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ルナソルの魔封城  作者: TIEphone Studio
第一章 フォージア編~俺こそが、かつて魔王を封印した張本人…勇者だよ~
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第十四話 スピカの思惑

 ドン!という音が鳴り響いた瞬間、私ことスピカの視界には萃那は存在しなかった。ほんの一秒も目を離していない。それなのに彼女は私の視界から完全に消え失せていた。


 目に映らなくなるための最低速度はマッハ4.1。目測だが彼女の能力で出せる速度は時速300㎞程度。私の目に映らないわけがなかった。

 瞬時に上空を確認するがどこにも萃那の姿はない。否、もしかしたらもっと上に…。

 その思考が頭に浮かんだ直後、別の考えが脳裏を過る。


『今それを見せてあげましょう。私の跳躍力を』


 跳躍力、その言葉によって私は潜在的に上だと予測してしまった。しかし、彼女はいない。つまりあれは私に、上空に行くという先入観を持たせるためのブラフ。上空を探させ少しでも時間を稼ぐための…。

 萃那が時間を稼ぐ理由なんて“あれ”しか…。

 私が後方を振り返ったその瞬間、私の首元に刀が伸びてきて…。


 私こと兎梁 萃那の斬撃は空を切った。

 完全なる意識外からの不意打ちだったはずなのに、直前にスピカは私の刀を、身を翻すことで回避していた。


「くっ!」


 ここで攻撃を止めてはいけない。少なくとも今のスピカは私の速度を捉えられなかったことで動揺している。彼女の平常心が戻るまでは時間が掛かる。

 だからこそ私はもう一度その瞬間を見定める。彼女が瞬きをする一瞬を。


 瞬きに要する時間は0.1~0.15秒。それだけの時間があれば最高秒速83mの私にかかれば物理的に瞼で見えない時間内に8mの距離を詰められる。

 そしてスピカは先ほどの私の宣言で、目で捉えることだけに集中して剣をしまっていた。それにより彼女は魔法を撃つことができない。

 緊張や驚いた瞬間など瞬きの回数は増加する。そのため剣を取らせるよりも早くこの攻撃を振るえば、私は彼女の攻撃手段をなくすことができる。

 距離を稼ぐことだって不可能。スピカより私の速度のほうが早いからだ。

 だからこそ今、スピカは攻撃を避け続けることしかできない。


「ルナソル破戒【天羽々斬り(あめのはばきり)】」

「あっ!」


 高速の8連攻撃の中、スピカの足が縺れた。

 私はその瞬間を逃さない。スピカの視線が外れた瞬間に、彼女の腰にある魔剣を奪い取る。


「あ!ちょっ、待っ!」


 いくら実力があろうと、とっさの行動にミスが起こるのは同じ。いくら魔族であろうと、動揺すれば冷静な思考判断能力が失われるのも同じ。

 私は奪った魔剣を私の刀で破壊する。


「あ、え⁉」


 そしてなにより種族が違えど同じ人間であれば、予想外の出来事が起きた直後に思考が止まるのも同じなのだ。


「何のために改良したと思ったんですか。貴方の剣に勝つためですよ!」


 魔剣を破壊した影響か、私たちを囲っていた黒い霧が晴れ、元居た場所に帰還している。魔法使いとは自身の魔力を杖や剣、時には建造物を発射台にし、細かい魔力操作を行う。だからこそ、魔力を込めた物体が破壊されるとその魔法は機能を失う。


「ありゃま」


 ぽりぽりと頭を掻く萃那は笑みを崩している。


「これで貴方は最強の攻撃手段、私たちの拘束手段、そしてなにより彼の抑制手段を失いました」

「!」


 いつの間にかスピカの背後から彼女の首元にナイフをあてがう狭霧は、清々しいほどの笑みを浮かべている。


「サヴィたちは…」

「あいつらなんて、お前の魔法デバフがなけりゃ俺の敵じゃない」


 視線を飛ばすと奥の方で先ほどの騎士たちが倒れている。彼はバーゴを抜けてから十数秒で全員を薙ぎ倒してきたのだ。


「なんでお前が俺の拘束を命令されたかわかるか?俺が単体ではお前を倒すことができないように、お前単体じゃ俺を拘束すること“しか”できないからだよ」

「そりゃ、まいったね」

「言っただろ。ただの足手纏いなら俺はこいつを助けることなんてしない。なんなら今回は萃那が残ってくれなかったら一生あの異空間から出られなかった」

「相互扶助の関係ってわけね」

「言うならば、今回俺たちは運命共同体だった」

「ロマンティックな言い方~」


 この状況でもまだ笑みを作るスピカ。


「彼らは殺したの?」

「殺しはしてねえよ」

「優しいんですね」

「まあな、取引材料だ」

「ん?」

「お前らの情報全て吐きな。でなけりゃ奴らを一人ずつ殺す」

「怖~い♡」


 この子マゾなの?

