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ルナソルの魔封城  作者: TIEphone Studio
第二章 鬼将山編~鬼将山を救いに行こうかい~
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第二十一話 十色の思惑

 私こと風霜 燐火は狭霧を抱えて戦線離脱を試みていた。

 狭霧の傷はかなり重症、今すぐにでも処置をしないと助かる見込みはない。それなのに…。

 私はティモリヴァに見下ろされていた。

 足が動かない。昔の記憶が私の身体を強張らせる。


「鬼族見つけたぞ!お前らなど我らの憎しみの強さに比べればゴミ同然だ」

「くっ!」


 動け、動け!死にたいのか私!全身の力が抜け、狭霧の身体ごと私の膝は地に落ちた。

 だがどれだけ自分に訴え掛けようがこの身体は動かない。


「昔年の恨み果たさせてもらおうか」


 そうしてティモリヴァが攻撃を振るう瞬間、私の耳に聞き覚えのある声が響いた。


「誰がゴミだって?」


 その声は私の目の前から聞こえる。誰だ?この声の主を私は知っている。いつか聞いたことのある声。

 顔を上げると、そこにはティモリヴァの目の前に堂々と立つ黒衣を纏った男が立っていた。


「え?」


 気づけば狭霧の身体もない。


「彼は安全なところに避難させた」


 私の思考を読んだかのような返答。


「…貴方、誰⁉」

「俺か?ただの通行人Mこと岸翅 優魔だ」

「ゆうま?」


 聞いたことがあるような、ないような…。


「下がっていろ。ここは元より危険地帯だぜ」

「う、うん」


 強者感を纏う有無を言わせない声色。私は大人しく地下シェルターのほうに向かった。


 ▲  △  ▲

 

 燐火が避難したことを確認した俺こと岸翅 優魔はティモリヴァに向き直った。

 彼も力を取り戻しつつあるが、あの怪我では到底こいつには勝てないだろう。


「困るんだよね。ルナソルへの不法入国は」


 そう言うと、ティモリヴァは高笑いをして言った。


「あ?お前何様のつもりだ?この俺に勝てるとでも思っているのか?」

「勝てるさ」


 俺は間髪入れず、奴の問いに返答する。


「何を言うかと思えば、この災厄とも呼ばれたティモリv…ぐあっ‼」

「不思議なんだが、どうして喋っている間は攻撃されないと思っているんだ?」

 俺は奴の身体に強烈な拳を放っていた。かなり効いたようでティモリヴァはその部分を押さえて悶絶する。

「お、おのれ~!」

「!」


 追撃をしようとしていると、背後から声を掛けられる。


「やあ、優魔」

「アトリア…」


 箒に黒いとんがり帽子というThe魔法使いな衣装をしていた彼女に俺はその名前を呼ぶ。久しぶりに見たが、変わっていないようで何よりだ。


「もうその名前ではないわ。あとは任せて、貴方はすぐに戻って」


 俺の事情を知っている彼女はそう言ってほうきに跨ってティモリヴァに接近する。


「ああ、助かる」


 彼女はほうきで上昇しながら呪文を唱え始め、彼女の周りに巨大な魔法陣が構築される。


「Spica, Please lend me your shine to dispel your regrets」


 ティモリヴァは周りを飛ぶ彼女に光弾を放つがどれも避けられてしまう。


「また小賢しい魔法使いか!」

「ええ、貴方を殺す失星の魔法使いよ。Bright Virgo‼」


 その瞬間、魔法陣から巨大な光線が射出され、ティモリヴァはそれに消し飛ばされた。


 ▲  △  ▲


 私ことゼロ・ラジアンは萃那の攻撃から転移魔法で逃れ、ティモリヴァを遠くから眺めていた。ティモリヴァの強さを知っている奴なら必ずここに来るはずだ。


「ふふ。さあ、現れろ。その時がお前の最期になる」


 そうして私の待ち望んだ奴は現れた。


「来た!」

「お前だな。ティモリヴァの封印を解いたのは」


 不意に背後から声を掛けられた。鬼族の集団だ。私がティモリヴァの封印を解除したのも知れ渡っているようで、とんでもない殺気がこちらに寄せられている。


「おっと、これは大勢で…」

「想定外か?」

「貴方はティモリヴァの方に行くと読んでいましたが」

「そうだろうな。さて、死ぬ覚悟はあるんだろうな?」


 流石にこの数は分が悪いな。


「悪いですが、私にはまだしなくてはいけないことがありますので、ここは大人しく撤退させてもらいます」

「逃がすかよ!」


 童次がこちらに突進してくるが私は転移魔法でそこを去る。


「ふん、かの勇者め。お前のことは絶対に逃がさない。どんな手を使ってでも探し出してこの手で始末してやる!」


 ▲  △  ▲


 俺ことヴァネット・サムは認識阻害の彼女との交戦で消耗していた。

 あれから一向に反撃が出来ない。彼女のような攻撃パターンは初めてだった。相手を崩して、崩して、絶対に反撃できないタイミングで攻撃。

 体力も集中力も低下し、ただの消耗戦と化している。このままでは確実に負けるのは俺だ。もう殆ど力も残っていない。


「頑張ったね」


 気が付けば、彼女はすぐそばまでやってきていて、下げていた頭を撫でられた。反撃しても避けられるだけだろう。無駄な体力は使いたくないし、なによりこの間は体力を回復できる。だからこそ俺は彼女に頭を撫でられることを拒むことはしない。

