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ルナソルの魔封城  作者: TIEphone Studio
第一章 フォージア編~俺こそが、かつて魔王を封印した張本人…勇者だよ~
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第十三話 萃那VSスピカ

 俺こと屈魅 狭霧はスピカの領域バーゴに誘われた瞬間から、その異変に気が付いた。


「ふむ。盲目(視認可能距離低下)、黒い霧からの放熱、身体機能の低下、左足と右腕の感覚麻痺、ランダムな重力変化、警戒心の解除。デバフのオンパレードだな。」


 やれやれとお手上げのポーズをとると、隣にいる萃那が疑問符を浮かべる。


「え、私なんともないですけど」

「馬鹿は風邪をひかない理論だろ」

「…だと思うわ」

「否、恐らくた…ってぇ!」


 何かを言おうとした萃那は、途中で腹部を押さえ悶絶する。


「傷が痛むなら無理に留まる必要なかっただろ」

「否、これ傷が痛むって言うか…。まあ良いです。戦えはしますから」


 なんとか立ち上がった萃那はキッとスピカを睨みつけた。相反してスピカはニタニタと悪戯っぽい笑みを浮かべている。


「狭霧さん。どいてください」

「ん?」


 そう言って戦闘態勢に入る萃那は、腰から抜いた刀をスピカに突き立てた。

 周りに展開している騎士が武器を構えるが、彼女は腕を掲げることで待て、と合図した。それを確認した騎士たちは武器を収め、規律正しく直立を保つ。

 スピカもそれを見て、改めて自身の服装の乱れを直した。


「飛んで火にいる夏の虫けらね。蛾の火に赴くが如く、自ら彼の足手纏いになりに来て殺されるなんて」

「誰が足手纏いですって?」

「お姉ちゃんよ。お兄ちゃん単身なら私に勝つことは出来なくとも、死ぬようなことはなかったでしょうね。でも貴方がいると彼は貴方を護衛しながら戦うこととなる」

「…」

「なんなら彼単身のほうがまだ勝ち筋はあったんじゃない?」

「ねーよ」

「え?」


 萃那を嘲笑うスピカを俺はその言葉だけで一蹴した。


「俺だけじゃ恐らく、お前には勝てないだろうな。スピカ」

「狭霧さん」

「ま、こいつがいたところで勝てるかも怪しいが」

「ゔっ…」

「正直このデバフ、かなりきつい。でも、逆に言うと…」


 俺は顎を出し、嘲け顔でスピカを見下しながら…。


「ここまでやらないと勝てないくらい弱いんじゃないか?」

「…」

「何故か萃那はデバフも載ってないし、この戦闘においてはこいつのほうが戦力になるだろうな」


 精一杯の煽りを入れたがスピカは終始笑みを浮かべている。

 あの殺人鬼の時の様にはいかないか。


「でも、あなた一人ならこの魔法が発動しきる前に逃げられたんじゃないの?彼女を庇おうとする気持ちが貴方自身の回避反応を遅らせた」

「否、あの瞬間逃げられてとしても、投石以外の遠距離攻撃を知らない俺じゃ結局ここに来ることになっていたと思うぜ」

「なるほど」

「それに…この俺が足手纏いになるような奴を助けるとでも思っているのか?」

「ふ~ん。良かったね。お兄ちゃんに大切に思ってもらえてて」

「えぇ、良い友人を持ちましたよ。てことで、この女は私が殺します。狭霧さんは周りの騎士をお願いできますか?」


 殺気全開の瞳はまっすぐスピカを捉えている。今にも攻撃しそうな雰囲気を漂わせ、間合いを見定める。

 おっと挑発に乗せられているのはお前の方だったか。

