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ルナソルの魔封城  作者: TIEphone Studio
第二章 鬼将山編~鬼将山を救いに行こうかい~
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第十七話 鬼将山奪還作戦

「これがこの山の地図だよ。今私たちのいる場所がここ。そして聖雷の薙刀は頂上にある七天塔の最上部だ」


 燐火、七天塔は現在地表に埋まっているとのこと。七天鬼の血を引くものが近づけば自動的に姿を現すらしい。

 燐火が広げた地図には鬼将山の全体像が事細かく刻まれていた。ここからは初めてここに来た俺たちが登山をするのにも困らないだろう。


「やけに古いな」

「ここ数年は外にすら出れてすらいなかったから更新の仕様がないんだよ」

「それもそうか」


 地図の至る所に記されている名前の殆どに、旧という漢字が直筆で付け加えられている。今では使えなくなった外の建物群だ。


「聖雷の薙刀は鬼将山の三大神具の一角。七天鬼の血を引く私でないと触れられない。だから私も戦闘に同行するよ。これは3年前の惨劇で唯一所在が分かっている。他の二つ、どんな魔物でも封印できる鋼牢の盾、代償を払えばどんな願いでも叶う天秤の壺は未だ行方不明だ」

「願いが叶う?なんでもか?」


 天秤の壺の切埋に真っ先に食らいついたのは俺だった。

 どんな願いでも叶う。そんな魅力的な謳い文句どこにでもあるわけじゃない。


「代償が伴う。己にとって一番大切なものが壺に封印されるんだ」

「…」


 代償を支払えば、願いが叶う天秤の壺。それが見つかれば俺の記憶を戻すこともできるかもしれない。


「二つとも破壊されていないのは確かだ。破壊されれば鋼牢の盾は封印した魔物が復活するし、天秤の壺は願いと代償が全てリセットされることになるからね」

「ある程度の場所の目星もついていないのか?」

「鋼牢の盾は魔封洞に、天秤の壺は鬼神祭壇にあったはずなんだけど…二つとも行方が分かっていないんだよね。て、まさか壺使おうとでも思ってる?」

「まあ…」

「止めておいた方が君のためだと思うけどね…」

「ここですか」


 萃那が指をさした先にあったのは魔封洞と書かれた洞窟だった。

 俺たちが昇ってきた山道を更に上った先に位置しているようだ。


「うん、そこは古来より立ち入り禁止エリアなんだ」

「俺らの中では鬼将山自体が立ち入り禁止エリアだけどな」

「さらに危険ってことだね」

「何があるんですか?」

「魔物が封印されている。鬼族は鍛冶の他に魔封術に精通しているんたんだ」

「過去形?」

「うん、ここ数十年使える者も現れていない。ただ歴史だけが残っている」

「この洞窟に封印したのがその昔の鬼族ってことですか?」

「うん。でも、話すと長くなるから、今の君たちには急がないといけない理由があるんだろ」

「その通りだ」


 不意に背後からヴァルの声が聞こえ、咄嗟に魔力探知を解いたままだったことを思い出す。


「ヴァル」


 燐火はヴァルを見て一瞬固まったが、すぐに我に返り…。


「…よくも…来てくれたね」


 そう言って彼女は笑みを浮かべた。


「ああ…」


 ▲  △  ▲


 俺たちの作戦は単純だ。燐火を山頂まで援護して神具を取り戻す。

 だがそれが3年間できなかったのは鬼将山が危険地帯指定されていたためだろう。鬼族の苦手なカプリトミムスを対処できる人間がこの地に足を踏み入れなかったのだ。

 恐らく俺たちが来なければこの先何年待ってもここに人間が来ることはなかっただろう。一般人から見ればそんな危険な場所。俺たちにしか救えない場所だ。

 当然のように童次は参加していなかった。相対しただけでわかる彼の実力は本物だ。だからこそ共闘ができないもが残念極まりない。


 地下シェルターを出たとたん、大量の魔物が俺たちを包囲した。どうやら待ち伏せしていたらしい。

「魚にしては上出来だ」

「ええ、三枚おろしにしてやります」

「萃那、俺の後ろに居ろ」


 俺は萃那の方に手をまわし、強引に後衛に下げる。

 またも萃那は不服そうな表情を浮かべたが、俺は気づいていない振りをした。


 こいつらは幾ら数が多くても俺たちにとっては取るに足らない相手だ。そう思っていても、無意識に萃那を守ろうとしてしまうのは何故だ?

