られた水色のショートヘアは艶があるし、肌は透き通るような色白。個人的には性格が可愛くない奴だが、その美貌は周りから評判である。


 金目当てでレグウスに入団してくる者とは違い、代々剣士を輩出しているまっとうな家系の末裔で、レグウス屈指の実力者だ。当然、彼女も能力者である。


「ヴァネットさん、おはようございます」

「おはよう」


 ヴァルと挨拶を交わした萃那は憐れむような笑みを俺に向け…。


「でも、まあ。あの程度の攻撃を避けられないということは本物ですね」


 俺を嘲笑うような笑みを浮かべた彼女は鞘に刀を収める。


「…馬鹿にしているのか?」

「それ以外あります?貴方もレグウスの自覚をもって鍛錬してください。いつレテーズ川の水が干上がるかわからないんですよ?」


 そう言ってこちらを覗き込んでくる彼女から俺は目を逸らしながら…。


「努力ってする必要ないと思うんだ」


 と、半笑いを浮かべた。


「したこともない人が何言ってるんですか」

「おっしゃる通り」


 すかさず萃那が冷静なツッコミを入れ、ヴァルが隣で首を縦に振る。そこは否定してくれ、親友だろう?


 しかしよく考えてほしい。努力はした分だけ報われるものじゃないのだ。むしろ報われないことのほうが多いだろう。

 時折、「努力をしても報われないのは当然」だとか、「努力をしてない奴は敗者にすらなれない」だとか、綺麗ごとを並べている奴らがいるが、そいつらに言わせてほしい。つまりそれはギャンブルと同じなのではないかと。当たることもあれば、外れることもある、努力が報われることもあれば、報われないこともある。明らかにイコールである。


 別に努力をするなとは言っていない。あくまで他人に強制されてする必要はないと言っているんだ。ギャンブルで絶対負けない方法を知っているか?ギャンブルをしないことだ。よって俺は努力をする必要はないと思っている。


 ただ、こんなことを言ったところで罵られるだけなのは目に見えているので、俺は不服気に口を閉ざした。


 レグウスでは成績が重要視されている。理由は、好成績の者に与えられる称号にある。勇者の称号と言って好成績を残したものには、勇者としてフォージア外に出る権利が与えられる。

 魔物に支配された大地を奪還するために勇者になるは人々の憧れの的であり、レグウスに所属しているほとんどはそういう憧れを抱いた者たちなのだ。


 しかし成績の基準がかなり高いということもあり、前勇者が排出されて以来勇者の称号をえたものはいない。

 …ん?あぁ、前勇者が排出されて以来勇者の称号を得た者がいないのは当たり前か。


「今からでも遅くありません。ヴァネットさんや私と共に勇者の称号を目指しましょう!」


 そう言って目を輝かせる萃那。


 見てわかる通り、こいつもその例外ではなく根っからの真面目ちゃんだ。

 今期の成績はヴァルに次いで第2位。俺の148位とは比べ物にならない程の高順位だ。勇者の称号の成績ボーダーラインも超えているので、このままいけば勇者の称号を獲得できる可能性が高い。


 容姿端麗、運動神経抜群、上級家系、そしていずれは勇者の称号…ふむ、不公平な世界である。


 成績優秀な者同士通じるものがあるのだろう。初対面の時から萃那はヴァルの容姿に臆した様子なく接している。


 俺たちはレグウスの担当区域が一緒であるため、2年の期間を一緒に過ごしてきた。とはいえヴァルにここまで打ち解けている奴はそうそういない。人付き合いの良い奴だ。

 俺以外には性格も良いだと!?お前神様に好かれすぎだ。


 俺は心の中で長~い溜息を吐きながら、萃那の誘いに答える。


「無理だ。努力は嫌いなんだ」

「はぁ、ヴァネットさんは何故こんな人を親友にしているんですか」

「それは…」

「俺が優秀だからだろ。彼は仲間思いの俺の性格に惹かれてしまったのさ☆狭霧マジック☆」


 大嘘である。


「…まあ、否定はしない」

「嘘でしょ!?」


 予想もしなかった答えだったのだろう。ヴァルの言葉を聞いて萃那は目を見開いた。


「ふっ、魔法は得意でね」


 さらに嘘を重ねる。


「ヴァネットさん、貴方洗脳されているんですよ。屈魅 狭霧。戦闘成績最下層、ピンチになったら仲間を置いて逃げるうえ市民さえも囮に使う。ずる賢く、どこにでも沸く典型的なクズ。そのくせ何かとしぶとく生き残るし、他の隊員のことも話術でダメ人間にしてしまう。例えるならもはやそれは癌細胞!」

「酷くない?」

「…まあ、否定派しない」

「嘘だろ!?」


 ヴァルの言葉に萃那は両手を腰に当て、ドンという効果音が似合うほどにドヤ顔を浮かべる。

 これでも市民のために尽くしているのに、まったく酷い言われようである。


「まさか狭霧さん、ヴァネットさんにパーティー誘ってもらおうとなんてしてませんよね?」


 勇者の称号を得た者はパーティーを組むことが許されている。そのメンバーは勇者の称号を得ていなくてもよいため、俺がヴァルにあやかって勇者パーティーに入ろうとしていると思ったのだろう。