 スピカは実力に自信があるのか余裕の笑みを浮かべている。後ろで手を組んで、構える様子は一切ない。


「お前一人であいつの相手をするのか?盲目状態だから助けに入れるか怪しいぞ」

「助け舟などいりませんよ。私のタイマン性能はピカ一です」

「あの殺人鬼に負けてたろ」

「ポラリスのことかな」

「そうか。あいつポラリスっていうのか」

「瞬間移動擬きをする彼でしょ」

「そうだな」


 ポラリス、スピカ。どちらも星の名前。なるほど、だからバーゴか。バーゴは翻訳すると乙女座のこと、スピカはそのα星だ。


「能力の相性の問題です。少なくともデバフ盛盛りの貴方よりは戦えますよ」

「ま、いいぜ。ピンチになったら死なない程度に助けてやるよ」

「安心してください。負けませんので」


 ▲  △  ▲


 私こと萃那はスピカと対峙していた。後方では狭霧が8体の騎士を相手にしている。幾ら彼でもこの状況下での戦闘はしんどいはずだ。だからこそ、この女は私が倒す。倒さなければいけない。


「何か言いたげね」


 心中を読まれたかのような発言に息を呑んだ。私は彼女の発言に不気味さを感じながらも、手に持った刀を前に出す。


「この剣に見覚えは?」

「ないわ」

「…これは私の父の遺品で…!」


 説明をしようとした瞬間、私はその攻撃魔法を条件反射で回避していた。右に大きく崩した勢いで前方回転をし、第二第三の攻撃を回避する。

 的を見失った光弾は、紫の輝きを放ちながら後方の地面に着弾し、大爆発を起こした。直撃すれば即死は必至。


 流石は赤級で生きてきただけある。刀一筋の私にはあんな威力出すのに20分はかかるだろう。攻撃魔法専門のレグウスでも数十秒の充填が必要、そんな攻撃を彼女は一瞬で何発も放っている。天晴としか言いようがない。


 やがて攻撃が止み、素早く立ち上がった私はスピカを睨み飛ばした。しかし、その攻撃魔法の威力故、砂煙で彼女の姿を捕捉できない。


「ずっと前から不思議で仕方がなかったの。いったい誰が相手の喋っている隙をついて、攻撃してはいけないと決めたの?」


 スピカは明るい笑みを浮かべながら、煙の中から姿を現す。その手には、いつの間にか顕現させた魔剣が握られており、こちらにまで届く禍々しいオーラを解き放っていた。


「ルナソルの掟を完全破戒した私たちには、戦闘においてそのような暗黙の了解など意味を持たない」

「…魔法剣士ですか」


 剣の種類からスピカの戦闘職を把握する。

 魔法剣士。剣を杖代わりに魔力を乗せ、攻撃力の増加や耐久性の向上を図ると同時に、遠距離魔法の対応を可能にする。また、剣から魔法を発することも可能だ。

 通常の剣なら、遠距離魔法を盾と同じ要領で防ぐことしかできないが、魔力を乗せた剣なら魔法自体を相殺することが可能である。

 しかし、物体に魔力を乗せるのには高度な技術が必要であり、それが可能な者ほとんどいない。実際、私も魔法剣士をみたのは彼女で二人目だ。


「杖は知恵の象徴、剣は力、武力の象徴」

「違います。剣は正義の象徴です」

「あら、私にピッタリね」

「正義の味方は不意打ちなんてしませんよ!」


 そう言い放つと同時に私は能力を発動し、スピカに高速で切り掛かる。寸でのところで身を翻して斬撃を避けたスピカは、私の顔面目掛けて右足で足刀を放ってきた。左腕でその蹴りを受け流すと同時に私たちは再び互いに距離をとる。


「どうやら、貴方も正義の味方じゃないみたいね」

「えぇ、私は彼の味方なので!それより、貴方の発言には矛盾がありますよ。現に今もですが、暗黙の了解なんて気にしないのなら私や狭霧さんとなぜあんなに会話していたんです?」