 私がそんなことを考えていると…。


「萃那!」


 狭霧の声が響き渡り、彼に抱きかかえられ…次の瞬間、私の眼前を矢が通り抜けていった。

 一瞬で背筋が凍りつく。完全に警戒を解いていた。弾道が良ければ私を庇った狭霧に当たる所だった。

 瞬時に矢の来た方向を見ると騎士の一人が身体を半分だけ起こして弓を構えている。


「まだ意識があったのか、流石に死んだかと思った」


 真顔でそんなことを言う狭霧はその騎士に手刀を放つ。

 刹那スピカの拘束が解かれたことを思い出し、彼女に視線を向けるが、スピカはそこに立ち尽くしたまま私たちを見つめていた。

 ナイフから解放されたというのに、逃げも隠れもしない。ただただ私と狭霧を交互に見ている。


「え…今、矢が当たらなかったのはお兄さんが庇ったから?偶然外れた…わけないよね?」


 騎士を気絶させた狭霧は手を払いながらこちらに戻ってきて、スピカの状態に疑問を浮かべる。


「否、偶然だ。俺の速度ではあの位置関係で放たれた矢を避けることまではできない。良くて重症、悪くて死んでいた」

「え…お姉さんを庇って死ぬ気だったの?」

「死ぬ気はなかったが背中が痛むのは覚悟してたな。いくら萃那が速く動けても、とっさに最高速度が出る訳じゃないから」


 確かに私は矢が通り過ぎるまでその存在に気付かなかったし、一歩も動けていなかった。


「あ、ありがとうございます」

「気にするな。それよりお前どうした」


 狭霧はスピカに視線を移した。先程からスピカは何かを考えているのか呆然としている。

 どうしたのだろう、と私たちが呆けていたその瞬間、何かに気づいたスピカは目を見開く。


「待って、シャウラ!撃っちゃダメ!」

「⁉」


 蟀谷に手を当てたスピカの叫び声に反応し、俺たちは彼女の視線の方向に振り返る。100mほど先だろうか。あの弓使いの光がキラリと光っているのが見える。

 なるほど、奴はシャウラっていうのか。やはり星の名前…。スピカの言いようからもこれらは偽名と考えた方が良さそうだ。


 恐らくは通信魔法でも使用しているのだろう。この距離でも奴と会話をしているようだ。

 スピカが狙撃を制止した意図はわからないが、あの距離では俺の能力にも検知できなかったので、そのまま狙撃されていたら殺されていた可能性は大いにある。

 数秒後、狙撃を取りやめたのか矢の輝きが見えなくなった。


「何のつもりだ?スピカ…⁉」


 俺たちがスピカに視線を戻すとそこにもうスピカの姿はなかった。音もなく、彼女は俺たちが目を逸らした数秒の間に忽然と消えたのだ。


「悪いけど、撤退させてもらうわ」


 声のする方向に目を向けると、スピカは建物の屋根の上から俺たちを見下ろしていた。

 俺はそこに思いっきりジャンプをし、スピカの目の前に立つ。


「十八番かよ。俺がお前を逃がすと思うか?」


 俺の言葉にスピカは何も返さなかった。ただただ優しい笑顔でこちらを見つめている。その笑顔はどこか切なくて…俺の身体の緊張が解けていく。

 まずい、また警戒心が…。


「私の用事は済んだ。レテーズ川の回復も絶望的だしね。彼らも回収していくよ」

「何?」


 後方を見るとさっきまで、そこで気絶していたはずの騎士たちが消えていた。


「レテーズ川がなんだと」

「そのままの意味。どちらにせよレテーズ川が枯れるのは時間の問題だっただろうしね」


 俺に背を向けたスピカは振り返り、ウインクを向けた。


「…レグルス、また会いましょう。あわよくば二人きりで…ね♡」


 その刹那、何処からともなくあの馬車が出現した。スピカに手を伸ばす前に、俺の身体は御者に衝撃波で飛ばされてしまう。

 対策済みかよ‼前回の経験で俺を馬車から離す事を優先した攻撃。

 物凄い速さで宙を舞う俺にできることなどなく。その隙にスピカを乗せた馬車は急発進した。


「狭霧さん!」


 ジャンプをした萃那が空中で俺を捕まえてくれたおかげで、それほど遠くには飛ばされずに済んだ。

 しかし、そのころには馬車は遥か彼方に飛んで行っており、またも奴らを取り逃がす。


「サンキュ」

「はい。しかし、参りましたねえ。逃げ足の速さは狭霧さん以上です」

「ああ、お陰でまた逃がしてしまった」

「仕様がないですよ。それに今はレテーズ川がどうなっているかを…。」


 萃那がそう言いかけた時、不意に後ろから声を掛けられる。


「おい!狭霧、萃那」


 見ると、俺たちの元にヴァルが駆け寄ってきていた。タイミングがいいのか悪いのか。

 俺はヴァルの背中に視線を向けた。そこには普段から使用していない弓が背負われている。

 ヴァル、お前シャウラじゃないだろうな?

 悟られぬように無言で目を逸らした俺は、挨拶代わりに片手をあげた。


「ヴァネットさん。ご無事でしたか」

「ああ、変な奴に絡まれ、魔物と戦ったが一応な」


 そうだ、すっかり忘れていた。ヴァルが襲われた相手は恐らくポラリスだったのだろう。


「それよりルドベキアは?」


 ヴァルの発言に俺たちは揃って首を傾げた。ルドベキアは魔王城に拘束されているはずだが…。


「何のことだ?」

「⁉」


 ヴァルは俺のその発言に無言を返した。数秒遅れて…。


「否、何でもない」


 と、答えたヴァルは不服気だったが、ヴァルに不信感を抱いていた俺はわざわざ突っ込んだりはしなかった。


「レテーズ川は?」

「さぁな。一応魔物は大体固片付けてはいる、なんでも正体不明の助っ人がいるらしいからな」

「…ほう」


 正体不明の助っ人か…。


「レテーズ川をどうにかしなければフォージアはお終いだぞ」

「だがどうしようもないですよ…」

「その方法お教えしましょうか?」


 俺たちがそんな会話をしていた中、不意にそんな声が聞こえてきた。そちらに視線を向けると探検家のような恰好をした男が笑みを浮かべてこちらに近づいてきていた。

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