「まさか、この俺がそんなことするわけないだろ。死にたくない」

「もはや生存意欲の権化だろ」

「まだ実質的な被害が出ていないから黙認されていますが、貴方の行動は市民を危険に晒しているんですよ?」


 萃那は鋭い目つきでレテーズ川の反対岸にいる魔物を睨みつけた。


「いつこの川が干上がってもおかしくない。そうなったら私たちは奴らと交戦しなければならないんです。」


 釣られてレテーズ川に視線を向ける。

 なるほど、確かにレテーズ川の水位が下がっている。

 反対岸に見えるのは強力な魔力を持った魔物たちばかりだ。レテーズ川を越えられない魔物とは人類は交戦したことがないので、勝てるか危うい。

 この河岸を防衛しているレグウスも所詮は低級の魔物を狩っているだけの、名ばかりの戦闘員だ。ヴァルや萃那などの実力者を除くレグウスメンバーが上級の魔物に対抗できるとは到底思えない。だからこそ勇者の称号は成績上位者にしか得られないのである。


「私たちはきっと奴らに勝てない。だからこそレテーズ川が健在なうちに腕を上げる必要があるんです」


 お前は余裕で勝てると思うが…自己肯定感の低い奴だ。


「そうか、頑張れ。俺は如何にしてさぼっていくかを研究するとしよう」

「貴方は努力の方向性が間違っているんですよ」

「努力することに間違いなんてあるか」


 そんなことを言った瞬間ヴァルが驚いたように、こちらに視線を向けた。

 止めろ、ヴァル。仮面越しでも伝わるぞ。なんだ、その目は。


「…上手いこと言ったと思いましたか?」


 俺のことをジト目で睨みながら唇を尖らせる萃那。実際にそんな仕草が似合う奴を、俺は彼女以外で見たことがない。こいつが真面目じゃなかったら、もしくは俺が真面目だったら他の男同様に惹かれていただろう。


 上目づかいでこちらを覗き込んでくる彼女に俺は淡い笑みを浮かべて…。


「ちょっと思った」


 と、その視線から逃れるため顔を背けた。


 その時、俺のベルトに視線がいった萃那が目を丸くした。腰のあたりを指差しながら、次第に目を尖らせる。


「貴方また武器をナイフしか持ってきてないじゃないですか!」

「あぁ、俺の相棒だ」


 そういって俺は手でナイフをくるくると回す。次第にその速度は上がり、残像が見えるくらいの高速でナイフを弄ぶ。


「そんなことばかり上達して。そんなんじゃ、魔物狩れませんよ」

「ヴァルだって同じだろ」

「弓があるだろうが」


 背中に背負っている弓を見せつけてくる。普通のものではなく、かなり高価なものだ。魔族特効の魔力付与まで施されている。


「確かにそうですがヴァネットさんはそれ相応の実力があるんです。私は知っていますよ。戦う気はないけど武器は持たないといけないから、逃げるときに邪魔にならないように小さな得物を選んでいること」

「…はて?」


 とぼけたようにわざとらしく首を傾げる。


「図星じゃねぇか」

「貴方はただでさえ魔力も少ないんですから、武器ぐらいきちんと持ってください。能力の響きは一貯前なのに」


 俺の能力は魔力を吸収する能力だ。これは歴代最強と呼ばれた勇者、ヒバ・ロベリアと同じ能力名である。


「でも相手から奪い取るじゃなく、殺した相手や、空気中に漂っている微小な魔力を集められるだけだろ。ヒバの能力は相手から直接吸うことができたらしいから、完全に劣化版だな」

「そうなんだよね」


 俺の能力で得られる魔力は本当に少なく、満足に魔法すら打てない。ただでさえ魔力を殆ど持っていない俺にとっては正直外れの能力だ。

 主に持つことのできる魔力の量は、その者の実力に比例する傾向があるので、明らかに名前負けしている。

 おまけに勇者と同じ能力名なんて恥ずかしい限りだ。


「お前魔力不足なんだから、もう魔力を摂取する能力に改名しろよ」

「うわ、なんか一気にダサくなりましたね」

「嫌だわ」

「だったら、ちゃんとした武器を持ってください」


 そんな会話をしていると他の戦闘員たちも到着し始めた。

 やがて司令塔から担当交代の指令が下る。それと同時に俺たちはレテーズ川のほうに歩を進めた。


「私たちはレテーズ川が干上がるまでに倒さないといけないんですよ」


 いつになく真剣な表情をした萃那は言葉を紡いだ。

 その視線の先には少し盛り上がった丘があり、奥の風景を隠している。

 俺たちは知っている。その丘の先、萃那の視線が何処に向けられているのかを。


「この地を人類から剥奪した…」


 歩を進めると共に目の前にある小さな丘に隠れていたそれは姿を露わにした。それを確認した萃那は目に睨みを利かせる。


「あの城に封じられた魔王を」


 萃那の視線の先には魔王城に束縛された魔王の化身、魔竜ルドベキアがその巨体をうねらせていた。


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