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ルナソルの魔封城  作者: TIEphone Studio
第三章 ヴァンパイアフォレスト編 ~封印された災厄妖怪リアドロレウス~
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第二十八話 ロミヤとの再戦

 先に動いたのはロミヤの方だ。

 両剣を高速で回転させながら、その身体ごとに突っ込んでくる。


 俺はその斬撃を回避しながら、前方にしゃがみ込んだ。飛び掛かってきたロミヤの身体を自分の背中に乗せ、後方に受け流す。

 そしてロミヤが地に足を着ける前のタイミングで、後方からくる斬撃をノールックで回避してみせた。

 その勢いに身を委ねて前方に飛び込み、再びロミヤと距離をとる。

 後方を薙いだ両剣に手応えを感じなかったロミヤも同様に距離をとった。


「今の避けられるんだ」


 短い滞空時間内で、背中合わせになっていた相手から繰り出された斬撃を回避することなど不可能に近い。

 それにロミヤは、頭部は体勢を低くされて回避されることを前提に、足元を狙って両剣を薙いだのだ。

 両剣の軌道を確認してから回避する時間すらもなかったはずであった。

 …俺でなければな!


「後方斬撃読み、回避読み、時間差頭部攻撃読み、頭部回避読み、足元攻撃の回避なんてお前の実力を知っていたら誰でもできる」


 嘘だ。俺ぐらいしかできないぜ。


「つまり私がシンプルに頭部を薙いでいたら殺せていたってこと?」

「そうだな」


 けろりと言って見せたが嘘である。

 念を入れて頭部には右手でナイフを、胴体には斬撃が振られないように左手で柄の軌道を邪魔する準備をしていた。

 無数の攻撃パターンを読み、全てに対応できる最善の行動を叩き出す。

 俺が一番得意とする戦い方だ。


「後方攻撃読み、回避読みの時間差頭部攻撃読み、頭部回避までは読んでいたんだけどなぁ」

「この心理戦を織り交ぜた戦い方、俺の得意分野なんだよなぁ」

「ふ~ん、ならこれはどう?」


 その瞬間、ロミヤの背中から5本の、蛇のような姿をした触手が姿を現した。

 それらはそれぞれに意識があるかのようにこちらに向って威嚇する。

 その触手、まさか…。

 驚くのも束の間、次の瞬間そのうちの一本が突進してきた。

 本物の蛇のように口を大きく開き、俺目掛けてその牙を振るう。


「!」


 寸でのところでそれを回避し、ロミヤと繋がっている蛇の胴体部分にナイフを薙ぐが、触手は煙の如く斬撃を透過させた。


「なに⁉」


 切られた部分は瞬時に妖力となって霧散し、ロミヤの背中から新しい頭が復元される。

 ロミヤの妖力によって顕現された触手だからか、それ自体への攻撃は意味を成さなかった。


「へえ」

「ほら、次行くよ」


 ロミヤの合図で二本目、三本目と、次々と触手が俺目掛けて刺突してくる。


「面倒な奴を相手しちまったらしいな」


 俺は自身の妖力を凝縮させ薙刀を顕現させる。

 ロミヤの攻撃を薙刀で薙ぎ、触手は一時的にその形態を崩した。

 どうやらダメージはなくとも攻撃を無力化することは出来るらしい。

 しかし…。


「はずれ」


 その刹那、後方から何かが俺の背中を強打した。


「ヴッ‼」


 ロミヤからの攻撃、それを回避することに集中したことにより周りへの警戒が薄れていたらしい。激痛が身体を駆け巡り、一瞬体勢を崩しかけるがすぐに踏み止まり転倒を避ける。


 一体何が…?

 後方を確認すると、そこにいたのは一本目の触手の頭部側であった。

 ロミヤから切り離されてもその身体を保てるのか。

 俺は瞬時に立ち上がり、その蛇の頭を切り裂いた。

 そうすると妖気となって霧散する。


「…なるほど、さてはお前、八岐大蛇の眷属だな?」

「なんだよ、それ。知らないよ。私、昔の記憶持ってないから」

「お前もかよ」

「記憶がなくて途方に暮れていたところをラジアンに拾ってもらった。彼に拾われなかったら一生独りぼっちで生きていくところだった」


 ロミヤはそこで初めて悲しそうに俯いた。


「能力を解除すればいいじゃないか」

「…私は能力を制御できない」


 なるほど、お前も苦労してるんだな。


「祓い屋である彼は妖怪である私を見逃してくれた。だから私は彼に使えている」

「祓い屋?ラジアンは祓い屋なのか?」


 初耳である。


「元だけどね。知らなかった?彼は昔、祓い屋仲間に裏切られて、そいつに復讐をしようとしているの。そいつに私の家族も殺されたらしいけど憶えてない。だから私たちは祓い屋狩り。妖怪を守る存在。強力な妖怪がいるほどそいつはその退治に駆り出されることになるから、そこを狙うのがラジアンの作戦」