 言ってしまえばこれは彼女の舐めプだ。


「何のつもりだ」

「人間ってこういうの好きなんでしょ」

「…そうかもな」


 その時…。


「おい、撤退だ。行くぞ」


 後方からラジアンの声が聞こえた。萃那から逃げてきたのか。それとも始末したのか。しかしもうそれに反応する気力すらない。


「はい」


 そうしてラジアンの元へと行く彼女。俺はそんな彼女の後姿に…。


「殺さないのか」


 と、振り返った。


「なんで?」

「次またお前を邪魔するかもしれないぞ」

「次があるなら君を殺しはしない。君は弱いし、私の事を憶えていてくれるんでしょ」

「忘れはしないだろうな」


 こんなボコボコにされて…、と心の中で付け足す。


「なら君は生かそう。精々次までに力をつけておけばいいさ」

「いいのか。お前を倒しちまうかもしれないぞ」

「…」


 そう言うと彼女はこちらにまた戻ってきて、俺の頬を両手で引っ張る。


「いたたっ」

「お前じゃない。私は祓い屋狩りの妖怪、ロミヤ・グラファス。私は君を生かした。故に私は君の恩人だ。敬意を払え」


 そう言ってロミヤは頬から手を離した。


「またな」


 それだけ言って彼女は闇夜に姿を消した。

 俺はその場に倒れ込む。

 祓い屋狩り。近年、祓い屋の殉職率が増加していたのはあいつのせいか…。

 そりゃ、勝てねぇわ。俺以外には認識さえできないんだから。


 ▲  △  ▲


 私こと兎梁 萃那はラジアンとの交戦を終えていた。

 奴は私に敵わないと悟ったのか転移魔法で姿を消してしまったのだ。


「あ…あああぁぁあ!」


 その事を理解した瞬間、私は膝から崩れ落ちた。持っていた刀を落とし、地面に頻りに拳を打ち付ける。

 殺せなかった。逃げられた。

 私はどんな顔向けで彼の元へ行けばいい?


「萃那?」


 不意に後ろから声を掛けられた。籠目の声だ。

 …籠目の声?どうしてここに彼女がいる?籠目はフォージアで魔物と戦闘していたはず。 

 急いで振り返るとそこには確かに籠目がいた。二人とも心配そうに私の事を見つめている。


「籠目ちゃん、あのね…狭霧さんが私の事を庇って…それで…」

「だから私が来たんだよ!」

「え?」


 無理やり籠目に立ち上がらされた私は、彼女に引かれて走り出す。


「私に残っている魔力を全部渡して、彼を治療する!」


 意図を察した私はその手から魔力を譲渡する。

 回復魔法には大量の魔力が必要だ。だからこそ籠目の魔力だけでは彼の治療が間みあわないのだろう。

 狭霧のもとに辿り着いた籠目は瞬時に魔法陣を展開する。


「どれくらいで治る?」

「舐めないで!萃那の他に鬼族全員総勢2000名から魔力を貰っているんだよ。最大出力なら一瞬だよ!」


 その瞬間、手のひらサイズだった魔法陣が巨大化する。

 そして…彼の傷はみるみる癒えていって…。


「萃那!」


 その瞬間彼が飛び起きる。私は彼に駆け寄る。


「狭霧さん、ごめんなさい!私のせいで…」

「あ…萃那。いいんだ。生きているんだし…」


 狭霧はそう言って籠目に視線を移した。その目はいつもより冷ややかで、口は笑っているのに目は笑っていない。


「そうか、お前が助けてくれたんだな。でも、どうしてここに居たんだ?」

「…」

「なあ、教えてくれよ」


 沈黙を貫いた籠目に狭霧は追問する。


「それ以上は聞かないでほしいな。助けてあげたんだから」

「…そうだな。じゃ、誰がティモリヴァを倒したんだ?」

「さあ、見ていなかったから」

「…そうか、残念だ。籠目。とってもな…」


 ▲  △  ▲


 その後俺ことヴァネット・サムは籠目の回復魔法によって助かった。今は一人でロビス・サムこと父親の墓参りをしている。狭霧と二人きりで話したが…。


「狭霧…すまなかった」

「何のことだ?」

「お前のこと…」

「あ、良いんだ。別に籠目が助けてくれたから」

「…」

(でもあいつ本当に何のことで謝っていたんだ?)


 俺の事を思ってか、あいつは気にしていないように振舞ってくれた。本当にあいつは根が優しい。

 まだ打ち明けられていないことが沢山ある。だからこそ、俺はあいつについていくことにしよう。

 あいつの全ての記憶が戻った時、俺たちはまだ…親友でいられるかな…狭霧。


 その時、俺の目の前にどこからともなく少女が出現して…。


「お前がヴァネット・サムか」


 俺は何者かに包囲されていた。否、なんとなく予想はつく赤の印。SDだろう。


「…誰だ」

「私はSDスピカ。お前は完全に包囲されている」

「ほう」


 こんなに接近されるまで気が付かないとは…。

 しまったな。ここは狭霧から離れすぎている。あいつの魔力探知に引っかからない。


「さあ、選べ。私たちの計画に協力するか。ここで死ぬか…」


 彼女はそう言って不敵な笑みを浮かべた。

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