「…」

「貴方は本当に彼の足止めを任されただけのようですね。万が一にでも彼を殺してはいけない理由でも?」

「それは言えないわ。でも、それが貴方を殺さなくてはいけない理由よ。貴方が見たことのない最古の魔法を見せてあげるわ」

「なら、私は貴方じゃ見えない速度を見せてあげますよ」

「…それは是が非でも見てみたいわ。矛盾ちゃん」

「最初から飛ばしますよ!」


 その瞬間、私たちは同時に地を蹴る。

 私の能力で出せる最高速度は時速300㎞。魔族であり、かなりの実力者であるスピカにとっては捉えられない速度ではない。

 例にもよってスピカは私の攻撃に難なく対応していた。ただ流石に、移動速度には対応が出来ないため攻撃を避けるという点に関しては圧倒的に有利である。

 互いの刃がぶつかる度に火花が散る。その火が消えてなくなる間に、更に火花を散らす。そんな高速の攻防戦が繰り広げられる。


「ぐっ!」


 一瞬スピカの反応が遅れ、私の蹴りが彼女に炸裂した。防御魔法は間に合っていただろうが、負傷は免れてもその衝撃だけは防げない。

 スピカの身体が衝撃によって吹き飛ぶ。


「遅いんですよ!」


 私は彼女の着地点目に先回りし、着地狩りを狙う。しかし、それに気づいたスピカは空中で剣の鍔に魔法陣を展開し、こちらに剣先を向けた。


「遅いのは貴方よ!ルナソル破壊!【ハレーダストトレイル】」


 刹那私の頭上に閃光がほとばしる。突如としてスピカの剣先に顕現したその光弾は、眩い光を放ちながら地表に向って隕石の如く落下してきた。


「早」


 途轍もない速度で着弾した光弾は辺りに爆風を巻き起こし、その周辺に小規模なクレーターを作り上げた。

 軽やかに着地したスピカは一度魔剣を薙いでから腰に戻す。


「身体能力、主にスピード重視の能力のお陰で避けられないことはなかったはず、でも尾の速度の光弾を避けるには…上しかないよね!」


 上空を見上げたスピカは、天高く跳躍した私を視認した。

 1秒もかからずに地表に落下する光弾を避けるにはこれしかなかった。しかし、空中では身体の自由を奪われるうえ、斬撃の踏ん張りもきかない。次の攻撃次第では絶体絶命のピンチである。


「この空間に太陽はない、だからこそこの空は私の領域。だって、暗い空ほど星は良く輝いて見えるでしょ?」


 スピカから私目掛けて複数の光弾が放たれる。それを私は刀で薙ぎ払っていく。


「遅い…遅いわ!53年の早い貴方には、果たしてこれを避けられるのかしら?」


 珍しく険しい表情を浮かべたスピカは手の平に魔法陣を展開させた。

 それを天に翳すと更にその上に幾つもの別の魔法陣が展開され、それぞれの魔法陣を小さな魔法陣が歯車のように繋げている。やがて魔法陣が完成し、その上に周りから白い光が収縮していく。