「そして、そいつはかつてティモリヴァを封印していると…」

「そうだよ」


 なるほど、かなり合点がいってきたな。


「ラジアン率いる妖怪の軍勢“妖魔夜陰”。私たちは数年前に姿を消した最強の祓い屋、岸翅 優魔を探している」


 つまり、岸翅 優魔は元ラジアンと同じ祓い屋。かつてティモリヴァをラジアンと共に封印し、その後ラジアンを裏切り行方不明。

 よって鬼将山でラジアンが探していたのは岸翅 優魔ということが確定し、草薙の剣を持っていたのも、萃那の父を殺したのもそいつということになる。


「そのせいでフォージアに妖怪が一定数入ってきていたのか…」


 霊歌の説明の時の疑問が解消された。


「正解。フォージアに侵入した妖怪はすぐに連絡が途絶えるから、そこに奴がいると思っていたんだけど…流石に私を探知するのは不可能みたいで会えなかったんだよね」


 恐らく妖怪を払っていたのは霊歌だろう。岸翅 優魔はフォージアの住民リストにすら載っていない神出鬼没な存在だ。


「それでティモリヴァを復活させる作戦に出たわけか」

「うん。それで3年ぶりに岸翅 優魔を誘きだすことができたんだけど、あの日から妖魔夜陰の軍勢の大半から連絡が取れなくなった。奴が全員払ってしまったのかもしれない。だから残った私が頑張らないと」


 ロミヤは再びその目に闘志を燃やした。

 両剣をグッと握りしめ、今に居もこちらに飛び掛かってきそうな勢いだ。

 そんなロミヤを見て、俺は後ろ髪を掻いた。


「お前はそれでいいのか?」

「どういう意味?」


 ロミヤの闘志が一瞬消えた。

 すかさず言葉を続ける。


「ただの駒として使われて生きていくなんて、俺には到底耐えられないものだがな」

「それは君の価値観。どれだけあいつが嫌いでも、私はラジアンがいないと独りぼっちだから」

「俺がいるじゃん」

「…」


 一瞬、辺りが沈黙に包まれ、ロミヤが目を丸くした。いつもの目の奥が死んだ目ではない。

 あれ、おかしいな。こんな雰囲気にするつもりじゃなかったのに。

 俺はロミヤの目に灯ったハイライトを見逃さないように…。


「俺は人間より耳がいいんだ。ラジアンがお前に向けた言葉。あれは俺がちょうど3年前ぐらいに狭霧に向けていた喋り方とよく似ている。トーン、発声、響かせ方、速度。しばらく使っていた俺だからこそわかる。あいつはお前に一切情なんてものはない。お前は奴に利用されているだけだ。あいつについて行く意味なんて…」

「そんなこととっくの昔から知っている」


 俺の言葉を遮ってロミヤが言葉をつづる。


「確かにそうだよ。でもラジアンに付く理由がないのと同じくらい、君に付く理由もない」

「…」


 俺はそれに返す言葉が見つからなかった。

 結局、俺には理解できないことなのだろう。

 記憶喪失なうえ、誰からも認識されることのない生活がどれほど苦しかったか。妖怪と祓い屋、その関係を超えて自身を生かしてくれたことにどれほど感銘を受けたのか。


 俺は先ほどの言葉を軽い気持ちで言い放ったことを少し後悔した。

 俺からしたらなんてことない一言。それでもロミヤにとっては違った。例えるなら大金持ちからした硬貨一枚と、貧乏な人からした硬貨一枚。そんな当たり前の価値観の違いに俺が気づかなかったこその言葉だった。


「それに妖怪を守るのは個人的に好きなの。例え誰からも感謝されなくとも」


 そう言ったロミヤの目は、気付けばいつも通りに戻っていて…。


「もうお喋りはいいね。私も本気で殺しに行くよ」

「そうかよ」


 俺は今一度その薙刀を強く握りしめた。


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