 怪我人だからという理由だけではないだろう。

 脳裏に病室で見た記憶の中の萃那(に似た人)の顔が過る。

 間違いなくあの記憶が影響している。過去の俺が何かを訴えかけている。その理由がわからないからこそ、今の俺にはこれしかできることがない。


「ええ、構いませんよ。ピンチになったら背中を蹴飛ばしてでも助けてあげます」


 そう言って俺の背後にぴったりとくっつく萃那。


(その優しさで何を守っているつもりなんですか…)


「そりゃ、どうも」


 そうして俺たちは一斉に武器を構える。


「さあ…いっちょ、鬼将山を取り返しに行こうかい!」


 その言葉を合図に俺たちは一斉に走り出す。

 頂上にある七天塔を目指して…。


 ▲  △  ▲


「どうやら彼らは上手くやってくれているようですねぇ」


 遠目から彼らの動向を観察していた私はニヤリを笑みを浮かべる。


 まさか鬼族が生きていたとは想定外だった。

 これならば容易く奴を誘きだすことができそうだ。この復讐劇に終止符を打つ。


「さあ、昔年の恨みをここで晴らさせてもらおうか」


 ▲  △  ▲


 3年前、私たちこと鬼族の住処鬼将山は魔族の攻撃を受けた。

 突如現れた魔物の集団。私たち鬼族は奴らに成す術がなかった。


「お父様、お父様!」

「燐火…七天鬼の最高位、雷天鬼をお前に継承する…」

「なんで…私は…」

「今やお前たち二人が唯一の七天鬼の血族だ」

「でも…私…」

「燐火、私は戦えとは言わない。死者の遺言など、残された生者にとっては払拭できない呪いのようなものだ。死者の言葉で自分を殺す必要などない。ただ生き残れ。七天鬼の血を…鬼族の血を絶やすな」

「それは誰からの遺言?」

「さあな…忘れてしまった。お前も忘れていいぞ。私のことなど…忘れて…くれ」

「…」

「私はお前たちが生き続けてくれ…さえ…すれ…b」

「お父様?お父様!」


 ▲  △  ▲


 戦闘を始めて数十分山頂に近づくほど魔物の数は増えていき、俺たちは手数で押され始めていた。

 所詮は低級の魔物。しかし燐火にとっては違う。鬼族にとっては一撃でも致命傷になるレベルの攻撃だ。


 どんなに強い者でも相性の有無はある。ヴァルも明らかにいつもより動きが鈍い。しかし彼は元の戦闘能力が高いためこいつらには一切苦戦していない。


「魔物の数が多くなってきましたね」

「やはり奴らもあの薙刀がこちらの手に渡るとまずいことを理解しているのだろう」


 その時、轟音が鳴り響き、地表が揺れだした。

 なるほど、こうして七天塔が出てくるのか。

 頂上近くに7本の塔が爆音と共に地表から姿を現した。目測200メートルほどの高さをもつそれらは、ただでさえ標高の高い鬼将山から更に空に近づく。


「頂上までは?」

「あと数十メートル!」

「了解!このまま押し切れ!燐火を援護しろ」

「はい!」

(待っていて、お父様。3年ぶりに会いに行く!)


 幾ら相性が悪くても燐火も中々の手練れであることは動きでわかる。さすが七天鬼の血族と言ったところだ。

 俺たちが周りの魔物を倒し、燐火は自分の身は自分で守っている。彼女にとってやつらの光弾を避けるくらいはお手の物だった。

 すいすいと攻撃の合間を縫って突き進んでいく。


「見えた!あの一番でかい塔のてっぺんだ!」


 燐火の目線の先には石造りの巨大な塔が立ち並んでいる。その中でも一際目立つ塔。あの頂上に聖雷の薙刀が刃を上にして立てられていた。


「萃那!」


 目を見合わせただけで燐火の意図を察した萃那は手を組んで燐火の前に出る。萃那に向って助走をつけ始めた。恐らく萃那を踏み台にジャンプする気なのだろう。


「私を選んだ貴方の判断は正解ですよぉ‼」


 そうして燐火の足が萃那の手に触れた瞬間…。


「ふん‼」

「っ⁉」


 轟音と同時に燐火の姿が消える。


(はっ…早っ‼)


 間をおいて、燐火が消えたわけでなく途轍もない速度で放たれたということを理解した。


 空気を裂く音が辺りを駆け巡る。


「萃那…早すぎだよ!」


 高速で放たれた燐火は一瞬で塔の中腹を超え、頂上近くまで打ち上げられていた。

 上昇速度が弱まったところで燐火は外壁の装飾を掴み、窓から中に侵入する。


「燐火が鬼族でなければ死んでいたぞ!」

「鬼族なんだからいいでしょう!」

「おい、奴ら燐火を狙っているぞ。ここで阻止しろ」

「はいよ!」


 カプリトミムスは空を飛ぶことができるが、突進攻撃の時以外は鈍い。

 そのためヴァルたちの光弾で容易く撃ち落とすことができた。


「狭霧さん手伝ってください!」

「うるせぇ!」


 俺が魔力を殆ど持っていないことを知っての上の言動なのだから頭にくる。


「まずい、一匹やり損ねた!」

「何⁉」


 見ると確かにカプリトミムスが一匹燐火に接近している。

 ここからでは光弾は届かないうえ、萃那の大ジャンプは鬼族だからこそ耐えられたものだ。俺たちでは即座にあそこまではいけない。


「やばいぞ!」


 その時、空ばかりに気を取られていた俺たちは、不意に近づいてきたそいつに気が付かなくて…。

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