 光が集まる度に魔法陣の輝きは増していき、やがて眼を空けていられないレベルに到達した。


「ルナソル破壊【ISON】」


 その瞬間、その光弾はものすごい速さで迫ってきて…。


「ルナソル破戒!【日軸公転斬ひじくこうてんざん】」


 私はその光弾を切り刻んでいた。身体を捻り、遠心力で刀を光弾に向って回転させた結果、私はその光弾を避けたうえで消滅させたのだ。


「切り刻んだ⁉」


 そういして私の身体は重力に従い落下し着地する。


「私今、輝いてましたよね!」

「…太陽の如くね。で、今なら聞いてあげるわ。その剣がどうしたの?」

「この剣は…」

「嘘よ」

「っ!」


 彼女の声が聞こえるや否や、私の身体は爆風によって後方に吹き飛ばされていた。


「ルナソル瓦解!【プレアデス精弾】」


 魔剣を薙ぐ動作で7つの青く輝く光弾を生成したスピカは、空を切る私目掛けてそれを放つ。


「っ!」


 その光弾は宙を舞う私の身体を見事に追尾し、着弾するたびに爆発を巻き起こした。

 地面に転がると同時に受け身を取るが、負傷を0にできないもの凄い衝撃。魔法が当たる直前に簡易バリアを張っていなかったらこの程度の傷では済まなかった。


「ぐっ!」


 地面に這いつくばる私の元にスピカは軽やかな足取りで近づいてくる。


「アハハ!二度も同じ手を食らうなんて馬鹿みたい」

「一度目です。先程は喰らっていませんから!」


 その瞬間、目の前で不敵な笑みを浮かべている彼女の足元に不意打ちを仕掛け刀を振るうが、瞬時に金属同士がぶつかる甲高い音が鳴り響く。私の刀はスピカの足首手前で、彼女の魔剣に遮られていた。

 当然のように私の斬撃を防いでみせた彼女は、こちらを見下ろしながら嘲笑う。


「自分が優位な時ほど冷静に、慎重に、そして何より狡猾に」


 その刹那、スピカは私の刀を足で地面に押し付け、暇になった魔剣を刀の柄を目掛けて振りかぶった。その意図を察するが打開策がないため、瞬時に柄から手を離しスピカと距離をとる。

 スピカは残された刀を足で蹴り上げ、落ちてきたところを軽やかにキャッチし…。


「サヴィ!持ってなさい!」


 と、仲間の騎士の一人に投げつけた。


「ハッ!」


 奥で狭霧と戦っている騎士は、数的アドバンテージを利用して交代で攻撃を行っているようで、スピカの急な威令にもなんなく対応する。

 狭霧のことを心配する余裕がない私をスピカは鼻で笑い飛ばした。

 彼の事は彼自身に任せる。こちらに来られないということは苦戦を強いられているが、狭霧ならば死ぬことはないだろう。


「さ~て、ここからどうするのかしら?」

「私の父の形見を無礼に扱ったことを後悔させてあげますよ」

「ああ、またその話ね」

「えぇ、貴方に殺されたはずなんですが憶えていらっしゃらないようなので」

「私が殺した?貴方の父が誰だか知らないけど酷い濡れ衣だわ」

「濡れ衣?御冗談を。その剣は世界に一つしかない草薙剣くさなぎのつるぎ。父の友人に聞いたんですよ。その剣をもった者に殺されたと」

「ふ~ん。でも残念!私じゃないんだなぁ、これが」

「あの刀は父の形見をベースに作ったもの、名前を天羽々あめのはばきり

「あら、相性の悪い刀」


 スピカの言う通り、私の父はその天羽々斬を彼女に自身の身体ごと切られた。

 私の元に戻ってきたそれは真っ二つに折られており、それを自分に合うように改良したのがあの刀だ。


「ま、貴方の事情は分かったわ。でも、その話は私ではない。それをどうにか証明しようかと思ったけど…」


 悩む素振りを見せたスピカはやがて笑顔でポンッと手を叩いた。


「よくよく考えたら貴方はここで死ぬからどうでもいいよね」

「⁉」


 とっさに戦闘態勢に入るが、刀を持っていない自分に彼女をどうこうできるとは思えない。出来るのは能力で体力が持つ限り彼女の攻撃を避け続けること。

 まずい状況だが…。

 チラリと私の刀を持っている騎士に視線を移す。

 あの刀さえ取り返せればどうとでもなる。


「私言いましたよね?貴方に見えない速度を見せてやると」

「?」

「今それを見してあげましょう。私の跳躍力を」

「馬鹿ね。それを言ったら警戒するだけじゃない」


 苦笑いを浮かべたスピカはどうぞ、と手で合図をして立ち止まる。腕組までして余裕の態度だ。だがそれは私にとって都合が良かった。

 私はその瞬間を見定め、力いっぱい地を蹴る。

 そして次の瞬間…スピカの視界から私の姿は消えていた。

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